貴方を纏うものは
貴方を纏うものは
「貴方はとても服のセンスがいいと思う」
パーシヴァルはバーソロミューを膝の上に乗せながら、前から思っていることを口に出した。赤いズボンに飾り襟とベスト、色鮮やかな腰布、ふわふわとした肩についた装飾品と黄金の十字架、どれも彼によく似合っている。パーシヴァルの鎧は着飾るためのものではなく、戦いに特化した、バーソロミューとは対極的なものだ。清廉といえば聞こえはいいが、装飾があまりなくシンプルともいう。
「ふふ、伊達男には嬉しい誉め言葉だ。素直に受け取っておくよ」
バーソロミューは機嫌をよくして、パーシヴァルにぎゅうと抱きつく。ふたりきりの時は恥を感じることがないからか、存分に甘えてくれるのが嬉しくて愛らしい。
「この十字架は略奪品でね──手にした時はとても嬉しかったなあ」
「貴方にひどく馴染んでいるから、貴方のためにあつらえたものかと思った」
「まさか! この世で私のためのものなんてないよ。私が手にしたのは全部略奪したものさ。君が褒めてくれたこの服だって、元は誰かのものだったんだし」
「……え?」
その言葉に、パーシヴァルはぴしりと固まった。
「もうどれがいつ手にしたものかは覚えていないけれど……襲った船の船員が着ていて一番私に似合うと思ったものをたびたび頂戴したのさ。だからほら、サイズが合っていないだろう?」
言われれば確かに、サイズが合っていない。バーソロミューはシャツを伸ばしてオーバーサイズのそれをよく見せた。
それは、つまり、誰かが着ていた服を、バーソロミューが死後も着ているということで。
「バート……では、夏の霊衣は?」
「ああ! 確かにあれは私用に仕立ててもらったものだな。でも自分の服なんて、本当にあれだけだよ」
「今すぐ、それに着替えてほしい」
「? どうしたんだいパーシー、君、なんでそんな思い詰めた顔を……」
「頼む、どうか」
「わ、わかった」
一瞬でバーソロミューの服が夏のそれに変わる。パーシヴァルは、ほっと息をついてバーソロミューの唇に愛を捧げた。
「貴方が、他の男が纏ったものを着ているのだと思うと……嫉妬で胸が焼け焦げそうだった」
素直にそう言うと、バーソロミューはぽかんと鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてから、ぷっと吹き出した。
「ははは! なんだ、そんなことで? 清らかなる騎士様は随分とかわいらしい嫉妬をするものだ!」
「私は清らかではないよ。嘘がつけなくて、愚直なだけだ」
「もう奪ったんだから私のものなんだが……他の男のお古を着られるのは嫌かい? パーシー」
首に腕を回されて、甘く囁かれる。まるで魔女の囁きだ。
「っ……、似合っているのだから見ていたいという気持ちもある……」
「素直でよろしい。それにしても、君も難儀な男だな。しばらくは君のために霊衣でいてあげよう」
「バート」
バーソロミューの腰に手を回す。華奢なそれは抱いているだけで不安になってくる。もっと食事の量を増やさなければ。
「どうか、私に服を贈らせてほしい。できれば、数着」
「ふふ、君が買ってくれるのかい? 嬉しいな」
「いえ、ミス・クレーンに頼みます。貴方のためだけの服をもっとこの世に増やしたい」
「そ……れは、ちょっとQPがかさむんじゃ……」
「貴方のために使うのならいくらでも。それにオーダーメイドにしたほうが、私の好みを完全に反映できる。もちろん貴方が気に入ったものしか作らない」
細い腰を、するりと撫でる。今は目線がバーソロミューのほうが高い。パーシヴァルはその甘いかんばせをじっと見つめた。
「駄目、だろうか?」
「……そんなかわいい顔されて、駄目って言える人間がいると思うかい? いいよ、君の好きなようにしたらいい。クローゼットを用意しなくてはね」
バーソロミューは何度もパーシヴァルの頬に口づけを落とした。パーシヴァルがわがままを言ったのに、彼はご機嫌だ。
「服が増えることは、やはり嬉しい?」
「それもだけれど、君が独占欲を出してくれたのが嬉しいんだ。ふふ、束縛なんてごめんだと思ってたのに」
「貴方のことになると、常より心が狭くなるんだ……」
「私しか知らない君の顔ってことだ。最高の秘匿性だとも!」
バーソロミューは上機嫌の猫のように身体を擦り寄せる。彼のためだけの服をさらりと撫でて、パーシヴァルは己の狭量さを恥じた。
後日、ミス・クレーンに依頼をしたところ、「恋人からの贈り物で服を……! ああっ、シミラールックなんかにしたら最高のイケメンがふたり……! そんな、そんなの鶴は死んでしまいます……!」と鼻血を吹いて倒れてしまうことになるのだった。
「貴方はとても服のセンスがいいと思う」
パーシヴァルはバーソロミューを膝の上に乗せながら、前から思っていることを口に出した。赤いズボンに飾り襟とベスト、色鮮やかな腰布、ふわふわとした肩についた装飾品と黄金の十字架、どれも彼によく似合っている。パーシヴァルの鎧は着飾るためのものではなく、戦いに特化した、バーソロミューとは対極的なものだ。清廉といえば聞こえはいいが、装飾があまりなくシンプルともいう。
「ふふ、伊達男には嬉しい誉め言葉だ。素直に受け取っておくよ」
バーソロミューは機嫌をよくして、パーシヴァルにぎゅうと抱きつく。ふたりきりの時は恥を感じることがないからか、存分に甘えてくれるのが嬉しくて愛らしい。
「この十字架は略奪品でね──手にした時はとても嬉しかったなあ」
「貴方にひどく馴染んでいるから、貴方のためにあつらえたものかと思った」
「まさか! この世で私のためのものなんてないよ。私が手にしたのは全部略奪したものさ。君が褒めてくれたこの服だって、元は誰かのものだったんだし」
「……え?」
その言葉に、パーシヴァルはぴしりと固まった。
「もうどれがいつ手にしたものかは覚えていないけれど……襲った船の船員が着ていて一番私に似合うと思ったものをたびたび頂戴したのさ。だからほら、サイズが合っていないだろう?」
言われれば確かに、サイズが合っていない。バーソロミューはシャツを伸ばしてオーバーサイズのそれをよく見せた。
それは、つまり、誰かが着ていた服を、バーソロミューが死後も着ているということで。
「バート……では、夏の霊衣は?」
「ああ! 確かにあれは私用に仕立ててもらったものだな。でも自分の服なんて、本当にあれだけだよ」
「今すぐ、それに着替えてほしい」
「? どうしたんだいパーシー、君、なんでそんな思い詰めた顔を……」
「頼む、どうか」
「わ、わかった」
一瞬でバーソロミューの服が夏のそれに変わる。パーシヴァルは、ほっと息をついてバーソロミューの唇に愛を捧げた。
「貴方が、他の男が纏ったものを着ているのだと思うと……嫉妬で胸が焼け焦げそうだった」
素直にそう言うと、バーソロミューはぽかんと鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてから、ぷっと吹き出した。
「ははは! なんだ、そんなことで? 清らかなる騎士様は随分とかわいらしい嫉妬をするものだ!」
「私は清らかではないよ。嘘がつけなくて、愚直なだけだ」
「もう奪ったんだから私のものなんだが……他の男のお古を着られるのは嫌かい? パーシー」
首に腕を回されて、甘く囁かれる。まるで魔女の囁きだ。
「っ……、似合っているのだから見ていたいという気持ちもある……」
「素直でよろしい。それにしても、君も難儀な男だな。しばらくは君のために霊衣でいてあげよう」
「バート」
バーソロミューの腰に手を回す。華奢なそれは抱いているだけで不安になってくる。もっと食事の量を増やさなければ。
「どうか、私に服を贈らせてほしい。できれば、数着」
「ふふ、君が買ってくれるのかい? 嬉しいな」
「いえ、ミス・クレーンに頼みます。貴方のためだけの服をもっとこの世に増やしたい」
「そ……れは、ちょっとQPがかさむんじゃ……」
「貴方のために使うのならいくらでも。それにオーダーメイドにしたほうが、私の好みを完全に反映できる。もちろん貴方が気に入ったものしか作らない」
細い腰を、するりと撫でる。今は目線がバーソロミューのほうが高い。パーシヴァルはその甘いかんばせをじっと見つめた。
「駄目、だろうか?」
「……そんなかわいい顔されて、駄目って言える人間がいると思うかい? いいよ、君の好きなようにしたらいい。クローゼットを用意しなくてはね」
バーソロミューは何度もパーシヴァルの頬に口づけを落とした。パーシヴァルがわがままを言ったのに、彼はご機嫌だ。
「服が増えることは、やはり嬉しい?」
「それもだけれど、君が独占欲を出してくれたのが嬉しいんだ。ふふ、束縛なんてごめんだと思ってたのに」
「貴方のことになると、常より心が狭くなるんだ……」
「私しか知らない君の顔ってことだ。最高の秘匿性だとも!」
バーソロミューは上機嫌の猫のように身体を擦り寄せる。彼のためだけの服をさらりと撫でて、パーシヴァルは己の狭量さを恥じた。
後日、ミス・クレーンに依頼をしたところ、「恋人からの贈り物で服を……! ああっ、シミラールックなんかにしたら最高のイケメンがふたり……! そんな、そんなの鶴は死んでしまいます……!」と鼻血を吹いて倒れてしまうことになるのだった。
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