英雄と王
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「わぁ……! スゴい……!!」
目の前に聳える四角錐状の巨大な建物を眺めながら、私は歓声をあげる。建物の入り口には“RAIN DINNERS”と看板が掲げられ、その上──四角錐の頂点には、鰐のオブジェが店の守り神のように鎮座している。Heaven's Bellと比べて圧倒的に大きなその店構えに、私はディーラーとして心を躍らせた。
「ここが私達の店、“レインディナーズ”よ。喜んで貰えて良かったわ。オープンは1週間後だから、心の準備をしておいて頂戴」
「はいっ!」
F-ワニから降りてきたロビンさんが、はしゃぐ私を見て微笑みながら言う。元気良く返事をすると、F-ワニを係らしき男に預けた彼女は、笑みを深くして店に向かって歩いて行く。私もその後に続き、店の中へと足を踏み入れた。
「わぁ……!」
店内に入っても、私の興奮は醒めやらなかった。1週間後にオープンを控え、内装業者らしき人達がたくさん出入りしているが、今の未完成な状態でも、店内は充分華やかだ。
オーナーの身長も考慮しているのだろうが、それを差し引いても余りある高さを誇る天上。磨きあげられた大理石を敷き詰めた床。ズラリと並んだスロットマシンの数は、Heaven's Bellの3倍はあるだろう。ポーカーテーブルでは、恐らく新人のディーラー達が、慣れない手つきでカードを配る練習をしている。カード捌きはそこそこといったところだが、男女皆整った顔をしている。
──私が、ここの看板ディーラーになるのか。
大丈夫だろうか、と、再び不安が頭をもたげる。いや、大丈夫じゃなかったとしても、私にこの大役を任せてくれたあの男のために、精一杯頑張りたいとは思う。
「ミス・アニヴェルセル、行くわよ」
フロアに佇み決意を新たにしていた私を、ロビンさんが偽名で呼ぶ。お互い店や誰か人のいる所では偽名、それ以外は本名で呼び合うことに決めた。私は慣れないその名に一瞬反応が遅れてしまい、慌てて彼女に駆け寄る。彼女の歩む先には、関係者専用らしいドアがあった。
ドアを開けると、階段が下に向かって伸びていた。地下へと潜っていくロビンさんの背中を追い、私も後に続く。カツカツとヒールの音が反響し、地下もかなりの広さであることが分かる。
「さあ、今日からここが、あなたの家代わりよ。ネーナ」
「……!」
階段を降りきるのと同時に、空間が開ける。地上のカジノも素晴らしい造りだったが、地下も圧巻の一言だった。
階段を降りてすぐの大広間には、地下なのに大きな1枚ガラスの窓が設えてある。その向こうには、この砂の国では時に金銀財宝以上の価値を持つ水の世界が広がり、F-ワニより更に大きな生物──彼らもまた、鰐の一種のようだ──が悠々と泳いでいた。広間を抜けた先には長い廊下が続き、幾つか部屋があるようだ。そのうち1つのドアが開き、クロコダイルが現れた。
「遅かったな」
「ごめんなさい。でも、お陰様でいい買い物が出来たわ」
そう言ってロビンさんは、気恥ずかしさからその背に隠れていた私の肩を、自身の能力──“ハナハナの実”というらしい──で咲かせた腕で押しやる。わ、と小さく声をあげてよろめいた私の体を、無駄のない筋肉のついた腕と金色の鉤爪が受け止めた。
「あっ、ご、ごめん……!」
「いや──」
慌てて体勢を整えてクロコダイルの腕から逃げ出そうとするが、両肩をがっしりと掴まれてしまい、叶わない。頭上から降ってくる視線に、私は身を固まらせる。
(やっぱりこんな大胆な服、やめておけばよかった……!)
ロビンさんが町外れのテーラーで選んでくれたのは、白のベアトップと黒の革製のホットパンツとニーハイブーツ、それに紫色のロングコートだった。店構えは小さいが、由緒正しいらしいその店で買った服はどれも高価で、ベアトップなどはその布地の少なさからは信じられない程の金額であった。ロビンさんは不服そうな顔をしていたが、ボリュームのない胸元を隠したくて、Heaven's Bellの制服だったベストをベアトップの上から羽織ってはいるが、それでも、今まで晒したことのなかった臍や太股などを見られるのは恥ずかしい。見られる意識がスタイルを維持する秘訣よ、と彼女は言うが──この言葉で、スタイルの話のときクロコダイルが語った女性はロビンさんであると確信した──、それを晒すのが意識している男の前だと、話は別だ。私は顔は勿論、鎖骨や腹部など、露出した肌全てが紅潮していくのを感じた。
「似合うじゃねェか」
「えっ?」
思いも寄らなかった言葉に、私は驚いてクロコダイルの顔を見上げる。
「頭の悪い男がぞろぞろ寄って来そうな格好だな」
フン、と鼻で笑い、クロコダイルは肩から手を離す。私はショックで、恥ずかしくて、ただ立ち尽くすことしか出来ない。そんな私を余所に、クロコダイルはロビンさんに声を掛けた。
「おい。こんな服どこで買ってきたんだ、ミス・オールサンデー」
「『Tailleur du roi』よ。テイラー氏が見立ててくれたの」
ロビンさんの言うテイラー氏とは、あの店の店主のことだろう。白髪を綺麗に整え、紳士的な髭を蓄えた笑顔の優しい老人。恥ずかしがる私に、決して売り付けるようとするのではなく、優しくお似合いですよ、と声を掛けてくれたのが思い出されて、居たたまれない気持ちになる。
「Tailleur du roiか──なら、仕方ねェな」
相変わらず同じ場所で立ち尽くしていた私の腕を引っ張り、クロコダイルが廊下を歩き出す。何、と聞こうとする私の前をずんずん歩きながら、彼は振り返りもせずに言った。
「あの店は俺もよく使うし、店主にも世話になっている。娼婦みてェな見てくれだが、店主の顔を立てるためにも、ネーナ。その服は俺といるときにだけ着るようにしろ」
ぽかん、として引っ張られながら後について歩く私をチラと振り返り、クロコダイルは分かったか、と問う。私は慌ててうん、とだけ答えると、小走りで腕の分だけ離れていた彼との距離を詰める。私が隣に並んだのを見て、クロコダイルは腕を離した。ストライドが違うので、どうしても私は早足になってしまうのだが、歩幅を合わせてくれる気はないらしい。でもなんだかその方が彼らしくて、私はクスッと笑って一所懸命ついていく。
見上げた彼の耳がほんのり赤くなっていたのは、私の気のせいだったのだろうか。
「ここがお前の部屋だ。入れ」
足を止めたクロコダイルがドアを開けたその部屋は、彼が先程出てきた部屋だった。促されるままに足を踏み入れ、部屋を見渡す。
目の前に聳える四角錐状の巨大な建物を眺めながら、私は歓声をあげる。建物の入り口には“RAIN DINNERS”と看板が掲げられ、その上──四角錐の頂点には、鰐のオブジェが店の守り神のように鎮座している。Heaven's Bellと比べて圧倒的に大きなその店構えに、私はディーラーとして心を躍らせた。
「ここが私達の店、“レインディナーズ”よ。喜んで貰えて良かったわ。オープンは1週間後だから、心の準備をしておいて頂戴」
「はいっ!」
F-ワニから降りてきたロビンさんが、はしゃぐ私を見て微笑みながら言う。元気良く返事をすると、F-ワニを係らしき男に預けた彼女は、笑みを深くして店に向かって歩いて行く。私もその後に続き、店の中へと足を踏み入れた。
「わぁ……!」
店内に入っても、私の興奮は醒めやらなかった。1週間後にオープンを控え、内装業者らしき人達がたくさん出入りしているが、今の未完成な状態でも、店内は充分華やかだ。
オーナーの身長も考慮しているのだろうが、それを差し引いても余りある高さを誇る天上。磨きあげられた大理石を敷き詰めた床。ズラリと並んだスロットマシンの数は、Heaven's Bellの3倍はあるだろう。ポーカーテーブルでは、恐らく新人のディーラー達が、慣れない手つきでカードを配る練習をしている。カード捌きはそこそこといったところだが、男女皆整った顔をしている。
──私が、ここの看板ディーラーになるのか。
大丈夫だろうか、と、再び不安が頭をもたげる。いや、大丈夫じゃなかったとしても、私にこの大役を任せてくれたあの男のために、精一杯頑張りたいとは思う。
「ミス・アニヴェルセル、行くわよ」
フロアに佇み決意を新たにしていた私を、ロビンさんが偽名で呼ぶ。お互い店や誰か人のいる所では偽名、それ以外は本名で呼び合うことに決めた。私は慣れないその名に一瞬反応が遅れてしまい、慌てて彼女に駆け寄る。彼女の歩む先には、関係者専用らしいドアがあった。
ドアを開けると、階段が下に向かって伸びていた。地下へと潜っていくロビンさんの背中を追い、私も後に続く。カツカツとヒールの音が反響し、地下もかなりの広さであることが分かる。
「さあ、今日からここが、あなたの家代わりよ。ネーナ」
「……!」
階段を降りきるのと同時に、空間が開ける。地上のカジノも素晴らしい造りだったが、地下も圧巻の一言だった。
階段を降りてすぐの大広間には、地下なのに大きな1枚ガラスの窓が設えてある。その向こうには、この砂の国では時に金銀財宝以上の価値を持つ水の世界が広がり、F-ワニより更に大きな生物──彼らもまた、鰐の一種のようだ──が悠々と泳いでいた。広間を抜けた先には長い廊下が続き、幾つか部屋があるようだ。そのうち1つのドアが開き、クロコダイルが現れた。
「遅かったな」
「ごめんなさい。でも、お陰様でいい買い物が出来たわ」
そう言ってロビンさんは、気恥ずかしさからその背に隠れていた私の肩を、自身の能力──“ハナハナの実”というらしい──で咲かせた腕で押しやる。わ、と小さく声をあげてよろめいた私の体を、無駄のない筋肉のついた腕と金色の鉤爪が受け止めた。
「あっ、ご、ごめん……!」
「いや──」
慌てて体勢を整えてクロコダイルの腕から逃げ出そうとするが、両肩をがっしりと掴まれてしまい、叶わない。頭上から降ってくる視線に、私は身を固まらせる。
(やっぱりこんな大胆な服、やめておけばよかった……!)
ロビンさんが町外れのテーラーで選んでくれたのは、白のベアトップと黒の革製のホットパンツとニーハイブーツ、それに紫色のロングコートだった。店構えは小さいが、由緒正しいらしいその店で買った服はどれも高価で、ベアトップなどはその布地の少なさからは信じられない程の金額であった。ロビンさんは不服そうな顔をしていたが、ボリュームのない胸元を隠したくて、Heaven's Bellの制服だったベストをベアトップの上から羽織ってはいるが、それでも、今まで晒したことのなかった臍や太股などを見られるのは恥ずかしい。見られる意識がスタイルを維持する秘訣よ、と彼女は言うが──この言葉で、スタイルの話のときクロコダイルが語った女性はロビンさんであると確信した──、それを晒すのが意識している男の前だと、話は別だ。私は顔は勿論、鎖骨や腹部など、露出した肌全てが紅潮していくのを感じた。
「似合うじゃねェか」
「えっ?」
思いも寄らなかった言葉に、私は驚いてクロコダイルの顔を見上げる。
「頭の悪い男がぞろぞろ寄って来そうな格好だな」
フン、と鼻で笑い、クロコダイルは肩から手を離す。私はショックで、恥ずかしくて、ただ立ち尽くすことしか出来ない。そんな私を余所に、クロコダイルはロビンさんに声を掛けた。
「おい。こんな服どこで買ってきたんだ、ミス・オールサンデー」
「『Tailleur du roi』よ。テイラー氏が見立ててくれたの」
ロビンさんの言うテイラー氏とは、あの店の店主のことだろう。白髪を綺麗に整え、紳士的な髭を蓄えた笑顔の優しい老人。恥ずかしがる私に、決して売り付けるようとするのではなく、優しくお似合いですよ、と声を掛けてくれたのが思い出されて、居たたまれない気持ちになる。
「Tailleur du roiか──なら、仕方ねェな」
相変わらず同じ場所で立ち尽くしていた私の腕を引っ張り、クロコダイルが廊下を歩き出す。何、と聞こうとする私の前をずんずん歩きながら、彼は振り返りもせずに言った。
「あの店は俺もよく使うし、店主にも世話になっている。娼婦みてェな見てくれだが、店主の顔を立てるためにも、ネーナ。その服は俺といるときにだけ着るようにしろ」
ぽかん、として引っ張られながら後について歩く私をチラと振り返り、クロコダイルは分かったか、と問う。私は慌ててうん、とだけ答えると、小走りで腕の分だけ離れていた彼との距離を詰める。私が隣に並んだのを見て、クロコダイルは腕を離した。ストライドが違うので、どうしても私は早足になってしまうのだが、歩幅を合わせてくれる気はないらしい。でもなんだかその方が彼らしくて、私はクスッと笑って一所懸命ついていく。
見上げた彼の耳がほんのり赤くなっていたのは、私の気のせいだったのだろうか。
「ここがお前の部屋だ。入れ」
足を止めたクロコダイルがドアを開けたその部屋は、彼が先程出てきた部屋だった。促されるままに足を踏み入れ、部屋を見渡す。
