現代の忍、ボンゴレ影の守護者
捌ノ段
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side.山田
その仕草には華があった。
優雅、優美。
ただその場に居直り頭を下げただけの動きだと言うのに、しなやかに、目を奪うような魅力があった。
恐らくこの子は気高く、自らの主君以外に頭を下げることなど本来不本意なのだろうに。
自らの要求を、その願いを叶えるためにこうして頭を下げるのだろう。
それほどまでにこの子は、自分の居場所に、帰ることを願い望んでいる。
「巫月殿は、この学園の生徒たちを救ってくれた。その恩返しを、せねばなるまいて。頭を下げる必要などないのだ」
「………私は部外者、平穏を乱している自覚はある。故に、早く立ち去りたい。在るべき場所へ、帰りたい」
初めて庵で見た時とは違う、感情の籠った言葉。
心から帰ることを願っているこの子の気持ち。
この子は忍だ。
しかし、本当は一年は組のあの子達と何の差異もないほどに純心で、子どもらしい一面を持っている。
訳もわからず過去へと時を越え、帰る術や方法がわからないままに戸惑っていた。
それでも、敵意を向けられることに耐え、疑念を向けられることも仕方ないとさえ思っている。
この子は、一体どうやって生きてきたのだろうか。
帰りたいと願うその場所には、この子が本当に安らげる場所があるのだろうか。
また話しに来ると言う学園長の言葉を聞き流すこの子は、感情のない表情で空を見ていた。
半助が構いたくなる理由が、わかる気がするな。
「………貴殿にも退出願いたいが」
「いや、少し話をしたいと思ったものだからね」
「これ以上言葉を交わして何になる」
視線の合わないこの子は、此処にいる誰にも心を開こうとはしないのだろう。
親としての何かだろうか。
この子どもらしさを見せようとしないこの子を、甘やかしたいと思ってしまう。
「巫月くん、と呼んでいいかな。私は山田伝蔵、半助と同じく一年は組の担当をしている教師だ」
「………」
「乱太郎たちが世話になったことは聞いている。あの3人組はすぐに厄介事に首を突っ込んだり、面倒事に巻き込まれてくるものだから、本当に助かった」
あの三人の話をしていると、話が尽きない。
いやいや、子どもを相手に愚痴を溢すなんて、こちらも大人気ないものだ。
一息漏らす声。
巫月くんは、ようやくこちらに目を向けた。
漆黒の、何も写そうとはしない瞳。
その奥には夜空の星のように光が籠り、煌めいている。
「土井半助といい、恵まれた子どもたちだ」
「………君にもいたのかい?」
「………答える必要はない」
この子は意外と分かりやすいのかもしれない。
思わず笑みを浮かべてしまいそうになる顔を堪える。
やはりこの子は、甘え方を知らない子どものようだ。
また話しをしに来よう。
甘い菓子でも持って、お茶をしながら、ゆっくりと。
この子に、大人としてできる精一杯の甘やかしをしよう。
子がいる自分にできる、助力とはまた違う、この子の心を支えるためにできる自分にできることを。
お節介、と言われても構わない。
この子には、そうしてお節介を焼く人間も必要だろう。