三ツ谷隆
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作業台に向かう背中は少しだけ丸まっていて、布を裁つ小気味よい音が部屋に響いていた。
部屋の隅に置かれた大きな裁縫箱には、色とりどりのミシン糸や針山が整然と並んでいる。
手際よく布を裁っていく姿を、壁に背を預けたままじっと見つめた。
無駄のない動きと真剣な横顔から、どうしても目が離せなかった。
「……見過ぎ」
「ごめん、邪魔した?」
ふっと息を漏らすように笑って、手元の作業を止める。
「そりゃ、そんだけ見つめられたらな」
「ごめんごめん、イケメンだなーと思って見惚れてた」
「……おだてても何も出ねぇぞ」
そう言いながらも、表情はどこか嬉しそうに和らいでいた。
作業台の上のメジャーを手に取り、こちらへ歩み寄ってくる。
「ちょっと立ってみろよ」
言われるまま立ち上がると、メジャーの帯が胸元や腰にそっと当てられ、手際よく寸法を測られていく。
服の上から伝わるかすかな温もりに、思わず体が強張った。
「サイズ、変わってなさそうだな」
「……三ツ谷のえっち」
「ばっ、そういうんじゃねーって!」
メジャーを首にかけたまま、焦ったように手を振る。
顔を少し赤くして慌てる姿が珍しくて、つい口元がゆるんだ。
「別に、ヘンな意味で言ったわけじゃねぇよ」
「でもなんか、サイズ知られてるの恥ずかしいな」
「把握してねぇと作れねぇんだよ」
「そうだけどさー」
三ツ谷は呆れたようにため息をつきつつも、どこか照れくさそうに頭をかいている。
そのまま腰の後ろに手を回され、ぐっと距離が縮まった。
「……あんまからかうんじゃねぇよ」
「だって、三ツ谷の反応が面白いんだもん」
「あのなぁ……」
「ごめんってば。怒った?」
「怒ってねーよ。ほら、次いくぞ」
部屋の空気を撫でるように、外から吹き込む風がカーテンをゆったりと揺らしていた。
作業台の脇のパイプ椅子を引き寄せて腰掛け、隣に並ぶ。
少し整えられた前髪の隙間から覗く横顔は、いつ見ても大人びていて、同い年とは思えない落ち着きがあった。
「ねえ、三ツ谷」
「ん? なんだ?」
少しだけ背伸びをして、三ツ谷の耳元に顔を近づける。
「……キス、していい?」
覗き込むと、三ツ谷の動きがピタリと止まった。
一瞬の静寂のあと、目を見開いた彼が口元を手で覆って顔を背ける。
首筋まで赤みが一気に広がっていくのが、はっきりと見えた。
「……オマエさ、そういうのズルいだろ」
「だめだった?」
「……別に、だめじゃねぇけど」
困ったように眉を下げながらも、ゆっくりとこちらに向き直る。
温かな手のひらが頬を包み込み、そのまま引き寄せられた。
「……あー、もう。作業おわんねぇぞ」
「一旦、休憩ってことで」
「オマエなぁ」
唇が重なる直前、息がかかるほどの距離で三ツ谷が小さく呟いた。
「ホント、■■■には勝てねぇわ」
やわらかな温もりが唇に触れ、そっと目を閉じた。
抱きしめてくれる腕の中に、全身を預ける。
二人だけの甘い時間に身を委ね、心ゆくまでその温もりを確かめ合っていた。
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