“Anniversaire”=……
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机に向かい、俺は辞書と睨み合っていた。かれこれ何時間こうしているだろう。いい加減、この問題に決着をつけなければならない。
「くそっ、面倒臭ェ……」
呟いた言葉は、自分の他に誰もいない部屋に、葉巻の煙と一緒になって霧散する。それもこれも、あの女のせいだ。俺は出張中の優秀なパートナーの顔を思い浮かべ、苦々しく葉巻の吸い口を噛み潰した。
*****
──3日前
「コードネーム、だと?」
「ええ。『秘密犯罪会社』っていうくらいだもの、考えてあるわよね?」
俺がピックアップした秘密結社・“
奴がこの俺を悩ませる問題を突き付けてきたのは、彼らのスカウトに行ってこい、と指令を出した時のことだった。その瞳は微かな疑いの色を滲ませて、俺を見つめる。俺は目を逸らし、机に向かった。
「あぁ、勿論考えてある──採用が決まったエージェントには、強い順にいい地位と、それに相応しい名前を与えてやるつもりだ。お前が手合わせして感じた順で構わない、戻ったら報告しろ。ニコ・ロビン」
「そう……分かったわ。じゃあ、行ってくるわね」
カツカツとヒールを鳴らして、ロビンは部屋を出ていく。その唇から、独り言なのかわざとなのか、聞き捨てならない言葉が漏れたのを、俺の耳はしっかりと捕らえていた。
「こういうのって、センスが問われるのよね……」
センス、だと? たかがコードネーム、強い順に1、2、3でいいだろうが。それが最も分かりやすい上に、後ろの番号の社員はより若い番号を目指して自己研鑽に努めるようになる。これこそが、強い組織を作る何よりの秘訣だ。センスなんざ、必要ない。センスなんざ……。
気が付くと、俺は辞書を開いていた。これは決して、ニコ・ロビンに乗せられた訳ではない。確かに、男なら俺の思うやり方でやる気を出すだろうが、女ってやつは面倒臭ェ生き物だ。やれ「可愛い」だの、やれ「オシャレ」だの、そういうところでやる気を出しやがる。部下のやる気を引き出してやれるのがいい上司だと、会社を興す前に読んだビジネス書に書いてあった。この俺に、そんな当たり前のことが出来ない訳がないだろう。下らないことだが、ひいては自分の理想を現実にするためだ。
かくして俺は、書斎に並べられた沢山の本の中から辞書という辞書をかき集め、「可愛」くて「オシャレ」なコードネームを考えてやろうと、奮闘を始めたのだった。
(ダメだ、全く思い付かん……)
ニコ・ロビンからは、電伝虫や伝書バットを通じて、着々とスカウトに成功しているとの報告が届いていた。その中には勿論、女も含まれている。俺は新しい葉巻に火をつけ、舌打ちをした。
(ニコ・ロビンはもうじき戻って来るだろう。それまでに新しい社員候補にも当たりをつけておかなきゃならねェ……こんなことにかまけてる暇はねェんだがな……)
カレンダーを眺めながら、ニコ・ロビンはいつ戻るだろうか、と予想する。今回は、F-ワニやバンチを使って行ける、比較的近場で名を馳せている賞金首がリストの中心だ。戦闘に手こずってさえいなければ、1週間から10日程で戻って来るのではないか。日付をトントンと指差しながら、俺は溜息をついた。
(日曜には帰り着くだろうな……くそっ、もう3日考えて何も浮かばねェんだ、これ以上考えても無駄だろう。もう男女いっしょくたにして数字にするしか……)
はた、とカレンダーに目を留める。土曜と、日曜。平日とは異なり、青と赤で色分けされて隣り合ったそれを見て、俺の頭には突如、自分の会社の組織図が明確に浮かんできた。
まず、男性社員。男は1、2、3……と、強い方から順位で並べていく。コードネームは数字の前に「Mr.」とでもつけておけばいいだろう。順位は変動することもあり、自分より上の順位の者が──あってはならないことだが──任務に失敗したりしてその地位を追われた時には、順に繰り上がっていく。勿論、強い者が新しく加入した場合には、その逆も有り得る。
次に、女性社員。女性社員は強さを順位付けするというよりも、その能力や技の相性を重視し、男性社員とペアを組ませる。男性社員の順位が上がれば、そのパートナーである女性社員も、一緒になって地位が上がる。
もともとは男女問わず強い順に、と考えていたが、順位や地位に興味がなく、今自分の与えられた居場所に甘んじて、自己研鑽を怠る者もいるだろう。また、中には自分の力量の低さを棚に上げて、「あの女は上に取り入ってあの順位なんだ」とか、余計な勘繰りをする者も現れるかもしれない。そういった者の存在は、組織の気運を低くする。それを防ぐためにも、男女ペア制にすることは効果的なように思えた。
(さて、あとはコードネームだが)
これに関しても、ヒントを得ることができた。カレンダーを捲りながら、俺はガリガリと忙しなく万年筆を走らせ、メモを取る。
「──こんなもんか」
ズラッと並んだのは、赤日を中心とした、季節のイベント事の数々。書き上げてみるとそれなりの数になった。
1年の始まりである、1月1日。ワノ国ではこの日を「正月」と呼び、1年のうち故郷を離れた者達が帰郷する時期を表す言葉として、「盆暮れ正月」と言われるらしい。
天気が良く、行楽にぴったりとされる5月の頭には、ゴールデンウィークという連休がある。これはどこの国が言い出したことなのかは分からないが、旅行などに行けるのは呑気な貴族ぐらいなもので、それ以外の者達は近場で家族とゆっくりと過ごすのが一般的だ。
全世界的なものではないが、最近持て囃されるようになってきたのが、クリスマスというイベントだ。12月の冬島はこのイベントを当て込んで、こぞって町中を蝋燭やランプで彩る。その光に雪が照らされるのが幻想的だとかで、女共に人気らしい。
女共に人気といえば、バレンタインデーだ。これは2月のイベントで、祝日ではないが、この日の1カ月前ともなると、女共が皆色めき立つ。由来は分からないが、女が男に愛や日頃の感謝を伝える日だとかで、チョコレートを贈る習わしがある。俺は全く興味がないが、この時期になると俺に懸想している女共が、どこに送ればいいのか悩んだ挙げ句、マリンフォードの海軍本部に大量にチョコレートを送ってくるのだという。毎年律儀に連絡が来るが、いらねェ、と言って海軍で処理させている。青雉あたりが酒のアテにしているのではないだろうか。