現代の忍、ボンゴレ影の守護者
伍ノ段
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いい加減下手な芝居のような押し付けが聞くに絶えなくなり、土井半助の差し出してくる盆を手に取った。
意外そうな表情。
あれだけ誘い文句を言っておいて何なのだ。
毒が入っていようと関係ないため、握り飯のひとつを手に取り口に含む。
塩気の適度に効いた握り飯。
腹に入ればなんでもいいと摂取していたあの頃味わったものとは違う。
作った人間の気持ちの込められた食事。
敬愛すべき大空たる主君の母君に作っていただいた食事と同じように、美味しいと感じられるもの。
こんな状況でなければ、素直にその気持ちを言葉にしていたことだろう。
「学園長の言った通り、我々は君に危害を与えるつもりはない。直に部屋も昨日案内した場所に戻ることになるだろう」
「……………」
「君は自分を忍と言ったけれど。この学園に害を為すことはしないだろう?」
その言葉には土井半助の個人的な希望も込められているようだった。
しかし、その言葉の通りだ。
私が仇為すのは、主君たる大空達に仇為す者のみ。
それ以外に自らの刃を、力を振りかざす気は毛頭ない。
しかし、それとこの忍者の学舎の人間を信用するかは全く別の問題だ。
敵となるならば、立ち塞がるのならば、
私は自分の力を持ってして押し通るしかない。
大空のために還るための犠牲を、厭わない。
「………君はどこから来て、何故忍になったのだろうね」
「……………」
『生きたいか』
『要らぬ命ならば拾おう。お前は影となり、世に忍べ』
何故忍になったのか。
それは、"あの人"に出逢ってしまったから。
白い悪魔が囁いた、幾つもの選択肢の果てに存在した世界。
"あの人"と出逢わなかった世界、そこは、私が私ではなかった、夜宵巫月ですらなかった。
"あの人"と出逢ったからこそ、今の私がある。
夜宵巫月を構成する一部に"あの人"の存在がある。
「大空と出逢うため」
「ぇ…」
"あの人"と出逢ったから忍になった。
忍になったから、素敵な主君である大空に出逢えた。
だから私は、夜宵巫月は、忍で在り続ける。
「ご馳走になった。作った人に御伝えを。そしてもう、今後の食事は一切必要ない」
「なんで…」
「食べたくない。それ以外に理由はない」
食事は眠気を誘う。
こんな場所での睡眠は御免だ。
朧気な夢も、絶対に見たくない。
腕の拘束は解放された。
こうなればもう、こんな座敷牢から、学園から出ることも容易い。
ただ、その先の導が何もない。
土井半助は何か言いたそうにしながらも、「また来るよ」とだけ言い、座敷牢から出ていった。
もう来ないでいいのだけれど。
緑装束の、善法寺と名乗ったあの少年もそう言って去って言ったっけな。
壁に寄り掛かり、見えないはずの空を見上げる。
例え見えたとしても、それは繋がりを感じられない、切り取られてしまった空でしかない。
確かな繋がりを、絆を感じるために、胸元の欠片にしばらくすがり付いていた。