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甘蜜の痕、即ち独占欲


「……へー。で、おいしくいただかれたわけだ」
「だから言い方」
「まーいんじゃね? どうぞお幸せに」
「……くそ、まさかバレるなんて……」
 はああ、と頭を抱えてため息をつく。
 すると、米屋があ、と声をあげる。
「でもさ、お前ヤバくね?」
「何が」
「いや、今日一限体育じゃん。着替えの時にぜってー見えるぜ、キスマーク」
「…………あ」
 着替えは、もちろん個室などではなく男子更衣室で行う。好奇心旺盛なクラスメイトたちに見られでもしたら、きっと質問攻めにあうだろう。
「独占欲強い彼氏がいると大変だなあ」
 他人事の米屋の言葉に、出水はがくりとうなだれた。
「くっそ、あんにゃろ……!」
 もう痕は消えないが、せめて文句を言わないと気が済まない。
 スマートフォンのメッセージアプリを開いて、二宮とのトーク画面を開く。
『二宮さん、なにしてくれてんですか!』
 そうメッセージを送ると、すぐに既読がつく。
『何の話だ』
『キスマーク! 俺今日体育あるんですよ!』
 怒っているキャラクターのスタンプを連打する。
『お前のほうこそ背中に傷つけただろう』
『わざとじゃないです!!!!!』
『だろうな。ぐずぐずだったからな』
「~~~~~~~~~っ!」
 さらりと言われて顔が羞恥に塗れる。
『とにかくもう痕つけるの禁止で! 次やったらマジで怒りますからね!』
『お前は痕つけられると喜ぶのにか?』
「へー、お前つけられんの好きなの?」
 トーク画面をのぞいた米屋が口を出す。
「勝手に見んな槍バカ!」
『お前はモテるんだ。牽制くらいさせろ』
 二宮のあからさまな独占欲が、嬉しいけれど恥ずかしい。
 そこで、チャイムの音が鳴り響く。
 もう着替えの時間からは逃れられない。せめて目立たないように更衣室の端っこで着替えよう。
 最後に怒っている猫のスタンプを送って、画面をオフにする。
「……はあ、行くぞ」
「なあ、脱いだらもっとキスマークついてるとかないよな?」
「……ない、と思う」
 その予想はむなしくも外れ、痕は上半身だけでなく太腿にまでも及んでいた。
 それを見たクラスメイトが『出水にはメチャクチャエロい彼女がいて、主導権は彼女が握っている』と噂をするようになったのは、当然の結果だった。
 数日後、ボーダー本部で二宮をポカポカと叩いて怒る出水と、全く動じない二宮の姿を目撃した米屋は、出水の学校の写真とか送ったら二宮さん何かくれるかな、と知恵を働かせるのであった。
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