North Star

 「ただいまー」
 綾瀬川は自宅のドアを開く。家の中は暗く、人の気配はない。姉のまゆが小学生だった頃は帰りが一緒になることも多かったが、中学校と小学校に分かれてからはあかりの灯っていない家に一人で帰宅することのほうが多くなった。
 慣れたことで、綾瀬川は気にせずリビングに向かう。あかりもつけずに真っ先に行ったのはタブレットでメールを確認することだった。アプリのアイコンに付いた通知のマークに、はやる気持ちを抑えてタップする。
 (大和からだ!)
 綾瀬川はソファに座ってメールを読もうとして、ようやく背負ったままのランドセルに気がついた。ソファの横に転がして、ついでリビングのあかりをつける。あらためてソファに座ってメールの本文を見た。


 体育の時間に
 50メートル走の測定をしました
 去年より速くなったけど
 ぼくは周りと比べて全然遅いです
 綾瀬川くんは背が高いので
 足も速そうです
 綾瀬川くんの学校でも
 新体力テストはやりましたか?
 綾瀬川くんの記録も気になります

 園大和


 (大和の所もこの時期にやるんだ)
 綾瀬川も先日同じように体育の授業で計測をしたばかりだった。関東と関西で離れていても同じことをしているのが、なんだか不思議な気がした。
 綾瀬川は早速返信のメールを書きだした。
 自分も同じように授業で測定したこと、この間見た野球の動画について、もっとたくさん話したいことがある。
 まず、メールの返事から書こう。綾瀬川はソファに寝っ転がってタブレットを抱えた。
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