何故か昔から九州地方の人間との縁がある。
居住地域は遠く離れているのに向こうから寄ってくる、という表現がピッタリくるように彼女の生活圏に集まっているのだ。
従って、必然的に付き合うのはその地方出身者 ということになる。

ある日○○○が勤めている会社に、やはり九州地方の支店からの研修生が訪れた。その中に○○○が弟の様に可愛がっていた研修生がいて彼の話す標準語に時折彼の地元の言葉が混じっているのを○○○は可愛いと密かに思っていたのだった。
同じ日本語とは思えないような、外国語のような、不思議で何か身体の奥深くに訴えかけるような響きをもつこの方言を○○○はとても気に入っていた。

結局その彼とは研修期間の終わりと共に○○○の勤め先と地元から去って行ったのだが、その後また別の九州地方出身者と出会った。
何がそんなに○○○の心を掴んだのかは全くもって解らないが、九州出身者への好ましい感情はこの先ずっと定着することになる。


時は経ち、隣家にまたもやその地方の者が引っ越してきた。彼、こと鯉登音之進は○○○より年下で当時まだ高校生だった。

彼が彼の両親と共に○○○の家に訪れた際、持参した地元九州の菓子を手土産にと○○○に渡すと、珍しいものをありがとうと言って微笑んだ彼女を見て彼は一目で恋に落ちてしまったのだ。
南男北女とはよく言うが、日本の北にはこんなに美しい女がいるのかと音之進は思った。

それからというもの音之進は、彼女に何を贈ればまたあの笑顔が見られるのかと思案するようになっていた。
そうでなくても彼の母親からのお裾分けなどのお遣いがあると進んで○○○の家へ行くようになり、その度に二言三言、慣れてくるともう少し長く彼女との会話を楽しむのが秘かな楽しみでもあった。

一方○○○はまた可愛い弟ができた様だと喜んでいた。
浅黒い肌に育ちの良さそうな端正な顔立ち、時折混じる薩摩弁であろうか、それが○○○にはとても魅力的に映った。

朝家を出る時間が重なると、彼は前の道路で○○○が来るのを待ち、途中まで一緒にそれぞれ会社と学校へ行くこともあった。
その様に自分を慕ってくる彼を弟として可愛いと思い、彼女もまた彼と会話するのを楽しみにしていたのだった。
時々わからない言葉が出てきても外国語の手解きを受けるように少しずつ覚えて行くようになって○○○も音之進もそれは楽しいひと時であった。