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過去編

仕事終わり、ふと携帯を見れば新着が一件の文字。
何だろうかと開くとタイガからで、ユキオとこれから行く旨が書かれていた。
一体いつのものかと時間を見れば6時過ぎのもの。
今は1時15分すぎ――流石にいないとは思うが、2人で居るならまさかということもありうる。
というか何だか嫌な予感がしてならない。
タイガの所は小学生といえど割と放任主義であるし、ユキオの所はアツシならばと無条件に信じ込む傾向がある。
下手をすれば寒空の下2人で待っている可能性も否めない。

「お疲れ様でした!」
「あぁ、お疲れ様」

慌てて駆け出すアツシに若干の疑問符を抱きながらもロイがカウンターから見送ってくれる。
それに目を合わせる余裕も無く、アツシは真っ直ぐ家路を急いだ。
いつもならコンビニ寄るのが日課だが、今日は気になってそれどころではない。
明日は休みであるし、ちゃんと帰っているようならまた来ればいい。
むしろ休みだからこそ待っているのではという不安も大きいのだが。


飲みの帰りらしきサラリーマンが、バタバタと横を駆け抜けるアツシを怪訝そうな目で追う。
それを無視して駆けるといつもより早くアパートの前へと到着した。
ハァハァと息を整えつつ自身の部屋まで戻ると案の定、小さな頭が二つ並ぶようにして扉にもたれかかっていた。

「あー、アツシおかえ――」

呑気に笑うタイガとこちらを見あげようとしたユキオの頭上に問答無用でゲンコツを落とす。

「いっでー!」
「――っ!!」

頭を押さえて2人してその場に蹲る。
ユキオなど何が起きたのか分からないといった様子だ。
2人がようやく顔を上げたのを見計らってアツシは声を出した。

「二人とも今何時だと思ってるんだ…!こんな遅くまで外で!何かあったらどうするんだ!」

珍しく声を荒らげたアツシに怒られているのが分かっているのかいないのか。ポカンと口を開けたまま二人して固まっている。
あまりにもあんぐりと開いた口と溢れそうな丸い目。
しばらくはそのままだったが、じわじわと事の重大さが伝わったのか2人はようやくしょんぼりとした顔を見せた。

「ごめんなさい」
「……ごめん」

しゅんとした様子の2人にため息を吐く。

「もっと早く連絡しないと。せめて仕事前に連絡してくれ」

いるかも分からないのに出てきて待っていたのでは心臓に悪い。
言われた二人は「……はぁい」と揃って返事を返した。

何もなかったからいいものの、世間は良い人ばかりではない。
タイガとユキオは、2人なら何とかなると心の何処かで思っている節が強い。
確かに小学生にしては聡明だが、結局それは子供の枠の中での話だ。
悪巧みをする大人相手には知恵も力も通用しない。
自分だってようやく大人の仲間入りを果たしたばかりである。
とはいえ、兎に角何もなくてよかったとアツシは安堵のため息を吐いた。

「とりあえず二人共立って。ほら中に入る入る」

触れた二人の肩はすっかり冷え切っていた。
ユキオなどただでさえ元が白いというのに今は紙のように真っ白だ。
これは直ぐに風呂の準備をせねば風邪を引いてしまう。
風呂は洗ってあるからお湯を張って、その間に暖かい飲み物を入れよう。あぁ、でもその前に毛布でも持ってくるかとこの後の流れを確認しているとユキオがおずおずと声をかけてきた。

「……アツシ」
「ん?」

何だ?と続きを促すがユキオは話さず、それをタイガが代わりに続けた。

「……怒ってるか?」

珍しくしおらしい態度で聞いてくるので反省しているのだろう。
しかしまだしかめっ面をしたままアツシは続けた。

「怒ってるよ……けど、続きは暖まってから。風邪引いたら心配だから」

ほら、早く入ってと促すと二人は顔を見合わせてようやく中へと入っていった。

その後とりあえずベッドから剥ぎ取ってきた毛布を二人に巻きつけ、温かいココアを入れる。
パッと顔を輝かせた二人はすぐさまココアを飲み始めた。
温かいものを飲んだからか、頬に赤みが差してくる。
そうしてぬくぬくと温まり出した二人を見て、アツシはようやく人心地着いた。
温まったせいか、あくびをしてうとうとした二人はそのままソファで舟を漕ぎ始める。

「鍵、預けるか…」

甘やかしているなとは思うものの、アツシはコップをそっと片付けながら合鍵を渡すことを考え始めたのだった。
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