短編
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「だからお前は危なっかしいんだよ」
「場地にだけは言われたくないんだけど」
「は?」
「は? じゃないし」
睨み合うほんの数秒。
それだけなのに周囲が面白がるには十分な時間だった。
「また始まった」
「仲良いなあ、あの二人」
「どこがだよ!」
「どこがよ!」
声が重なる。
さらに周囲が笑う。
場地は露骨に顔をしかめた。
「お前、人の真似すんな」
「そっちが先でしょ」
「俺のが一瞬早かった」
「絶対違う」
「いや俺だ」
「わたし」
「俺」
「わたし!」
「……ガキかよ」
呆れたように言うくせに。
場地の口元が少しだけ緩んでいたことをななしは見逃した。
もっとも、見逃していなくとも気づかないふりをしていただろうけれど。
◇
「おい」
帰ろうとしていたところを呼び止められる。
振り返るまでもない。
「なに」
「これ落とした」
差し出されたのは見覚えのあるキーホルダーだった。
「あ」
「ったく、気づいてなかったのかよ」
「……ありがと」
「別に」
受け取ろうと手を伸ばした瞬間。
場地が少し高く持ち上げる。
「返して」
「これ結構ボロいな」
「余計なお世話」
「長く使ってんのか」
「……昔から」
「ふーん」
「場地、」
「なんだよ」
「返して」
「ちゃんと礼言え」
「言ったでしょ」
「聞こえなかった」
「絶対聞こえてた」
「聞こえねぇなあ」
「性格悪い」
「お前にだけな」
さらっと言われて一瞬だけ言葉に詰まる。
場地も少し目を逸らした。
「……ほらよ」
ようやく返されたキーホルダーを握る。
「ありがと」
今度はちゃんと聞こえる声で言った。
場地は短く「ああ」と返しただけだった。
◇
「また喧嘩してたのか?」
「してない」
「してたでしょ」
「してねぇ」
「してる」
周囲の指摘に二人同時に反論する。
「ほら」
「息ぴったりだな」
「違う!」
また重なる。
「……もういい」
ななしは顔を背けた。
場地も舌打ちをする。
「お前さ」
「なに」
「最近避けてるだろ」
「……避けてない」
「避けてる」
「気のせい」
「俺が話しかけてもすぐどっか行く」
「たまたま」
「ふーん」
じっと見られる。
居心地が悪い。
「……別に」
「別にぃ?」
「場地と話すと疲れるから」
言った瞬間、しまったと思った。
場地の表情が消える。
「あっそ」
短い返事。
それだけだった。
◇
その日から場地は本当に話しかけてこなくなった。
視線は合うが逸らされる。
近くに来ない。
以前ならくだらないことで絡んできたのに。
それがなくなると思っていたよりずっと静かだった。
「元気ないな」
「別に」
「場地となんかあった?」
「なんでもない」
なんでもないわけがない。
自分で言った言葉なのに何度思い返しても後悔しかなかった。
疲れるから……そんなこと本当は思ったことなんてない。
◇
「おい」
「……なに」
「これ」
久しぶりにちゃんと目が合う。
投げ渡された缶ジュースを慌てて受け取る。
「なんで」
「気が向いた」
「意味わかんない」
「じゃあ返せ」
「やだ」
「素直じゃねぇな」
「場地に言われたくない」
場地が笑う。
久しぶりに見た自然な顔だった。
「……この前の」
「あ?」
「ごめん」
場地が目を瞬く。
「疲れるとか言ったやつ」
沈黙は少しだけ長い。
「……別に気にしてねぇよ」
「嘘」
「なんでだよ」
「気にしてた顔してた」
場地は頭を掻いた。
「まあ、少しだけな」
「ごめん」
「俺も悪かった」
「場地が謝った」
「そんな驚くな」
「だって謝るイメージない」
「喧嘩売ってんのか」
「売ってない」
「ならいい」
少しだけ空気が軽くなる。
「……なあ」
「なに」
「……やっぱいい」
結局それだけだった。
◇
「場地、最近機嫌いいな」
「そうか?」
「そうだろ」
「知らねぇ」
「ななしと仲直りしたからじゃねぇの?」
「ぶっ飛ばすぞ」
「図星か」
場地は返事をしない。
その代わり少しだけ耳が赤かった。
◇
「場地」
「なんだ」
「なに笑ってんの」
「笑ってねぇ」
「笑ってる」
「気のせいだろ」
「絶対笑ってる」
「お前の顔、面白いんだよ」
「最低」
「褒めてる」
「どこが」
「見てて飽きねぇ」
不意打ちだった。
「……場地ってたまに変なこと言うよね」
「たまにじゃねぇ」
「自覚あるんだ」
「ある」
即答に思わず笑う。
「ほら」
「なに」
「今笑った」
「あ?」
「その顔の方がいい」
空気が止まり、場地も固まる。
言った本人が一番驚いていた。
「……忘れろ」
「無理」
「忘れろって」
「無理だって」
「くそ」
珍しく場地が視線を逸らした。
◇
「場地って好きな人いるの?」
「ぶっ」
「汚い」
「急に何聞くんだよ」
「別に」
「別にで聞く内容じゃねぇだろ」
「で?」
「……いる」
心臓が痛い。
「ふーん」
「お前は」
「え?」
「好きなやついるのか」
いる。目の前に。
でも言えるわけがない。
「……いる」
今度は場地が黙る。
「そうか」
それだけ。それだけだった。
◇
帰り道、偶然隣になった。
沈黙に耐えきれなくなったのか、場地が口を開く。
「……なあ」
「好きなやつってどんなやつだ」
「なんで」
「参考までに」
「意味わかんない」
「いいから」
「……うるさいやつ」
「悪口か?」
「喧嘩っ早い」
「もっと悪化したな」
「人の話聞かない」
「最低だなそいつ」
「でも、結構優しい」
場地が黙る。
「困ってたら絶対放っとかないし」
場地の返事はない。
「誰かが傷つく方が嫌だって顔するし」
場地の歩く速度が少しだけ落ちる。
「自分のこと後回しにするし」
「……やめろ」
「え?」
「それ以上言うな」
「なんで」
「なんでもだ」
場地は前を向いたまま言う。
「俺の好きなやつに似てる」
息が止まる。
「……そう」
「ああ」
「どんな人なの」
「うるせぇ」
「自分から言ったんでしょ」
「……すぐ怒る」
「誰が」
「まだ最後まで言ってねぇ」
「ごめん」
「喧嘩すると絶対引かねぇ」
「面倒だね」
「ほんとにな」
場地が笑う。
「でも、誰より目ぇ離せねぇ」
言葉が出ない。
「笑った顔が好きだ」
視線が合う。逸らせない。
「……似てるね」
「だろ」
「びっくりするくらい」
「ああ」
二人ともそれ以上言えなかった。
◇
「お前さ」
「なに」
「鈍いよな」
「失礼」
「俺がどんだけ分かりやすかったと思ってんだ」
「知らないし」
「周りみんな気づいてたぞ」
「嘘」
「ほんと」
「じゃあ場地も鈍いじゃん」
「は?」
「わたしも分かりやすかったでしょ」
場地が止まる。
「……まじかよ」
「まじだけど」
「嘘だろ」
「失礼すぎる」
「いやだって」
珍しく言葉に詰まっている。
「お前、毎回喧嘩売ってくるし」
「場地が売ってくるからでしょ」
「俺か?」
「無自覚なの?」
「……俺だな」
「認めた」
「認める」
二人で笑う。
こんな風に笑うのは初めてだった。
◇
「なあ」
「ん?」
「付き合ったらさ」
「うん」
「毎日こんなんなのかな」
「絶対そう」
「だよな」
「毎日喧嘩」
「毎日仲直り」
「疲れそう」
「疲れるな」
「でも」
言葉が重なり目が合う。
「なんだよ」
「場地から言って」
「嫌だ」
「なんで」
「恥ずいだろ」
「場地でもそういうのあるんだ」
「あるに決まってんだろ」
「意外」
「お前な」
少しだけ沈黙。
「……好きだ」
場地が言った。
ぶっきらぼうに。
でも誤魔化さずに真っ直ぐ。
「ずっと前から」
「……わたしも」
「おう」
「好き」
場地が息を吐く。
安心したように困ったように少し笑った。
「やっとか」
「場地が言わないから」
「お前もだろ」
「そうだけど」
「じゃあおあいこだな」
「そうかも」
「……なあ」
「なに」
「これからも喧嘩すんのかな」
「するんじゃない?」
「だよな」
「場地だし」
「お前もだろ」
「否定できない」
「でも、ちゃんと言う」
「なにを?」
「嫌なことも好きなことも」
少しだけ照れくさそうに。
「言わねぇと分かんねぇからな」
「……うん」
「だからお前も言え」
「努力する」
「努力じゃなくてやれ」
「横暴だ」
「今さらだろ」
「確かに」
また笑う。
何度目だろう。
今日だけでたくさん笑った。
◇
「ななし」
「ん?」
名前を呼ばれる。
いつもと同じ。
なのに少し違う。
「好きだ」
「さっき聞いた」
「何回でも言う」
「急にどうしたの」
「言いたくなった」
「……じゃあ」
「ん?」
「わたしも」
場地が少しだけ目を見開く。
「好き」
「知ってる」
「じゃあ言わせないでよ」
「聞きたいだろ」
「ずるい」
「お前相手なら今さらだ」
そう言って笑う。
その顔を見て。
たぶん、この先もたくさん言いあうんだろうと思った。
くだらないことで揉めて意地を張って周りに呆れられて。
それでも、きっとまた隣にいる。
「場地」
「なんだ」
「帰ろ」
「ああ」
短いやり取り。
でもそれだけで十分だった。
◇
「おい」
「なに」
「明日も喧嘩すっか」
「宣言すること?」
「しねぇと調子狂う」
「変なの」
「今さらだろ」
「それもそう」
「でも」
「ん?」
「仲直りはちゃんとしろよ」
「うん」
「逃げんな」
「場地もね」
「ああ」
視線が合う。
今度は逸らさない。
「じゃあ明日な」
「また明日」
当たり前みたいな約束。
その当たり前が少しだけ特別になった日だった。
「場地にだけは言われたくないんだけど」
「は?」
「は? じゃないし」
睨み合うほんの数秒。
それだけなのに周囲が面白がるには十分な時間だった。
「また始まった」
「仲良いなあ、あの二人」
「どこがだよ!」
「どこがよ!」
声が重なる。
さらに周囲が笑う。
場地は露骨に顔をしかめた。
「お前、人の真似すんな」
「そっちが先でしょ」
「俺のが一瞬早かった」
「絶対違う」
「いや俺だ」
「わたし」
「俺」
「わたし!」
「……ガキかよ」
呆れたように言うくせに。
場地の口元が少しだけ緩んでいたことをななしは見逃した。
もっとも、見逃していなくとも気づかないふりをしていただろうけれど。
◇
「おい」
帰ろうとしていたところを呼び止められる。
振り返るまでもない。
「なに」
「これ落とした」
差し出されたのは見覚えのあるキーホルダーだった。
「あ」
「ったく、気づいてなかったのかよ」
「……ありがと」
「別に」
受け取ろうと手を伸ばした瞬間。
場地が少し高く持ち上げる。
「返して」
「これ結構ボロいな」
「余計なお世話」
「長く使ってんのか」
「……昔から」
「ふーん」
「場地、」
「なんだよ」
「返して」
「ちゃんと礼言え」
「言ったでしょ」
「聞こえなかった」
「絶対聞こえてた」
「聞こえねぇなあ」
「性格悪い」
「お前にだけな」
さらっと言われて一瞬だけ言葉に詰まる。
場地も少し目を逸らした。
「……ほらよ」
ようやく返されたキーホルダーを握る。
「ありがと」
今度はちゃんと聞こえる声で言った。
場地は短く「ああ」と返しただけだった。
◇
「また喧嘩してたのか?」
「してない」
「してたでしょ」
「してねぇ」
「してる」
周囲の指摘に二人同時に反論する。
「ほら」
「息ぴったりだな」
「違う!」
また重なる。
「……もういい」
ななしは顔を背けた。
場地も舌打ちをする。
「お前さ」
「なに」
「最近避けてるだろ」
「……避けてない」
「避けてる」
「気のせい」
「俺が話しかけてもすぐどっか行く」
「たまたま」
「ふーん」
じっと見られる。
居心地が悪い。
「……別に」
「別にぃ?」
「場地と話すと疲れるから」
言った瞬間、しまったと思った。
場地の表情が消える。
「あっそ」
短い返事。
それだけだった。
◇
その日から場地は本当に話しかけてこなくなった。
視線は合うが逸らされる。
近くに来ない。
以前ならくだらないことで絡んできたのに。
それがなくなると思っていたよりずっと静かだった。
「元気ないな」
「別に」
「場地となんかあった?」
「なんでもない」
なんでもないわけがない。
自分で言った言葉なのに何度思い返しても後悔しかなかった。
疲れるから……そんなこと本当は思ったことなんてない。
◇
「おい」
「……なに」
「これ」
久しぶりにちゃんと目が合う。
投げ渡された缶ジュースを慌てて受け取る。
「なんで」
「気が向いた」
「意味わかんない」
「じゃあ返せ」
「やだ」
「素直じゃねぇな」
「場地に言われたくない」
場地が笑う。
久しぶりに見た自然な顔だった。
「……この前の」
「あ?」
「ごめん」
場地が目を瞬く。
「疲れるとか言ったやつ」
沈黙は少しだけ長い。
「……別に気にしてねぇよ」
「嘘」
「なんでだよ」
「気にしてた顔してた」
場地は頭を掻いた。
「まあ、少しだけな」
「ごめん」
「俺も悪かった」
「場地が謝った」
「そんな驚くな」
「だって謝るイメージない」
「喧嘩売ってんのか」
「売ってない」
「ならいい」
少しだけ空気が軽くなる。
「……なあ」
「なに」
「……やっぱいい」
結局それだけだった。
◇
「場地、最近機嫌いいな」
「そうか?」
「そうだろ」
「知らねぇ」
「ななしと仲直りしたからじゃねぇの?」
「ぶっ飛ばすぞ」
「図星か」
場地は返事をしない。
その代わり少しだけ耳が赤かった。
◇
「場地」
「なんだ」
「なに笑ってんの」
「笑ってねぇ」
「笑ってる」
「気のせいだろ」
「絶対笑ってる」
「お前の顔、面白いんだよ」
「最低」
「褒めてる」
「どこが」
「見てて飽きねぇ」
不意打ちだった。
「……場地ってたまに変なこと言うよね」
「たまにじゃねぇ」
「自覚あるんだ」
「ある」
即答に思わず笑う。
「ほら」
「なに」
「今笑った」
「あ?」
「その顔の方がいい」
空気が止まり、場地も固まる。
言った本人が一番驚いていた。
「……忘れろ」
「無理」
「忘れろって」
「無理だって」
「くそ」
珍しく場地が視線を逸らした。
◇
「場地って好きな人いるの?」
「ぶっ」
「汚い」
「急に何聞くんだよ」
「別に」
「別にで聞く内容じゃねぇだろ」
「で?」
「……いる」
心臓が痛い。
「ふーん」
「お前は」
「え?」
「好きなやついるのか」
いる。目の前に。
でも言えるわけがない。
「……いる」
今度は場地が黙る。
「そうか」
それだけ。それだけだった。
◇
帰り道、偶然隣になった。
沈黙に耐えきれなくなったのか、場地が口を開く。
「……なあ」
「好きなやつってどんなやつだ」
「なんで」
「参考までに」
「意味わかんない」
「いいから」
「……うるさいやつ」
「悪口か?」
「喧嘩っ早い」
「もっと悪化したな」
「人の話聞かない」
「最低だなそいつ」
「でも、結構優しい」
場地が黙る。
「困ってたら絶対放っとかないし」
場地の返事はない。
「誰かが傷つく方が嫌だって顔するし」
場地の歩く速度が少しだけ落ちる。
「自分のこと後回しにするし」
「……やめろ」
「え?」
「それ以上言うな」
「なんで」
「なんでもだ」
場地は前を向いたまま言う。
「俺の好きなやつに似てる」
息が止まる。
「……そう」
「ああ」
「どんな人なの」
「うるせぇ」
「自分から言ったんでしょ」
「……すぐ怒る」
「誰が」
「まだ最後まで言ってねぇ」
「ごめん」
「喧嘩すると絶対引かねぇ」
「面倒だね」
「ほんとにな」
場地が笑う。
「でも、誰より目ぇ離せねぇ」
言葉が出ない。
「笑った顔が好きだ」
視線が合う。逸らせない。
「……似てるね」
「だろ」
「びっくりするくらい」
「ああ」
二人ともそれ以上言えなかった。
◇
「お前さ」
「なに」
「鈍いよな」
「失礼」
「俺がどんだけ分かりやすかったと思ってんだ」
「知らないし」
「周りみんな気づいてたぞ」
「嘘」
「ほんと」
「じゃあ場地も鈍いじゃん」
「は?」
「わたしも分かりやすかったでしょ」
場地が止まる。
「……まじかよ」
「まじだけど」
「嘘だろ」
「失礼すぎる」
「いやだって」
珍しく言葉に詰まっている。
「お前、毎回喧嘩売ってくるし」
「場地が売ってくるからでしょ」
「俺か?」
「無自覚なの?」
「……俺だな」
「認めた」
「認める」
二人で笑う。
こんな風に笑うのは初めてだった。
◇
「なあ」
「ん?」
「付き合ったらさ」
「うん」
「毎日こんなんなのかな」
「絶対そう」
「だよな」
「毎日喧嘩」
「毎日仲直り」
「疲れそう」
「疲れるな」
「でも」
言葉が重なり目が合う。
「なんだよ」
「場地から言って」
「嫌だ」
「なんで」
「恥ずいだろ」
「場地でもそういうのあるんだ」
「あるに決まってんだろ」
「意外」
「お前な」
少しだけ沈黙。
「……好きだ」
場地が言った。
ぶっきらぼうに。
でも誤魔化さずに真っ直ぐ。
「ずっと前から」
「……わたしも」
「おう」
「好き」
場地が息を吐く。
安心したように困ったように少し笑った。
「やっとか」
「場地が言わないから」
「お前もだろ」
「そうだけど」
「じゃあおあいこだな」
「そうかも」
「……なあ」
「なに」
「これからも喧嘩すんのかな」
「するんじゃない?」
「だよな」
「場地だし」
「お前もだろ」
「否定できない」
「でも、ちゃんと言う」
「なにを?」
「嫌なことも好きなことも」
少しだけ照れくさそうに。
「言わねぇと分かんねぇからな」
「……うん」
「だからお前も言え」
「努力する」
「努力じゃなくてやれ」
「横暴だ」
「今さらだろ」
「確かに」
また笑う。
何度目だろう。
今日だけでたくさん笑った。
◇
「ななし」
「ん?」
名前を呼ばれる。
いつもと同じ。
なのに少し違う。
「好きだ」
「さっき聞いた」
「何回でも言う」
「急にどうしたの」
「言いたくなった」
「……じゃあ」
「ん?」
「わたしも」
場地が少しだけ目を見開く。
「好き」
「知ってる」
「じゃあ言わせないでよ」
「聞きたいだろ」
「ずるい」
「お前相手なら今さらだ」
そう言って笑う。
その顔を見て。
たぶん、この先もたくさん言いあうんだろうと思った。
くだらないことで揉めて意地を張って周りに呆れられて。
それでも、きっとまた隣にいる。
「場地」
「なんだ」
「帰ろ」
「ああ」
短いやり取り。
でもそれだけで十分だった。
◇
「おい」
「なに」
「明日も喧嘩すっか」
「宣言すること?」
「しねぇと調子狂う」
「変なの」
「今さらだろ」
「それもそう」
「でも」
「ん?」
「仲直りはちゃんとしろよ」
「うん」
「逃げんな」
「場地もね」
「ああ」
視線が合う。
今度は逸らさない。
「じゃあ明日な」
「また明日」
当たり前みたいな約束。
その当たり前が少しだけ特別になった日だった。
