甘すぎるのには慣れてきた

甘すぎるのには慣れてきた

「……ん、甘い!」
 ドバイにもあった、マスターバックス。それをとある特異点でも見つけたので、パーシヴァルとふたりで店に入った。普通のコーヒーもいいが、ここは季節やこの店でしか飲めないものがいいと思って、看板に書いてあった期間限定のものを選んだ。……のだが。
 いかんせん、甘みが強い。調べたところ、ホワイトモカシロップにホワイトチョコフレーバーソースが入っているらしい。甘いはずだ。
「ちょっと失敗したかもな……うまいけどアラフォーにはきついぞ、これ」
 それでも食べ物を残すことはしたくなくて、もう一回カップを煽る。上に乗っているパーシヴァルの瞳のような水色の飴に引かれてこれを選んだことが、彼にバレなければいいと思った。
「バート、よければ私のを。甘すぎずとてもおいしいよ。味はカフェラテに近いかな」
「いや、君に悪いよ」
「私は甘いものも大好きだから」
 パーシヴァルはにっこり微笑んで、カップを交換してしまった。いちばん大きいサイズ、確かグランデだったか、の中に入っている液体を飲むと、ミルクの甘さとコーヒーの味が広がった。これならば飲める。むしろ好きな味だ。
「ああ……うん、こっちなら普通に飲めるよ」
 バーソロミューがそう言うと、パーシヴァルはよかった、と言って交換した飲み物を口に含んだ。
「うん、とても甘くておいしい。これをカルデアで再現するのはなかなかに難しそうだが、ガレスにも飲ませてあげたいな」
「持ち帰りで注文するかい?」
「ふふ、それもいいね。チョコスコーンもおいしそうだったから、五つほど……」
「パーシー、それだけはやめてあげてくれ、うら若き乙女にカロリーを摂らせすぎると、のちのち大変なことになる」
「……? カロリーを摂取するのは大事なことでは?」
「君は現代の栄養学というものを学んだほうがいいね……今度エミヤにでも教えてもらうといい」
 成人男性である自分ですらパーシヴァルの大盛りには苦労させられる。騎士とはいえ乙女であるガレスはさぞ大変だろう。そのうち大盛りの被害者の会を立ち上げてもいいかもしれない。
「それにしても甘かったな……まるで普段の君の口説き文句みたいだ」
「こんなに甘やかなことを言っているだろうか?」
「自覚なかったのか!? 怖いな君!」
 下手すればそれより甘いぞ! と指摘すると、パーシヴァルはカップを煽ってにこりと微笑んだ。
「貴方への思いを、そのまま愚直に語っているだけだよ、甘いかどうかなど考えたこともなかった。むしろ無骨な騎士の言葉でバーソロミューに思いが伝わっているかと不安で、もっと言葉を尽くさねばと……」
「伝わってる、これ以上ないくらい伝わってる! むしろこれ以上言われたらパンクしそうだから勘弁してくれるかな!」
 まだ伝え足りないとでも言うのか、この騎士は。無垢も過ぎれば狂気になるのだと、バーソロミューは改めてわからされた。
「……パーシー、やっぱり、そっちを飲むよ」
「無理はしないほうが……」
「いいんだ、君からの愛情に比べたら、甘いうちに入らないとも。これくらい飲み干さなくては」
 パーシヴァルからカップを返してもらって、甘い甘い飲み物に口をつける。しばらく甘いものは摂らなくて済みそうだ。
「バート、その、今気づいたのだが……」
「ん?」
 パーシヴァルは目を伏せていて、目元が僅かに赤い。なにかを恥ずかしがっているようだった。
「これは、いわゆる間接キスというものではないだろうか……?」
「……君、変なところで照れるね?」
 散々ベッドを共にしておきながら、関節キスで照れるだなんて。騎士様の純情センサーにはなにが引っかかるかわからない。
 バーソロミューは恋人のかわいらしい照れ顔をお茶請けに、甘さの極地のような飲み物を堪能した。
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