遥かな空で貴方は歌う

遥かな空で貴方は歌う

「もうこんなに高く……! すごいな!」
 狭い気球の籠の中で、バーソロミューが興奮している。アメリカ・アルバカーキ。ニューメキシコ州最大の都市にできた特異点で、バルーンフェスタが行われていた。パーシヴァルとバーソロミューはふたりでひとつの気球に乗った。それなりに体格のあるふたりが一緒に乗って果たして気球が浮くのかと思ったが、気球はあっさりと空へと飛んだ。
「見てくれパーシー! 気球がこんなに!」
「ああ、すごいね」
 空には同じくサーヴァントが乗った無数の気球が浮かんでいた。バーソロミューはいつもよりはしゃいでいる。彼は海賊だ。冒険・未知の経験に対して惹かれるのだろう。マスターの前では決して見せない幼げな顔を見せてくれるのが、どうしようもなく嬉しかった。これが彼がいつも言っている秘匿性というものなのか。
「ふふ、どこまでも高く……私の時代では人が空を飛ぶなんてありえなかったからね!」
「バート、あまり乗り出すと危ないよ。いくらサーヴァントでも落ちたら大変だ」
「わかっているとも。お、あれはマスターかな? とても楽しそうにしているね」
 マスターはマシュと乗ったはずだ。遠くにはしゃいでいるふたりが見える。
「ああ、死後に新しい経験をするなんて……! サーヴァントにもなってみるものだね」
 バーソロミューが遠くを見ようと身体を乗り出す。パーシヴァルはとっさにそれを腕で引き留めた。
「っ、バート!」
「むう、そんなに過保護にならなくてもいいじゃないか」
「貴方を空から落としてしまったら私は自分を許せない」
 バーソロミューの身体を解放すると、彼は籠のふちに手を置いて、空を眺めた。
「空は、君の色をしているから──ふふ、君に抱き締められてるみたいだ」
 そんな愛らしいことを言うので、パーシヴァルは後ろからぎゅうとバーソロミューの華奢な身体を抱き締めた。
「空に抱かれずとも、私はいつだって貴方を抱き締めるよ」
「ん、空に嫉妬かな? 清らかなる騎士様のそれは大歓迎だ」
「……心が狭くて、すまない」
「いいよ。本当に嬉しいんだ。……パーシー、とても気分がいいから一曲歌っても?」
「貴方の歌ならいつでも聴きたいと思っている」
「では、失礼して」
 バーソロミューがすう、と息を吸う。
「~~~~♪ ~~~~~~♪」
 紡がれた声は、やわらかく、やさしく、遥かな空に響いた。
 最初は気づかなかったが、曲はサビで気球のことを歌っていた。どこまでも、どこまでも遠く旅をする、空を往く旅人の話。
「~~~~~~♪ ~~~~♪」
 それに耳を傾けて、バーソロミューの身体を優しく抱き締める。彼は歌い終わると、パーシヴァルの頬に手を添えた。
「どうだったかな? 私のかわいい恋人さん」
「世界中のどの歌姫よりも素敵だった、私の愛しいひと」
「それはなにより」
 気球は地面から遥か彼方に飛び、ふたりを空へと留まらせる。
 パーシヴァルの瞳と同じ青の中で、ふたりは身体を寄せ合い、視線を合わせて笑い合った。


 
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