あたたかな闇に誘うは
あたたかな闇に誘うは
眠い。どうしようもない眠気が襲ってきている。パーシヴァルはごしごしと目をこすった。
レイシフトが予定していたより長引き、そこでの長時間戦闘があった。ろくな休憩を取れないまま戦いは続き、やっとカルデアに帰ってきた時には朝だった。恋人と共に寝ようかと思ったが、規則正しい生活を心掛けている恋人はあと数刻で起きる時間。それに、彼が寝ているところにベッドへ入り込んでしまえば、起こしてしまう可能性がある。それは嫌だと思い、部屋でひとり睡眠を取った。
取った、のだが。
「ん……」
疲れてはいたのに、なぜかぐっすりと眠ることはできなかった。そして今昼食を摂って腹がくちくなったことで、眠気がやってきてしまった。しかしパーシヴァルは昼寝などあまりしたことがない。野営で火の番をした後に仮眠を取った経験がある程度だ。サーヴァントになってからは尚のこと経験はないに等しい。それくらい昼の眠気とは無縁だったのに、今はひどく眠たかった。
「私も、まだまだ未熟だな……」
部屋に戻ってもう一度睡眠を取ろうと足を進める。だが足はふらふらとよろめいてしまった。このままでは誰かにぶつかってしまう。壁に寄りかかって小さく息を吐いた。せめて、なにか支えがあれば。
そう思っていた時だった。
「おや、パーシー?」
パーシヴァルをそう呼ぶのはひとりしかいない。振り返ると、愛しい恋人が笑顔で立っていた。
「バート……」
「レイシフトから帰ってきたんだね、お疲れ様。……具合でも悪いのかな? よければ医務室に──」
壁に寄りかかっているのを具合が悪いと見たのか、バーソロミューが顔を覗き込む。
「いや……眠いだけ、だから、大丈夫だ」
「眠い?」
「帰ってから睡眠を取ったのだけれど、十分でなかったみたいで……」
「そうか、それはよくないな。君の部屋より私の部屋のほうが近い。ベッドを貸すから休んで」
「しかし……」
「いつも私のベッドに入るときは遠慮しないのに、こういう時は遠慮するのかい? 疲れている時には存分に恋人に甘えるものだよ、パーシー」
バーソロミューは軽口を交えながら、パーシヴァルの背をぽんと叩く。
「お姫様抱っこしてあげようか?」
「いや……それは、遠慮しておく……」
「ふむ、普段は私を無理やりお姫様だっこするくせに。じゃあ支えようか」
正直、バーソロミューの提案はありがたかった。こくんと頷くと、彼が身体を支えてくれる。それだけでも十分助かる。
彼の部屋に入って、バーソロミューがついたよ、と優しい声で語りかける。
「ほら、鎧を解いて?」
「ああ……」
鎧を魔力に変換して、上は黒のインナー、下は軽装のズボンだけになる。
「じゃあ、ベッドに横になって。ゆっくり休むといい」
大人しくベッドに入ったのを確認すると、バーソロミューはシーツをかけてさらりとパーシヴァルの頭を撫でた。
優しい表情が愛らしい。けれど、愛しいひとが傍にいるのに抱き締められないのはとてもさみしかった。
「……バートは、一緒に寝てはくれないのですか?」
口から零れた言葉は、甘えたい子どものそれだった。
「ん? 私と一緒に寝たいのかい?」
「あ、いや……すまない、わがままを……」
一体何を言っているのだろう、いい年をした大人が、夜ならまだしも、昼に添い寝をねだるなんて。恥ずかしさで顔がかあっと赤くなる。
「ふふ、さっきも言っただろう? 恋人には甘えるものだって」
バーソロミューも装飾品とベストを外して、ベッドに入ってくる。
「さあ、好きなだけハグをしていいよ。君、私を抱き締めたくて仕方がないって顔をしてるぞ、かわいい甘えんぼうさん?」
そう言って腕を広げる彼は、年上の頼りがいのある大人の顔をしていた。生きた時代はパーシヴァルのほうが先のはずなのに、彼は肉体年齢を持ち出して年上の顔をすることがたびたびある。当然、そんなところも愛おしいと思っている。
「バート……」
その言葉に甘えて、愛しいひとの身体をぎゅうと抱き締めた。あたたかな温もりが、心と身体を満たしていく。
「ああ、世界で一番安心するのは貴方を抱き締めている時だ……」
すん、と彼の香りを胸いっぱいに吸い込む。夏からつけ始めたというシトラスの香水の匂いが愛おしい。あまりにも傍にあることを望みすぎて、同じ香水を購入したのはつい最近のこと。それをバーソロミューに言ったら、香りで関係を匂わせるなんてちょっといやらしいぞ、と照れていた。彼はふたりきりの時はこれでもかと甘えて甘やかしてを許してくれるのに、他人にそれを知られるのが酷く恥ずかしいらしい。
「嬉しいことを言ってくれるものだね。私も君の腕の中が大好きさ」
まぶたが重たくなってきて、うとうとと瞬きをする。腕の中の温もりはどうしようもないくらいの安心感をもたらして、パーシヴァルを眠りに誘う。
「ばー、と……」
「ん? どうしたんだい?」
「あいして、います……おやすみなさい……」
最後の力を振り絞って、彼に口づける。おやすみのキスだけは、なにがあっても譲れない。
完全に目を閉じて、身体から力を抜く。意識を手放す直前、バーソロミューの私も愛してるよ、という幸せそうな声が聞こえた気がした。
眠い。どうしようもない眠気が襲ってきている。パーシヴァルはごしごしと目をこすった。
レイシフトが予定していたより長引き、そこでの長時間戦闘があった。ろくな休憩を取れないまま戦いは続き、やっとカルデアに帰ってきた時には朝だった。恋人と共に寝ようかと思ったが、規則正しい生活を心掛けている恋人はあと数刻で起きる時間。それに、彼が寝ているところにベッドへ入り込んでしまえば、起こしてしまう可能性がある。それは嫌だと思い、部屋でひとり睡眠を取った。
取った、のだが。
「ん……」
疲れてはいたのに、なぜかぐっすりと眠ることはできなかった。そして今昼食を摂って腹がくちくなったことで、眠気がやってきてしまった。しかしパーシヴァルは昼寝などあまりしたことがない。野営で火の番をした後に仮眠を取った経験がある程度だ。サーヴァントになってからは尚のこと経験はないに等しい。それくらい昼の眠気とは無縁だったのに、今はひどく眠たかった。
「私も、まだまだ未熟だな……」
部屋に戻ってもう一度睡眠を取ろうと足を進める。だが足はふらふらとよろめいてしまった。このままでは誰かにぶつかってしまう。壁に寄りかかって小さく息を吐いた。せめて、なにか支えがあれば。
そう思っていた時だった。
「おや、パーシー?」
パーシヴァルをそう呼ぶのはひとりしかいない。振り返ると、愛しい恋人が笑顔で立っていた。
「バート……」
「レイシフトから帰ってきたんだね、お疲れ様。……具合でも悪いのかな? よければ医務室に──」
壁に寄りかかっているのを具合が悪いと見たのか、バーソロミューが顔を覗き込む。
「いや……眠いだけ、だから、大丈夫だ」
「眠い?」
「帰ってから睡眠を取ったのだけれど、十分でなかったみたいで……」
「そうか、それはよくないな。君の部屋より私の部屋のほうが近い。ベッドを貸すから休んで」
「しかし……」
「いつも私のベッドに入るときは遠慮しないのに、こういう時は遠慮するのかい? 疲れている時には存分に恋人に甘えるものだよ、パーシー」
バーソロミューは軽口を交えながら、パーシヴァルの背をぽんと叩く。
「お姫様抱っこしてあげようか?」
「いや……それは、遠慮しておく……」
「ふむ、普段は私を無理やりお姫様だっこするくせに。じゃあ支えようか」
正直、バーソロミューの提案はありがたかった。こくんと頷くと、彼が身体を支えてくれる。それだけでも十分助かる。
彼の部屋に入って、バーソロミューがついたよ、と優しい声で語りかける。
「ほら、鎧を解いて?」
「ああ……」
鎧を魔力に変換して、上は黒のインナー、下は軽装のズボンだけになる。
「じゃあ、ベッドに横になって。ゆっくり休むといい」
大人しくベッドに入ったのを確認すると、バーソロミューはシーツをかけてさらりとパーシヴァルの頭を撫でた。
優しい表情が愛らしい。けれど、愛しいひとが傍にいるのに抱き締められないのはとてもさみしかった。
「……バートは、一緒に寝てはくれないのですか?」
口から零れた言葉は、甘えたい子どものそれだった。
「ん? 私と一緒に寝たいのかい?」
「あ、いや……すまない、わがままを……」
一体何を言っているのだろう、いい年をした大人が、夜ならまだしも、昼に添い寝をねだるなんて。恥ずかしさで顔がかあっと赤くなる。
「ふふ、さっきも言っただろう? 恋人には甘えるものだって」
バーソロミューも装飾品とベストを外して、ベッドに入ってくる。
「さあ、好きなだけハグをしていいよ。君、私を抱き締めたくて仕方がないって顔をしてるぞ、かわいい甘えんぼうさん?」
そう言って腕を広げる彼は、年上の頼りがいのある大人の顔をしていた。生きた時代はパーシヴァルのほうが先のはずなのに、彼は肉体年齢を持ち出して年上の顔をすることがたびたびある。当然、そんなところも愛おしいと思っている。
「バート……」
その言葉に甘えて、愛しいひとの身体をぎゅうと抱き締めた。あたたかな温もりが、心と身体を満たしていく。
「ああ、世界で一番安心するのは貴方を抱き締めている時だ……」
すん、と彼の香りを胸いっぱいに吸い込む。夏からつけ始めたというシトラスの香水の匂いが愛おしい。あまりにも傍にあることを望みすぎて、同じ香水を購入したのはつい最近のこと。それをバーソロミューに言ったら、香りで関係を匂わせるなんてちょっといやらしいぞ、と照れていた。彼はふたりきりの時はこれでもかと甘えて甘やかしてを許してくれるのに、他人にそれを知られるのが酷く恥ずかしいらしい。
「嬉しいことを言ってくれるものだね。私も君の腕の中が大好きさ」
まぶたが重たくなってきて、うとうとと瞬きをする。腕の中の温もりはどうしようもないくらいの安心感をもたらして、パーシヴァルを眠りに誘う。
「ばー、と……」
「ん? どうしたんだい?」
「あいして、います……おやすみなさい……」
最後の力を振り絞って、彼に口づける。おやすみのキスだけは、なにがあっても譲れない。
完全に目を閉じて、身体から力を抜く。意識を手放す直前、バーソロミューの私も愛してるよ、という幸せそうな声が聞こえた気がした。
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