羽宮一虎
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
部屋の明かりを落とした室内に、ワインの香りがふわりと漂っていた。
半分ほど減ったボトルの横に、小さなケーキの箱が寄り添うように置かれている。
「なあ、これ本当に全部食っていいの?」
ソファの背もたれに深く体を預けながら、一虎がケーキの箱を指さした。
首元に覗くタトゥーが、暗がりの照明に薄く浮かび上がっている。
「もちろん。好きなだけ食べていいよ」
「……あとで文句言うなよ」
呆れたように口元をゆるめながら、一虎が箱からチョコレートケーキを取り出した。
手際はお世辞にも良いとは言えないけれど、慎重にフォークを扱う横顔はどこか幼さを残していた。
「オマエも一口食う?」
フォークの先に小さくすくったケーキを乗せて、こちらに差し出してきた。
「いいの?」
「いいから口開けろって」
促されるまま口を寄せると、濃密な甘さとほろ苦いチョコレートの風味が広がる。
思わず頬が緩むと、それを見た彼が満足そうに鼻で笑った。
「うまいな」
「うん、おいしい」
「オマエと一緒だからかな」
「珍しいこと言うね」
「……まあ、オレもひとつ歳とったわけだし」
そう言って笑うと、一虎はグラスを持ち上げて一口含んだ。
静かな時間が流れていた。
大騒ぎするわけでもなく、誰かを呼び出すわけでもなく、ただ一緒に同じ時間を過ごす。
穏やかな時間に、どちらもそれなりに大人になったのかもしれない、と思った。
「……何見てんだよ」
視線に気づいたのか、フォークを置いた一虎がじっとこちらを見返してきた。
「別に。大人になったなぁって思って」
「ハッ、何だそれ」
「こういう静かな誕生日の祝い方も、悪くないなって」
「ガキの頃は、こんなん祝ってもらったことなかったけどな」
一虎は少しの間、黙ってグラスの中身を見つめていた。
それから、こちらの手を取って、指先に自分の指を絡める。
「来年もお祝いしようね」
「来年って、当然みたいに言うんだな」
「言っちゃダメだった?」
「……いや。むしろずっと言ってろ」
「一虎、お誕生日おめでとう」
改めて言葉にして伝えると、一虎は少し照れくさそうに視線を泳がせた後、ゆっくりと手を伸ばしてきた。
伸びてきた長めの指先が、こちらの頬にそっと触れる。
熱を持った皮膚の感覚に、思わず息が止まった。
「■■■」
名前を呼ばれた瞬間、体の奥から熱が込み上げてくるような気がした。
触れられた頬から、ゆっくりと指先が耳の後ろへと滑っていく。
そのまま首筋を撫で下ろされ、体が自然と引き寄せられた。
「……酔ってる?」
「……さあ、どうかな」
「ちょっとだけ、顔赤いよ」
「じゃあさ、もっと近くで確かめてよ」
返事をする前に、唇が重なった。
ワインの渋みとチョコレートの甘さが混ざり合った、深くて熱いキス。
離れそうになると、すぐにまた角度を変えて重ねられる。
後頭部に回された手にぐっと力を込められ、逃げる隙なんてどこにもなかった。
「ん……」
隙間から零れた声すらも、すぐに吸い上げられていく。
ゆっくりと体がソファの上に押し倒された。
「……オマエさ、急にそんな顔すんのずるいんだけど」
「どんな顔……?」
「マジで、あんま煽んなって」
低く笑いながら、シャツのボタンに手がかけられた。
一つ、また一つと外されていくたびに、肌に触れる室内の空気が冷たく感じられて、身震いした。
「寒い?」
「ううん……大丈夫」
「まあ、すぐに暑くなるか」
一虎の手が、鎖骨から胸元へと滑り落ちてくる。
手のひらの熱さが伝わってきて、思わず背中を小さく跳ねさせた。
指先が肌をなぞるたびに、頭の中が痺れるような感覚に襲われた。
引き結んだ唇から、抑えきれない吐息が漏れてしまう。
「……力抜けよ」
耳元に唇を寄せられ、熱い吐息だけで肌がぞくりと震えた。
そのまま耳たぶを小さく噛まれ、肩がびくりと跳ねた。
「……っ、無理……」
「そろそろ慣れろよ」
「……一虎」
名前を呼ぶと、一虎は嬉しそうに微笑み、また深く唇を重ねてきた。
今度はさっきよりも深く、息が苦しくなるほどのキスだった。
舌が絡み合うたびに、頭の奥がじわりと熱くなっていった。
お腹を掴む手に力が込められ、体がさらに引き寄せられた。
布越しではない、温かい肌と肌が触れ合う距離に、一虎の鼓動が自分の鼓動と重なって響いているのがはっきりと分かった。
「……誕生日っていいな」
「なんで……?」
「こんな最高のプレゼント、他にあるわけねえだろ」
まっすぐに見つめ返されて、言葉が詰まる。
瞳に映る自分が、見たこともないくらい赤い。
恥ずかしくて顔を背けそうになったところを、あごに触れた指先がそっとすくい上げた。
「逃がさねえから」
部屋の中の灯りは、いつの間にかさらに小さく感じられた。
窓の外を通る車の音がかすかに聞こえたけれど、二人の間には届かなかった。
「……ねえ、一虎」
「何回呼ぶんだよ」
「もう一回、キスして」
「……一回じゃ足りねえよ」
また唇が塞がれた。
その先に何が待っているのかなんて、もう考えなくても分かっていた。
1/4ページ