ロイヤルミルクティーおかわりし放題と君

ロイヤルミルクティーおかわりし放題と君

「ヒュースおまたせ〜……って、もう食べてる」
「ん……遅いぞ、迅」
「そりゃおまえの分まで会計してたからね……あ、それ期間限定のチョコのやつだ」
「甘くてうまい」
 今日は特にやることがなかったので、ヒュースとふたりでドーナツショップに来た。陽太郎は午前中に遊びすぎて疲れて寝ている。しっかりとお土産のドーナツは買っておいた。陽太郎の好きな卵黄と砂糖でできた粒粒でコーティングされたチョコドーナツだ。
「はい飲み物。急いで食うと喉に詰まるぞー」
「む……そんなヘマはしない」
 ヒュースはそう言いながらロイヤルミルクティーを受け取る。迅はカフェオレだ。ちなみにヒュースはコーヒーが飲めないというかわいらしい弱点がある。
「ん……これも初めて食べる」
「あーそれも期間限定のコラボのやつだよ。ほら、顔ついてるだろ」
「……陽太郎と一緒に見たアニメで見たことがある気がする……」
「うん、当たり。モンスターと一緒に戦うやつね」
 そう言いながら迅はカスタードが入っているドーナツを食む。とろりと甘いクリームが舌の上で踊った。
「うん、うまい」
 選んだドーナツはふたつ。カスタードクリームドーナツと共にコーヒーを飲みきって、迅は席を立った。
「カフェオレおかわりしてくる。ヒュースは?」
「……? おい迅、財布を忘れているぞ」
「あ、そっかヒュース知らないのか。ここ、カフェオレとコーヒーとロイヤルミルクティーはおかわり自由なんだよ」
「!? 金が追加でかからない、ということか……!?」
「そうそう。もちろん店内で食べるの限定だけどね? ……ってうわあすごい一気飲み!」
 ヒュースはドーナツをふた口で食べ、マグカップを一気に煽った。そして、迅に白のマグカップを突き出す。
「早くおかわりを持ってこい」
「ねえヒュース、おまえドーナツ七個買ったけど、追加であと六杯も飲むつもり?」
「? 当たり前だ。早くしろ」
「……帰る前に絶対トイレ寄ろうな」
 マグカップを受け取って店員のところに持っていく。店員はにこやかな笑顔であたたかいカフェオレとロイヤルミルクティーを注いでくれた。それを持って二個目のドーナツを食べているヒュースの元へ戻る。
「はいどーぞ。熱いから気をつけて」
「ン」
 三つ目はストロベリーチョコがかかったものを選んだようだ。口の端にピンク色の破片がついている。
「ヒュース、ついてるよ」
「……ん」
 とんとん、と頬を指して指摘してやる。だが彼は食べることに夢中なようだった。
「あーもう、しょうがないなあ」
 ひょいと欠片を取って、自分の口の中に入れる。甘酸っぱいチョコの味が広がった。
 ヒュースはというと、そんな恋人らしいことをされたのに一切照れずにドーナツを食べ続けている。この前はとても恥ずかしがっていたのに。
「あれ? 変態って怒んないの?」
「……もう慣れた」
「なーんだ、怒ってるヒュースもかわいいって思ってたんだけど」
「……つまり貴様、いつもわざとオレを怒らせて楽しんでいるわけか?」
「あ、やば。ううんそんなことないよー」
「やば、と言ったな。今は食うので忙しいが、帰ったら覚悟しておけ」
 帰ったら拳骨一発では済まないだろう。サイドエフェクトでもトリオン体のヒュースに全力でボコボコにされている未来が見える。
「ねえ、もう一個明日の分のドーナツも買ってあげるから、許して?」
「……一個だけか?」
「……二個?」
「…………」
「三個!」
「いいだろう」
 ボコボコにされる未来が見えなくなった。ほっとひと息ついてカフェオレを飲む。
「おれの扱いがひどいなあ、ヒュースは」
「普段の行いの結果だ」
「いつもみんなのために奔走してるのに?」
「なら今ここでだらだらとドーナツを食べているのはなんだ?」
「それだけ平和ってことだよー」
 はぐ、と二個目のドーナツを頬張る。チョコドーナツにチョコソースがかけられたそれは、口の中に甘やかな幸せを運んでくれる。
「迅、おかわりだ」
 ヒュースがまた、マグカップを突き出す。自分で行く気はないらしい。これが共にいるのが陽太郎や他の玉狛支部のメンバーならば、きっと自分で行くのだろう。
 つまりこの行動は、迅への甘えに他ならない。
「……ほんとうにかわいいよ、おまえ」
 キスしたい気持ちを抑えてマグカップを受け取る。午後三時のデートは、まだ終わる様子を見せなかった。

1/1ページ
    スキ