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甘蜜の痕、即ち独占欲


『……すき、です』
 ぽつりと、口から零れた言葉。
 それに、二宮は目を見開いた。
『あっ』
 しまった。言うつもりはなかったのに。そう思った時にはもう遅い。
『……』
『ちが、違うんです、あの』
『出水』
『っ』
『その好きは、どういう意味だ。人間としてか? それとも恋愛での意味か』
 人間として、と言えば今までの関係は保たれる。
 でも、自分でも顔が赤いのが分かる。きっと、今、表情を見ればどうしようもなく二宮に焦がれているのはわかってしまう。
『……れ、恋愛的な、意味っす』
 二宮の顔を見るのが怖くて、目をつむる。
 無言が怖い。気持ち悪がられたかもしれない。もう、仲のいい師弟関係には戻れないかもしれない。
 それでも、嘘はつけなかった。
『……出水』
 二宮の手が、出水の頬に触れる。
『こっちを見ろ』
 恐る恐る目を開くと、いつもと変わらない顔の二宮がそこにいた。
『……冗談じゃ済まされないぞ。本気か?』
『ほ、本気っす……』
『憧れを勘違いしてるんじゃないのか』
『それはない、です……に、二宮さんと、キスする夢とか見るくらいには、好きです……』
 どさくさに紛れて自分の欲望をぶちまけてしまった。
 ああ、くそ恥ずかしい。死にたい。
『……ならしてみるか?』
『え?』
 二宮の顔が近くなる。
 唇に柔らかいものがあたり、視界が二宮で覆い尽くされる。
 キスをされているのだと気づいたのは、唇を食むように奪われてからだった。
『んっ、んんっ……!』
 あつい、息ができない、苦しい。
 なんだこれは。しらない。こんなもの、理解ができない。
 出水が想像していたのは、もっと触れるだけの、ソフトなものだった。
 それがこんな、食べられるようなキスは、知らない。
 酸素を求めて二宮の胸を叩くと、ようやく解放された。
『っ、にのみやさ、なにして』
『惚れさせる手間が省けた』
『は!?』
 二宮の言葉が理解できない。惚れさせる手間?それだと、まるで。
『何すかそれ、二宮さん、俺のこと好きなんすか!?』
『そうだ』
『なんっ……!?』
 嘘だ、嘘だ。あの二宮が出水のことを好きだなんて、信じられない。
『冗談やめてくださいよ! 俺のことからかってるんすか!』
『冗談やからかいでキスができるか』
 再び二宮の顔が近づく。
『信じられないなら、何度でもしてやる』
『あ…………う……』
 また、唇を奪われる。
 今度は優しくて、触れるだけの優しい口づけ。
『出水、好きだ』
 唇が離れて、ゆっくりと抱き締められる。
 ゼロ距離の二宮から、ふわりとシトラスの香りがする。
『……夢、みてー』
 どくどくとうるさい自分の心臓の音を聞きながら、出水は呟いた。
『言っておくが現実だからな』
『う、だってさ……二宮さんが俺のことすき、とか……』
『俺だって驚いてる』
 二宮が出水の顔を胸に押し付ける。
 そこから聞こえる鼓動は、出水と同じく、ひどく高鳴っていた。
『……ふは、心臓の音、うるさ』
 二宮の人間らしいところが見れて、酷く嬉しい。
 出水は二宮の胸に身体を預けて、深く息を吸った。
『俺、今日から二宮さんの彼氏?』
『そうなるな』
『じゃあ、キスとかハグとか、いっぱいしていいってことっすか?』
『……それだけで足りると思ってるのか』
『へ?』
 二宮が出水の腰を優しく撫でる。
『覚悟しておけよ、出水』
 出水の手を引いて、二宮が歩き出す。
『今日のところは帰してやるがな』
『えっ、ちょっ、どういう意味ですか、二宮さん!』
 人生で初めての恋人繋ぎは、ひどく温かかった。
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