現代の忍、ボンゴレ影の守護者
伍ノ段
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陽が高い所まで上がったのだろう。
光の射さないこの座敷牢にも微かではあるが、外の木漏れ日が入り始めた。
動植物の息づく気配を感じる。
それと同じように動き出した無数の幼い子どもの気配。
そう言えば、此処は忍術の学舎であった。
所謂学校なのだから、子どもの気配があるのは至極当然のことか。
耳を澄ませばこの薄暗い座敷牢にまで幼子たちの笑い声が聞こえてきそうだ。
子どもは愛しい。
大空たる主君のもとに居候している雷の幼子や照れ屋で愛らしい小さな暗殺者、星の王子たちの笑みが脳裏に浮ぶ。
あの子たちは、初めて会った時からこんな自分に対しても笑い掛けてくれたのだったな。
昨日此処に送り届けたあの三人組の子どもたちといい。
どうしてこんな穢い存在である自分に、何の保証もなく優しく、あんな安心しきったような笑みを見せてくれるのだろうか。
近付いて来る気配に目を向ければ、土井半助と名乗った黒装束の男が噓くさい笑みを浮かべていた。
あぁあ、大人と言う存在はすぐに感情をつくり、偽る。
そんな笑みを浮かべるくらいならば、嫌悪を向けられた方がましだと言うのに。
「昨日は何故…、いや、どうやって逃げたんだい?」
「……………」
「六年生が部屋を覗くまで、私は部屋の前にいた。君の気配が薄いのはわかっていたが、まるで神隠しのように部屋からいなくなっていたことに正直驚いた」
「どうやったんだい」と繰り返し尋ねて来る土井半助に対し、自分の中で苛立ちのような感情が渦巻いて行く。
結局のところ、自分が見張っていたにも関わらず部屋を抜け出されたことが気に入らない、納得できないと言った質問なのだろう。
特別なことは何もしていない。
大人と言う存在は、何も見ようとしていないのだ。
その質問が自分の見栄のためであることも、わかっていない。
答える必要のないことに黙っていると、土井半助はまた敵意のないようなつくった表情を浮かべる。
私の腕の拘束を解き、こちらに何かを差し出してきた。
盆にのったそれは握り飯と具だくさんの味噌汁だった。
「お腹が空いているんじゃないかと思ってね。食堂のおばちゃんに作ってもらったんだ」
毒でも盛られているのだろうか。
そのようには見えないし、何より土井半助が敵意のないような表情を浮かべているのは嘘を取り繕うためのものではないと感じる。
盛られていたところで、自分には何の影響もないのだけれども。
「生憎空腹を感じてはいない」
「それは…、困ったな。私もさっき朝食を食べて来たものだから、そうなると残してしまうことになる」
「もったいないなぁ」「食堂のおばちゃんはお残しには厳しいんだよなぁ」といろいろ言っている土井半助を見て、さらに何を考えているのか訳がわからなくなる。
この男は、自分のことを敵だと認識していたのではなかったか。
つくった顔、浮かべる表情。
その瞳の奥には確かに警戒と疑念を抱きながら、それでも、何かと重ね合わせるように真っ直ぐ見つめてくる。
………あぁ。
自分の教え子たちと重ねているのか、それとも、
ただ子ども扱いをしたいだけなのだろうか。