現代の忍、ボンゴレ影の守護者
陸ノ段
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side.山本シナ
あの子はこの学園にいるくノ一とは違う。
いえ、この学園のどの忍たまや何処かの忍軍の忍とも違う存在。
初めて学園長の庵で彼女を見た時には、その気配のなさや力量を備えているであろう雰囲気に警戒をしたけれど。
実際に言葉を交わし、接してみると此方への敵意はまるで感じられなかった。
でも、あの体の傷は…
「山本シナ先生!」
「土井先生…」
「一緒に湯浴みなんて、何を考えているんですか!?」
自分が何を考えていたのか。
最初こそ風呂はただ接触の理由に過ぎなかった。
そんな中で、あの子が、巫月ちゃんが隠していた傷痕を見てしまったことが何故か後ろめたく思えてしまって。
あの時の表情。
自嘲して、それでも何処か悲し気で。
一度伏せた瞳が再び前を見据えた時には揺らぐことのない秘めたものがあるように感じた。
彼女は確かに忍の存在。
それでも、私から見ればくノ一教室にいる生徒たちと何ら変わりはない。
ただの、強さに憧れ、殿方に負けまいとする少女の一人に思える。
その心は凛として、何物にも穢されない。
「私があの子と一緒に湯浴みに行きたいと思っただけです」
「………間者かもしれないのに、ですか」
「土井先生もそのようには思っていないように感じますけれど」
土井先生の曇った表情に光が射すのが分かった。
いえ、驚いた拍子に本音が明るみに出ただけなのでしょうけれど。
流石あの一年は組の担任教諭なだけはあって表情豊かで素直なものだと思う。
そう言えば、あの子の表情はまるで変わりはしなかった。
微かな変化はあったものの、常に揺らぐことはなく。
まるで精巧に作られた人形のような。
あぁ、あの子の心は硝子の棘ように他者を拒絶しているのかしら。
「………何か、話は聞けましたか?」
「あまり多くは…。でも、確信しましたわ」
『他に道があっても、悔いなどない』
『誓った道を、歩み続ける』
「巫月ちゃんは、確かに忍の存在です。でも、その力は何か覚悟を決めた時にしか使わない。学園の敵になるようなことはない、と」
時折見せた何かを想うあの横顔は、故郷を、誰かを想ってのことなのかしら。
人形のように、硝子の棘のように。
心を見せない彼女にも恋しい存在がいる。
それは、彼女が決して冷酷なだけの存在ではないことの証。
その硝子の棘の痛みを受け入れ歩み寄れば、美しい姿が見られるような気がする。
啞然としている土井先生の横を通り抜け、私は自室に戻りながら、次は彼女と何を話そうかと心を躍らせていた。
陸ノ段:終