言葉を尽くす騎士だからこそ
言葉を尽くす騎士だからこそ
パーシヴァルと共に時間を過ごすのにも慣れてきた。バーソロミューはスマートフォンをいじり、パーシヴァルは本を読んでいる。最初はふたりでいるのだからと少し気を張っていたが、だんだんと距離感がわかってきて、ただ隣にいるだけで充分だという域にまで達した。それはそれとして、イチャつく時にはめいっぱいイチャつくのだが。
バーソロミューはSNSで大好きなメカクレ絵描きの新作がアップされていないか、ホーム画面に飛んだ。すると────
「な……あ……!?」
ゴトリ。ショックのあまりスマートフォンを床に落とす。
「バート、どうしたんだい?」
パーシヴァルが心配そうに顔を覗き込む。バーソロミューはどうしよう、と顔を手で覆った。
「す、好きなメカクレ絵師が……筆を折るって……!」
「……それは、なんとも」
「い、いまコメントをアップしていたんだ、前からアンチに悩まされていたって。メカクレなんてニッチな性癖誰も求めてないからもっと万人する絵を描け、とか言われてたみたいだ……。ほら、この前君に見せた、湖とメカクレ美少女を描いてくれた人!」
「ああ、あのとてもあたたかな絵を描く人だね」
許せない。国宝にもなりえる素晴らしいメカクレ絵師に、そんなことを言うなんて。いや、この絵師はメカクレ絵師としてやる前からイラストを毎日アップして、自身の研鑽を欠かさなかった努力の人だ。それを貶めて、筆を折らせるなんてどうあっても許し難かった。
「パーシー、すまないけどちょっと出てくるよ」
「一体どこへ?」
「アンチを殺してくる。カルデアの技術を持ってすれば相手を特定できるはずだ!」
カトラスと銃を持って部屋を出ようとしたバーソロミューを、パーシヴァルが腕を引っ張って止めた。
「バート、それよりもやるべきことがある」
「いいや、私の使命はこれしかない!」
「貴方の好きな絵師が言葉で傷ついたのなら、それを癒すのもまた言葉だと私は思う。……貴方がどれだけその絵師の作ったものが好きか、伝えるべきでは?」
その言葉にハッと気づく。そうだ、バーソロミューは引用などで感想をしたためたことはあったが、直接本人にメッセージを送ったことはなかった。
「っ……ありがとう、パーシー! 今すぐ送る!」
バーソロミューはベッドに座り直して、メモ帳を開いた。
「ええと、『突然のDM失礼します。貴方様がアカウントを消してしまうかもしれないと思い、どうしても絵の感想を伝えたくてメッセージさせていただきました。貴方様の絵は2019年から拝見させていただいており、繊細なタッチと優しさが溢れる画風が素晴らしく一目でファンになりました』……」
「うん、とてもいいと思う」
「『私はメカクレがとても好きで、貴方様がメカクレを描いてくださった時は一晩中踊り明かしました。それくらい嬉しかったのです。周囲の同僚や絵に詳しい知り合いにも貴方様の絵をの良さを伝えたくて広めたところ、職場の人が貴方様を一斉フォローするということもありました。驚かせてしまったのならすみませんでした』」
「おや、そんなことが?」
「『美術鑑賞が好きな大切な人にも貴方様の絵を見てもらっていますが、あたたかな絵だと言っていました。貴方の絵で幸せになった人間が少なくともふたりはいたことを、たとえ今後絵を描かなくなるとしても覚えていてほしいです』」
「ふふ、私のことも描いてくれるのかい?」
「あとは、感謝の文を述べて……うん、これで変じゃないかな?」
「大丈夫、貴方の思いが詰まった素敵な言葉だと思う」
パーシヴァルはぎゅう、とバーソロミューを抱き締めた。バーソロミューは緊張しながら、絵師のDMにメッセージを送る。これで、伝えたいことは伝えられた。
それから数分して、絵師から感謝の言葉と、もう少し絵を続けてみます、という返信が届いた。
「っ、パーシー、パーシー!」
「ああ、よかった、バート」
「君のおかげだ! なんて最高の恋人なんだ! 一生分の愛を贈らせてくれ!」
バーソロミューは嬉しくなってパーシヴァルの頬や額に何度も口づける。彼はそれをくすぐったそうにしながら、バーソロミューの腰をするりと撫でた。
「貴方の真摯な言葉がひとりの人間を救ったんだ。私は何も」
「いいや、君がいなかったらメッセージを送ろうなんて思わなかった、君が救ったようなものさ!」
パーシヴァルの頬に頬をぐりぐりと押しつけた。これでまた素晴らしいメカクレを応援できる。プライベートのみならずオタク活動まで充実させてくれるなんて、これ以上最高の恋人がいるだろうか?
「私に出来ることならなんでもお礼をさせてくれ、何がいい?」
「では……今度、美術館巡りをしてもらえないだろうか? 日本の上野という場所には沢山美術館があるそうなんだ」
「ふふ、喜んで!」
パーシヴァルの胸板に身体を預けて、そのままふたりでベッドになだれ込む。幸せなのはバーソロミューのはずなのに、パーシヴァルはそれ以上に幸せそうに微笑んでいた。
パーシヴァルと共に時間を過ごすのにも慣れてきた。バーソロミューはスマートフォンをいじり、パーシヴァルは本を読んでいる。最初はふたりでいるのだからと少し気を張っていたが、だんだんと距離感がわかってきて、ただ隣にいるだけで充分だという域にまで達した。それはそれとして、イチャつく時にはめいっぱいイチャつくのだが。
バーソロミューはSNSで大好きなメカクレ絵描きの新作がアップされていないか、ホーム画面に飛んだ。すると────
「な……あ……!?」
ゴトリ。ショックのあまりスマートフォンを床に落とす。
「バート、どうしたんだい?」
パーシヴァルが心配そうに顔を覗き込む。バーソロミューはどうしよう、と顔を手で覆った。
「す、好きなメカクレ絵師が……筆を折るって……!」
「……それは、なんとも」
「い、いまコメントをアップしていたんだ、前からアンチに悩まされていたって。メカクレなんてニッチな性癖誰も求めてないからもっと万人する絵を描け、とか言われてたみたいだ……。ほら、この前君に見せた、湖とメカクレ美少女を描いてくれた人!」
「ああ、あのとてもあたたかな絵を描く人だね」
許せない。国宝にもなりえる素晴らしいメカクレ絵師に、そんなことを言うなんて。いや、この絵師はメカクレ絵師としてやる前からイラストを毎日アップして、自身の研鑽を欠かさなかった努力の人だ。それを貶めて、筆を折らせるなんてどうあっても許し難かった。
「パーシー、すまないけどちょっと出てくるよ」
「一体どこへ?」
「アンチを殺してくる。カルデアの技術を持ってすれば相手を特定できるはずだ!」
カトラスと銃を持って部屋を出ようとしたバーソロミューを、パーシヴァルが腕を引っ張って止めた。
「バート、それよりもやるべきことがある」
「いいや、私の使命はこれしかない!」
「貴方の好きな絵師が言葉で傷ついたのなら、それを癒すのもまた言葉だと私は思う。……貴方がどれだけその絵師の作ったものが好きか、伝えるべきでは?」
その言葉にハッと気づく。そうだ、バーソロミューは引用などで感想をしたためたことはあったが、直接本人にメッセージを送ったことはなかった。
「っ……ありがとう、パーシー! 今すぐ送る!」
バーソロミューはベッドに座り直して、メモ帳を開いた。
「ええと、『突然のDM失礼します。貴方様がアカウントを消してしまうかもしれないと思い、どうしても絵の感想を伝えたくてメッセージさせていただきました。貴方様の絵は2019年から拝見させていただいており、繊細なタッチと優しさが溢れる画風が素晴らしく一目でファンになりました』……」
「うん、とてもいいと思う」
「『私はメカクレがとても好きで、貴方様がメカクレを描いてくださった時は一晩中踊り明かしました。それくらい嬉しかったのです。周囲の同僚や絵に詳しい知り合いにも貴方様の絵をの良さを伝えたくて広めたところ、職場の人が貴方様を一斉フォローするということもありました。驚かせてしまったのならすみませんでした』」
「おや、そんなことが?」
「『美術鑑賞が好きな大切な人にも貴方様の絵を見てもらっていますが、あたたかな絵だと言っていました。貴方の絵で幸せになった人間が少なくともふたりはいたことを、たとえ今後絵を描かなくなるとしても覚えていてほしいです』」
「ふふ、私のことも描いてくれるのかい?」
「あとは、感謝の文を述べて……うん、これで変じゃないかな?」
「大丈夫、貴方の思いが詰まった素敵な言葉だと思う」
パーシヴァルはぎゅう、とバーソロミューを抱き締めた。バーソロミューは緊張しながら、絵師のDMにメッセージを送る。これで、伝えたいことは伝えられた。
それから数分して、絵師から感謝の言葉と、もう少し絵を続けてみます、という返信が届いた。
「っ、パーシー、パーシー!」
「ああ、よかった、バート」
「君のおかげだ! なんて最高の恋人なんだ! 一生分の愛を贈らせてくれ!」
バーソロミューは嬉しくなってパーシヴァルの頬や額に何度も口づける。彼はそれをくすぐったそうにしながら、バーソロミューの腰をするりと撫でた。
「貴方の真摯な言葉がひとりの人間を救ったんだ。私は何も」
「いいや、君がいなかったらメッセージを送ろうなんて思わなかった、君が救ったようなものさ!」
パーシヴァルの頬に頬をぐりぐりと押しつけた。これでまた素晴らしいメカクレを応援できる。プライベートのみならずオタク活動まで充実させてくれるなんて、これ以上最高の恋人がいるだろうか?
「私に出来ることならなんでもお礼をさせてくれ、何がいい?」
「では……今度、美術館巡りをしてもらえないだろうか? 日本の上野という場所には沢山美術館があるそうなんだ」
「ふふ、喜んで!」
パーシヴァルの胸板に身体を預けて、そのままふたりでベッドになだれ込む。幸せなのはバーソロミューのはずなのに、パーシヴァルはそれ以上に幸せそうに微笑んでいた。
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