現代の忍、ボンゴレ影の守護者
陸ノ段
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風呂を出て、山本シナと名乗った女に用意された着物を着て。
案内されたのは座敷牢ではなく、昨夜も通された人の気配から遠い離れの部屋だった。
突き刺さる視線。
隠れた気配があちこちに在る。
風呂から出たのだし、何より夜半になれば監視や見張りが強まるのは当然のことか。
部屋の片隅を見れば、昨日門の前に置き去りにした自分の荷物があった。
「あなたの荷物、此方で改めさせてもらったけど、危険物はなかったのでお返しするわ」
「……………感謝する」
特に何かあるわけではない。
故に捨て置くつもりで置いていった。
それでも、手元にあるのならばそれで良い。
中には生徒会の予算案や資料、教科書、ノート。
時間潰しにはなるかもしれない。
「また来るわね、巫月ちゃん」
「………」
いつの間にそんなに親しくなった。
怪訝そうな自分の様子を感じてだろう。
山本シナと名乗った女はその容姿の本来の、美しいくらいの笑みを浮かべ「一緒にお風呂に入った仲だものね」と去っていった。
入りたくて入ったわけではないのだが。
そんなこと関係ないと言った感じか。
「それじゃあ。その時には一緒にお茶でも飲みながらあなたの話を聞かせてちょうだいね」
「貴女には」
「ぇ…」
「別の道はなかったのか」
何故、尋ねたのか。
他人のことなど無関係だというのに。
聞かれてばかりが気に入らなかっただけ。
ただ、自分とは違う生き方が知りたかった。
理由はいくらでもある。
尋ねなくても、答えがなくても良かった。
山本シナは、先程と同じように美しい笑みを浮かべた。
「私はただ、手折られぬ花でありたかったの」
「………そうか」
あぁ、自分とは違う。
私は花であることなどできなかった。
私は影。
光の中で咲き誇る花にはなれない。
綺麗で美しい花で在ることなんて。
部屋を立ち去る山本シナの後ろ姿を見送り、胸元の欠片を握り締める。
影であることの証。
大空の下にできた誇り在る影。
それだけで自分には何もいらない。
手折られぬ花であることも、美しさも自分には必要ないものだ。
『巫月は…、強くて、綺麗』
『私も巫月みたいに、ボスや、骸様の力になりたい…』
霧の片割れである彼女はいつかそのように話していた。
純粋な意思と覚悟を秘めた隻眼が自分に真っ直ぐと向けられたことをよく覚えている。
自分はそんな強い、綺麗な存在ではないのに。
部屋の中に、蓮の香りが仄かに香った気がした。