花火の記憶はほとんどない
季節は夏真っ盛り。外は強い日差しでじりじりと照り付けられている中、母の美里がおやつの焼き菓子をつくる音を聞きながら、大和は快適な温度を保たれた室内でカレンダーに書き込まれた予定をじっと眺めていた。
大和が所属するリトルチームの枚方ベアーズは監督同士が大学の野球部の先輩後輩という縁から、綾瀬川が所属している足立フェニックスという東京のリトルチームとよく練習試合をする。
今度の練習試合の予定を見た大和は、その日枚方で花火大会が開催されることに気がついた。
花火大会は日中から開催されているが、当然その間は練習試合があるので本来なら大和には何ら関係がないイベントだった。しかし、花火の打ち上げは日が沈んだ夜になってから行われる。
いつもは試合が終わると綾瀬川は東京に帰ってしまうのでじっくり会話ができるのは僅かな時間だった。しかし、直ぐに東京に帰ってしまうのではなく、自分の家に泊まってもらえばもっとたくさん話ができるかもしれない。
夜に行われる花火大会に一緒に行きたいから泊まっていってほしいというのはとても良い口実になるのではないかとふと考えた。
大和は学校に行く時間以外はずっと野球ばかりしているので野球以外となると綾瀬川を楽しませる事が出来るような話をできるとは思えなかったが、そんな事よりも綾瀬川の話をもっとたくさん聞いてみたいと思っていた。
初めて綾瀬川と会った時に野球の話をしたり、その後もメールで幾度となくやり取りを重ねていく内に大和の中で綾瀬川の存在はどんどん大きくなっていった。
要は好きな人のことを知りたい。好きな人と一緒に過ごしたいという、あまりにも単純なことであった。
そうと決まってからの大和の行動は早かった。
まず綾瀬川を家に泊めるなら、両親の許可が必要だ。大和は練習試合のこと、花火大会のこと、花火大会に綾瀬川を誘いたいことを順を追って話した。美里も、父の真一も、相手がチームメイトなどではなく綾瀬川であることには少し驚いたようだったが、普段から頻繁にメールのやり取りをしていることを知っていたので快く許可をくれた。
そうしたら、次は綾瀬川本人に許可を取る必要がある。大和はすぐさまパソコンを立ち上げてメールを打ちはじめた。しかし、こちらは少々難儀した。
断られたらどうするか、ということをこの段になるまで全く考えていなかったためだ。枚方は大和にとって地元だが、綾瀬川は遠く離れた東京から来ているので、そこで一つハードルがあった。そして、綾瀬川が大阪に来る理由は本来野球の練習試合のためである。花火大会に興味がないかもしれないし、興味はあっても、花火大会は東京でも数多く開催されるので、わざわざ大阪まで来て行きたいとは思わないかもしれなかった。
書いては消し、書いては消しを繰り返し、結局たっぷり一時間かけてなんとかメールを送信した。
返信を待つ間素振りでもしようかと自分の部屋へ戻ってバットと軍手を準備する。しかし庭へ出る前にパソコンが目に入り再度パソコンを開いて、またそわそわとメールボックスの更新を繰り返しては、内容に変なところがなかったかと気を揉んだ。
しばらくして、まだメールに気がついてもいないかもしれないと諦めて素振りを始めようとしたところで一件の新着メールを受信する。綾瀬川からの快諾の返信だった。
大和はほっと一息ついて、手元に用意していたバットに気がついて、ようやく素振りにとりかかる。高まる気持ちを抑えるために大和は無心でバットを振るう。その日は熱中症を心配した両親に二人がかりで止められるまでひたすら素振りを続ける事になった。
大和が所属するリトルチームの枚方ベアーズは監督同士が大学の野球部の先輩後輩という縁から、綾瀬川が所属している足立フェニックスという東京のリトルチームとよく練習試合をする。
今度の練習試合の予定を見た大和は、その日枚方で花火大会が開催されることに気がついた。
花火大会は日中から開催されているが、当然その間は練習試合があるので本来なら大和には何ら関係がないイベントだった。しかし、花火の打ち上げは日が沈んだ夜になってから行われる。
いつもは試合が終わると綾瀬川は東京に帰ってしまうのでじっくり会話ができるのは僅かな時間だった。しかし、直ぐに東京に帰ってしまうのではなく、自分の家に泊まってもらえばもっとたくさん話ができるかもしれない。
夜に行われる花火大会に一緒に行きたいから泊まっていってほしいというのはとても良い口実になるのではないかとふと考えた。
大和は学校に行く時間以外はずっと野球ばかりしているので野球以外となると綾瀬川を楽しませる事が出来るような話をできるとは思えなかったが、そんな事よりも綾瀬川の話をもっとたくさん聞いてみたいと思っていた。
初めて綾瀬川と会った時に野球の話をしたり、その後もメールで幾度となくやり取りを重ねていく内に大和の中で綾瀬川の存在はどんどん大きくなっていった。
要は好きな人のことを知りたい。好きな人と一緒に過ごしたいという、あまりにも単純なことであった。
そうと決まってからの大和の行動は早かった。
まず綾瀬川を家に泊めるなら、両親の許可が必要だ。大和は練習試合のこと、花火大会のこと、花火大会に綾瀬川を誘いたいことを順を追って話した。美里も、父の真一も、相手がチームメイトなどではなく綾瀬川であることには少し驚いたようだったが、普段から頻繁にメールのやり取りをしていることを知っていたので快く許可をくれた。
そうしたら、次は綾瀬川本人に許可を取る必要がある。大和はすぐさまパソコンを立ち上げてメールを打ちはじめた。しかし、こちらは少々難儀した。
断られたらどうするか、ということをこの段になるまで全く考えていなかったためだ。枚方は大和にとって地元だが、綾瀬川は遠く離れた東京から来ているので、そこで一つハードルがあった。そして、綾瀬川が大阪に来る理由は本来野球の練習試合のためである。花火大会に興味がないかもしれないし、興味はあっても、花火大会は東京でも数多く開催されるので、わざわざ大阪まで来て行きたいとは思わないかもしれなかった。
書いては消し、書いては消しを繰り返し、結局たっぷり一時間かけてなんとかメールを送信した。
返信を待つ間素振りでもしようかと自分の部屋へ戻ってバットと軍手を準備する。しかし庭へ出る前にパソコンが目に入り再度パソコンを開いて、またそわそわとメールボックスの更新を繰り返しては、内容に変なところがなかったかと気を揉んだ。
しばらくして、まだメールに気がついてもいないかもしれないと諦めて素振りを始めようとしたところで一件の新着メールを受信する。綾瀬川からの快諾の返信だった。
大和はほっと一息ついて、手元に用意していたバットに気がついて、ようやく素振りにとりかかる。高まる気持ちを抑えるために大和は無心でバットを振るう。その日は熱中症を心配した両親に二人がかりで止められるまでひたすら素振りを続ける事になった。
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