現代の忍、ボンゴレ影の守護者
漆ノ段
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side.文次郎
眼下の間者と疑わしき娘は、また人形のように感情のない表情で胸元の何かを握り締めていた。
あれは確か、銀色の装飾品であったな。
武器にはならないと見逃したが、こんな状況で手に取るのだから、何か最後の切り札となるものなのか。
それとも。
ただすがるための守りのようなものか。
先程交わした言葉の数々はとても信じられるものではなく。
況してや我々に助力を、頼むではなく要求だと…!
思い返しただけでも腹立たしい。
ひとまず判断は学園長に任せるとして。
あれだけ堂々と此処から逃げ出す発言をされては、此方も断固として逃がすわけにはいかない。
夜こそが忍のゴールデンタイム。
こいつも逃げ出すなら夜を狙うだろう。
逃してなるものか。
「馬鹿者、今から力んでどうする」
「なっ、なんだと!」
「煩いぞ馬鹿者」
二度言いやがって…!
長い付き合い、さらには同室でもある仙蔵の言葉に苛立ちながら。
ここで声を荒げることは確かに得策ではない。
眼下の娘は胸元の装飾品にすがり付きながら、そのまま微動だにしようとしなかった。
「………文次郎、貴様あの娘の言葉どう思った」
「どう、だと?あんな言葉、信じられるわけがないだろう」
先の世から来ただの、その代わりに学園の道具になるだ、一国一城でも落とすだの。
全ては嘘偽り。
その場しのぎの誤魔化しに違いない。
奴は我々を凌ぐ力を持つ、どこぞの曲者、間者に違いないのだ。
仙蔵は何か考えるような表情を眼下に向けていた。
何を考えているのかわからないが、まさか伊作のように絆されているのではないだろうか。
他人を攻め立てることを生き甲斐にしているようなこいつが、まさか訳のわからない娘の言葉を信じている?
まさかな。
「『かえりたい』」
「なんだ?」
「あの娘、学園長が此処で過ごすことを許可した際。あの無表情な瞳を潤ませ、今にも壊れそうな程の脆さを見せそう言ったのだ」
『かえりたい』
それは、あの娘がずっと願っていること。
そう、この学園に来てから、ずっと、最初から。
だからといって、信用などできるものか。
我々は忍術学園の最上級生、この学園を守るべき者。
疑わしき者を疑う、学園に、後輩たちに害を及ばずわけにはいかないのだ。
「相変わらずのギンギンだな」
「煩いぞ仙蔵…」
「………その熱意で、真偽を見失わないことだな」
仙蔵はそのまま屋根裏から音も立てずに去って行った。
さっきの言葉は、何だったのだろうか。
本当に、仙蔵まで絆されたのか。
そう言えば、先程の、あの娘の言葉を仙蔵は直接聞いたのだろうか。
眼下の娘は先程と変わらず、部屋の隅に座り込んで微動だにせずにいる。
それは恐らく眠っているわけではなく、ましてや何かを企んでいるわけでもない。
本当に、何者なんだ、こいつは…
漆ノ段:終