遠乗りと秋桜

パーバソ ワンドロライ第五回 お題『騎乗』

遠乗りと秋桜

「おお……これは、なかなか……」
 ゆさゆさと馬の背に揺られる。彼に草原で共に馬に乗ってみてほしいと言われて、確かに現界してから馬に乗ったことがないことに気づいた。騎乗スキルがあるのにそれは勿体ないと思ったのですぐに頷くと、彼はその場でシミュレーターの予約をしに行こう、と連れて行った。そして、今。
 乗りこなせる。騎乗スキルのお陰で乗りこなせはするが、それと経験があるかどうかは別の話だ。生前も馬に乗ったことはない。きっとパーシヴァルが降りてもひとりである程度手綱を握ることはできるだろうが、それでも少し緊張した。
「ふむ……結構バランス感覚がいるね、これは」
「慣れればどうということはない。船を自在に操る貴方ならすぐに乗りこなせるさ」
「円卓の騎士様にそんなことを言われるなんて、光栄だな」
 バーソロミューはよくパーシヴァルをロイヤル・フォーチュンに招いた。彼は『貴方の居場所にいることを許されたようで嬉しい』と言っていたが、なるほど、確かに相手のテリトリーにいるというのは気分がよかった。
「ああ、もう少しゆっくり頼むよ。……愛しいひととの時間は、なるべく長くしたい」
 パーシヴァルが優しく馬に話しかける。馬はそれを読み取ったのか、人が歩くくらいの早さにスピードを落としてくれた。
「利口な馬だね。きっと飼い主に似たんだ」
「ふふ、ありがとう。この子も喜んでいるよ」
「触っても?」
「もちろん」
 白い馬の毛並みをさらりと撫でる。しっかりと手入れされているのがわかる、いい毛並みだ。
「いい子、いい子……」
「バート、今度私も褒めてはくれないかな? 貴方に褒められると誇らしい気持ちになる」
「私なんかでいいのかい? いくらでも褒めてあげるよ、優しくて強い円卓の騎士様」
 パーシヴァルの頭を優しく撫ででやると、彼は大型犬のように嬉しそうに微笑んだ。
「で、これはどこに向かっているんだい?」
「もうすぐ花畑がある。季節を秋に設定したので、コスモスが綺麗に咲いているはずだよ。ガレスに押し花のしおりを作りたいんだ」
「それはいい。私もお茶請けを分けてくれる子どもサーヴァントにあげる分を作ろうかな」
「貴方の手作りは、私も欲しい……」
「わかった、わかったよ。ちゃんと君の分も作るから」
 子どもをあやすようにしおりをねだるパーシヴァルに応えてやる。この恋人は結構強情でわがままだ。彼のわがままなところなんて、バーソロミューしか知り得ない。メカクレに匹敵する秘匿性がたまらなく嬉しい。
 やがて馬は白とピンクが咲き誇る花畑へとふたりを連れていく。シミュレーターとはわかっていても、絶景だ。
「おお……!」
「気に入ってもらえたなら、よかった」
 パーシヴァルはそう言うと馬から降り、バーソロミューをひょいと抱えて地面に下ろす。
「そんなことしなくても、ひとりで降りられるのに」
「貴方を大切にしたいんだ」
「君と一緒にいると、自分がひどく価値のある宝物になった気分だよ」
「バートは物ではないけれど──そうだね、とても大切な私の宝だ。なによりも美しい青、私の海、愛しいひとよ」
 流れるような手つきで手の甲にちゅ、と口づけが落とされる。それをしてもきざったらしくならないのがずるいと思う。
 最近はこの甘い言葉に慣れたと思ったのに、彼はそれを上回るくらいに愛を伝えてくるから、一生敵う気がしない。
「……大事にしてくれて、ありがとう」
 赤くなった顔を見られたくなくて、パーシヴァルの胸板に顔を押しつける。彼はバーソロミューを優しく抱き上げて、顔を隠させてくれなかった。
「どうか顔を見せて、愛らしい貴方。その海の青をいつまでも見つめていたいと思う私を許してほしい」
「~~っ、もう私の負けでいいから、降ろしてくれ……」
 パーシヴァルの馬は、いつまで経っても花を愛でようとしないで恋人に愛を注ぐ主人を見て、まるで親のようにため息をついた。
1/1ページ
    スキ