春を待つ
「ヒュース……?」
三雲は目を伏せたヒュースの身体を揺する。
「ヒュース、おい、ヒュース! 駄目だ、死ぬな!」
ずっと、好きだった。そう言っていた。この告白を聞くべきなのは、自分ではない。
「迅さんに、伝えろ、俺じゃ、なくて!」
『修、何があった!?』
頭に空閑の声が響く。それを聞いて、頭が冷静さを取り戻す。
ヒュースの口元に手を当てると、僅かながら呼吸があった。
死んでいない。まだ、助かる。
「空閑、ヒュースが刺された! 今から遠征艇に連れて帰る、道を作ってくれ!」
『ヒュースはアフトクラトルに帰りたかったんじゃなかったのか?』
遠征艇に連れて行ったら、ヒュースはまたこちらの世界に戻ることになる。
それがヒュースの望むことかわからない。
でも、それでも。
「そうかもしれない……けど、今は、ヒュースを迅さんに会わせなきゃって思うんだ」
『迅さんに?』
「……ああ。だから、僕の独断で連れて帰る」
『……わかった。もうすぐそっちに着く。待ってろ』
「頼む!」
空閑が来るまでにできることをしておかなければ。三雲は豪奢なカーテンを切り裂いて、ヒュースの傷口に当てる。
「ヒュース、死んじゃだめだ」
ヒュースのために、なにより、迅のために。
「あの人を、独りにしないでやってくれ────」