現在編
「タイガ、誕生日おめでとう」
「おー!ありがとうな!」
アッシュがにこやかに拍手するとタイガはニカリと笑った。
「また歳くったな」
「お前も半年後にはなるだろ!」
「まー、おめでと」
「おう!ありがとう!」
ユキオもからかいつつ祝う気持ちは変わらない。
それを分かっているからタイガもムキになることはなかった。
「先にプレゼント渡しちゃおうか。はいこれ」
ごそごそと隣の袋からアッシュが取り出したのは赤のラッピングがされた半透明の袋だった。
透けて見える中身はテーピングテープと冷却スプレーなどのセットのようだ。
「柔道、最近また更に頑張ってるみたいだから。無理しすぎないようにね」
ちゃんとタイガが普段使ってるメーカーのものだ。確認して買ってくれたのだろう。
「おおー!ありがてぇ!」
「あと、キイト達からも預かって来てるんだ」
はい、と渡されたのは手のひらに収まるくらい小さな包みだ。開けてみると出てきたのは赤を基調としたブレスレットだった。濃淡の違う赤とオレンジが編み込まれている。
「ミサンガ?」
「なんかゴム製だって言ってたけど」
手にとってみると、確かに糸ではなくゴムで出来ていた。
引っ張るとよく伸びるので窮屈な感じもなくつけやすそうだ。
「これなら多少肉がついても着けやすいはずっス!!……って言ってたよ」
「肉ってなんだ!筋肉だよ!!あとちょっと無駄に真似が上手いな!」
ちなみにキイトが自作したものらしい。相変わらず器用だ。
「それからロイさんからは焼肉食べ放題のチケットを預かってるよ」
「やりぃ!!!でもなんかあの人からだと後が怖いけどな」
「た、誕生日だし。大丈夫だと思うけど」
そうは言うが、言ってるアッシュも自信なさそうである。
「まぁまぁ。あとこれがシマさんからで、こっちがチャロから」
シマさんからと渡されたのはリラックス効果のあるハーブティーだった。ハーブをチョイスしたのはいつも周りが心配ばかりかけるとタイガが愚痴をこぼしているからだろうか。
「ほんとシマさん好きだわー。癒しだわー」
あの濃い面々の中で癒し系は貴重だ。優しい気遣いに思わず拝みたくなる。
そしてチャロからと渡されたのはボール状の筋トレグッズだった。
「おー!これちょっと気になってたんだよな!」
「何これ?」
横からユキオが疑問を浮かべている。
タイガの説明によると球体の中に更にボールが入っており、それを遠心力を利用して回していくものらしい。ちなみに前腕が鍛えられるとのこと。
チャロもあんな大人しそうな顔をしてなかなかの運動好きというか筋トレ好きなのでその辺りの気は合うらしい。
「あとでアッシュにもやらせてやるな!」
「いや何で俺?いらないけど!……あとこれマキさんから」
「げっ」
マキさんと聞いてタイガの頬がひきつる。マキさんはタイガによくベタベタお触りしようとしてるのでまぁ無理もないだろう。
なんだかやけに華々しいラッピングだが何が入っているのか。見るのが怖い。
物凄く警戒しながら開けてみると、入っていたのは小さめの小瓶だった。
「何これ?」
つい先ほどユキオが浮かべた疑問符をそっくりそのまま口にするタイガ。
「えと、これ……」
それを見てアッシュはとても言いにくそうに口をもごもごさせてそっと紙を手渡して来た。小さなメッセージカードのようだ。とりあえず渡されたそれに目を通してみる。
『タイガくんお誕生日お め で と ❤︎私からはボディローションをプレゼントするわ』
どうやらマキさんからの直筆らしい。
ハートマークに思わず日頃のあれやこれやを思い出してげっそりする。
そのまま終わらせようとしたが、下の方に小さく続きがある。
『ちなみに夜にも使えるから良か』
――ぐしゃり
最後まで読まずに握りつぶした。ついでにプレゼントの方も袋の中にぶち込んでおく。
「あとこれがシキさんから」
「いやぜってー変なやつだから!流れ的に!」
「でも一応渡しとくね」
「でもって言った!でもって!」
渋々受け取ったそれは本のようだ。取ってつけたようなカバーを外してみるとどぎついピンクと肌色が見えた。
「だぁぁぁあ!!」
タイガは思わず床に投げつけた。シキからのプレゼントは所謂18禁本というやつである。
「いらねー!つか俺16な?!」
タイガはこうみえて結構潔癖なところがある。こういう物は苦手なのだろう。果たしてそれが男子として健康的かどうかはこの際置いておくとして、だ。
「ま、まぁ!気を取り直して!ユキオからもプレゼントがあるからさ!」
な、ユキオ!とアッシュはユキオの方に話を強引に持っていく。
「まぁ。たまには祝ってやらないとね」
ユキオの方も珍しく肯定的だ。優しい様子にタイガが警戒する中、出してきたのはただのケーキだった。生クリームがほんのり黄色がかっているのはマンゴーか何かだろうか?割と美味しそうな見た目だ。
「おー、美味そ……おぅ?」
見た目はとても良い。良いのだが、匂いが何やら嗅いだことのある匂いがする。なんだか分からないが確実に洋菓子の時に嗅ぐ匂いではない。
「ほら食べてみて」
「いや、これなんか匂い変じゃね?」
「いいからいいから。ほら、口開けろ」
ユキオ直々に口元へと持ってこられて確信した。
「嫌ゼッテー変なの入ってる!」
「いいから食え!」
騒ぐタイガの口にユキオはフォークを強引に押し込んだ。
ごくんと飲み込んだ瞬間、タイガの顔が青くなる。
「ぶはあぁ!!!プロテインじゃねーかこれ!」
「ユキオが作ったんだよ」
「その顔のために頑張った」
タイガのなんとも言えない表情をみて満足気だ。
本当に嬉しそうに笑うのだからタチが悪い。
「何つーもん作ってんだ!いや、有り難いけどな!」
「あとこれリョクからのプレゼントのプロテイン」
「またプロテインかよ!!ありがとう!!!」
あ、あとこれコテツさんからと渡されたのは小さめのショートケーキホールだった。
「これ(プロテインケーキ)いる?!」
「残すなよ」
「残さないけど!」
嬉しそうなユキオの笑顔を見れば怒るに怒れない。
タイガは渋々完食したのだった。