現在編
携帯のバイブレーションが鳴り、ユキオは画面を覗き込んだ。
宛名はタイガからだ。今日はアツシの家へ一緒に行くことになっている。
内容に目を通すと、どうやら先に着いているらしい。
ならさっさと向かうかとユキオはアッシュ宅へと足を進めた。
アパートの前に到着するとポケットから鍵を探し出す。
鍵は小さい頃からタイガと2人、1つずつ預かっている。慣れた様子で扉を開けると、ユキオは勝手に中へと入っていった。
いつもならリビングにいるはずだが、今日は2人とも見当たらない。
「タイガー?」
この家は一人暮らしにしてはやや広めだ。というのも、実家にいた頃からタイガとユキオが入り浸っていたのでわざわざアツシは一人暮らしの際に広めのアパートを借りていたのだ。
まぁ、お陰で休みの日にはゲームをしに入り浸れるので有難い限りである。
とはいえ、部屋数は限られている。リビングじゃないならば残りはトイレと風呂以外にはアツシの部屋とタイガとユキオの泊まるいつもの部屋しかない。
アツシの自室とユキオ達の部屋は向かい合わせなので近づけばわかるだろうとそちらへ向かう。
するとボソボソと会話する2人の声が聞こえてきた。
どうやらアツシの自室の方にいるらしい。
アツシの部屋の前に立つとユキオはドアノブを回そうと手を伸ばした。
「アツシ、」
『……っんぁ、』
いるのかと声をかけようとしたところで、聞こえてきた予想外すぎる声に思わず身体が硬直する。
『も、少し力抜けって』
『だって、痛ぃ……』
『吸うのはいいから、息吐けって』
『ぅん……ふぅ、っぁ』
「…………は?」
聞こえてきたとんでもない声に身体だけでなく思考までが停止する。
完全に喘ぎ声なんだけど。え、これ入っていいの。
ユキオが固まっている間にも展開は進んでいく。
『タイガ……も、むり』
『はぁー?まだ半分なんだけど!』
『でも、もうおれ……これ以上は、ぁ……ぃたい』
ぐす、とすすり泣く声が続く。
それに続いて衣擦れの音が聞こえた。
急な展開についていけずユキオはダラダラと冷や汗をかき始める。
『やだ、もぅ……いやだ』
『もう少しだから頑張れって、な』
『うぅ……ん、』
あ、無理。
限界を迎えたユキオはバンッと勢いよく部屋の扉を開けた。
思いっきり開けすぎたせいで壁にぶつかった扉が物凄い音を立てて半分跳ね返ってきた。
「あ、ユキオ。お帰りー」
「……っん、お帰り」
開けた先にいたのは半泣きのアツシとその身体を後ろから押すタイガだった。
「痛い痛いタイガもう良いって!」
「まだ始めたばっかりじゃんか」
呆れたようにタイガはため息を吐くが、ため息を吐きたいのはこっちの方だ。
「……うん、分かってたけどね。みんなこういうリアクション待ちでしょ」
「いやユキオ、お前どこ見て喋ってんだよ」
遠い目をするユキオにタイガがツッコミを入れる。
アツシはというと、膝裏ともも裏を押さえたまま動かない。余程痛かったらしい。
「うぅ……。タイガのばか……」
「あんだよー。身体痛いって言うからストレッチに付き合ってやったんじゃんかー」
いやそれだけ痛がるってことは逆効果だろう。
――ゴンッ!!
「いってぇー!!!!」
色々言いたいことはあるが、とりあえずユキオはタイガの頭を思いっきりぶん殴っておいた。