短編
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「で、今日はどっちと帰るの」
蘭の声にななしが目を瞬かせた。
「どっちとって何」
「俺か竜胆」
「選択肢がおかしいんだけど」
「おかしくねぇよな」
横から口を挟んだ竜胆が飲み物を傾ける。
「毎回ふわっと誤魔化して帰るから」
「別に誤魔化してないよ」
「してるしてる」
蘭が笑う。
「今日こそ決めよ」
「なんで今日なの」
「暇だから」
「理由が軽い」
「竜胆は?」
「俺も暇」
「兄弟そろって暇なの」
「失礼だな」
「仕事はしてる」
「してるんだ」
「疑った?」
「ちょっとだけ」
「傷ついたわ」
蘭はそう言いながら全然傷ついていない顔をした。
竜胆も呆れたように肩を竦める。
「で、どっち」
「帰らない」
「却下」
「選択肢増やして」
「増やしたら俺ら負ける可能性あるし」
「最初から公平じゃないんだ」
「勝負ってそういうもん」
「何の勝負なの」
「恋愛レース」
「参加した覚えない」
「エントリー済み」
「勝手に!?」
蘭が楽しげに笑い声を漏らした。
◇
結局三人で歩くことになった。
「ほらな」
「何が」
「選べない」
「選んでないだけ」
「似たようなもんじゃん」
蘭が言う隣で竜胆が頷いた。
「俺らも別に急かしてるわけじゃねぇし」
「さっき急かしてたよね」
「遊んでただけ」
「たち悪いなぁ」
「でもさ、お前が他の奴といたら普通に嫌だけど」
「……急に真面目」
「俺も嫌」
竜胆も続く。
「兄貴といるのは別」
「その理屈がわからない」
「兄弟だから」
「万能ワードみたいに使わないで」
「便利だからな」
蘭が笑う。
ななしはため息をついた。
「じゃあわたしが誰かと付き合ったら?」
「誰と」
「二人が知らない人」
「嫌」
「即答」
「嫌なもんは嫌」
竜胆の返答は早かった。
蘭も当然のように頷く。
「だよな」
「だよなじゃないの」
「でも俺らは許される」
「なんで」
「灰谷兄弟だから」
「また万能ワード」
◇
数日後。
「お前さ」
蘭が突然質問を投げてくる。
「好きなタイプとかあんの」
「急だなぁ」
「答えて」
「優しい人」
「俺、優しい」
「俺も」
「自己申告制なんだ」
「他は?」
「面白い人」
「俺ら面白いよな」
「自信すごいね」
「あと?」
「話してて楽な人」
蘭と竜胆が顔を見合わせた。
「勝った」
「勝ったな」
「まだ結果出してないけど」
「総合優勝」
「審査員誰」
「俺」
「俺も」
「身内審査だ」
「……じゃあ逆に聞くけど」
ななしが二人を見る。
「わたしのどこが好きなの」
珍しく沈黙が落ちた。
「……」
「……」
「ほら」
「いや」
蘭が頭を掻く。
「意外と難しい質問」
「好きな理由って後付けじゃねぇ?」
竜胆も眉を寄せる。
「いると落ち着くし」
「話してると楽しいし」
「変に気を遣わねぇし」
「あと、俺らのこと怖がらない」
ななしは少しだけ目を逸らす。
「え、怖い時もあるよ」
「え」
「あるの!?」
「なんでショック受けるの」
「いや俺ら結構頑張ってるし」
「威圧感消そうとしてる」
「努力の方向がおかしい」
「どこが怖かった?」
「二人とも無言で同じタイミングで振り向いた時」
「あー」
「あるな」
「ホラー映画みたいだった」
「反省する」
竜胆が素直に頭を下げた。
蘭が吹き出す。
◇
「蘭」
「んー?」
「竜胆」
「何」
「二人とも近くない?」
「近くない」
「近いよ」
「ほら」
蘭が肩を寄せる。
「これくらい普通」
「普通じゃない」
「竜胆どう思う」
「普通」
竜胆も寄る。
「増えた!」
「何が」
「圧が」
「愛情の圧?」
「物理の圧」
蘭が笑いすぎて肩を震わせる。
「お前、面白いな」
「笑い事じゃないんだけど」
「じゃあ離れる?」
「……少しだけ」
二人がほんの少し距離を取る。
「極端!」
「言われた通りにしただけ」
「加減を覚えて」
「……決めた」
急に蘭が言った。
「何を?」
「デート」
「誰と」
「俺と」
「いや俺だろ」
竜胆が即座に返す。
「先に言ったの俺」
「じゃあじゃんけん」
「人を景品みたいに扱わないで」
「じゃあお前が決めて」
二人の視線が集まる。
ななしは黙った。
「……」
「……」
「無理」
「だと思った」
「だよな」
「じゃあ三人で行くか」
「結局それ」
「平和的解決」
「デートではないよね」
「三人デート」
「日本語って便利」
◇
「蘭ってさ」
「ん?」
「昔からこんな感じなの」
「こんな感じって」
「自由」
「褒めてる?」
「半分くらい」
「竜胆は?」
「兄貴は昔から兄貴」
「説明になってない」
「竜胆は昔から苦労してる」
「余計なお世話」
「小さい頃から大変だったんだろうなぁ」
「今も大変」
「聞こえてるぞ竜胆」
「聞かせてる」
ななしが笑う。
二人が同時にそちらを見る。
「また同時」
「兄弟だから」
「便利ワード禁止」
「禁止された」
「悲しい」
「全然悲しそうじゃない」
◇
「なぁ」
蘭が言った。
「もしさ」
「うん」
「どっちか選べって言われたら困る?」
「困るよ」
「そっか」
「蘭は?」
「困る」
「え?」
「竜胆いなくなるの嫌だし」
竜胆が小さく笑った。
「俺も同じ」
「兄弟愛が強いなぁ」
「だからお前も困るんだろ」
「……うん」
「じゃあ同じだな」
蘭が言う。
「別に急がなくていいんじゃね」
竜胆も頷いた。
「答えってさ、無理やり出すもんでもねぇし」
ななしは少し驚いた顔をした。
「意外」
「何が」
「もっと押してくると思った」
「押してるだろ」
「毎日押してる」
「それは否定できない」
「でも、待つくらいはできる」
「俺ら案外大人」
「自分で言うんだ」
「大事だろ自己評価」
「ただし、他の男が出てきたら話変わる」
「急に物騒」
「それは俺も同意」
「結託しないで」
「そこは兄弟だから」
「また!」
三人の笑い声が重なる。
「なぁ、ななし」
「なに?」
「俺と竜胆どっちが好き?」
「まだ聞くの?」
「気になる」
「俺も」
ななしは少し考える。
「……決められない」
蘭が笑った。
竜胆も小さく息を吐く。
「知ってた」
「でも嬉しいな」
「ずるい答えだけどね」
「ずるいのはお互い様だろ」
蘭が言う。
「俺らだって一人に決めろって言われたら困るし」
「兄弟だから?」
「いや」
蘭が笑う。
「竜胆だから」
竜胆が目を細めた。
「……そういうこと言うな」
「照れた?」
「うるさい」
「仲良いなぁ」
「お前も入ってる」
「そうそう」
蘭が頷く。
「だから意外とうまくいってんだろ」
「変な関係」
「でも嫌いじゃない」
竜胆の言葉に二人が静かに笑う。
答えはまだ出ない。
たぶん明日も出ない。
それでも三人でいる時間は妙に心地よくて。
蘭は相変わらず自由で。
竜胆は相変わらず冷静で。
そして二人は相変わらず息が合っている。
「なぁ」
「今度こそ決めよ」
蘭が言う。
「また始まった」
「俺か蘭か」
「だから選択肢増やしてって」
「じゃあ追加するか」
「え?」
「俺ら二人」
「増えてない!」
笑い声が重なった。
答えが出る日はまだ遠い。
けれどそれも悪くない。
少なくとも今は。
三人とも、そう思っていた。
蘭の声にななしが目を瞬かせた。
「どっちとって何」
「俺か竜胆」
「選択肢がおかしいんだけど」
「おかしくねぇよな」
横から口を挟んだ竜胆が飲み物を傾ける。
「毎回ふわっと誤魔化して帰るから」
「別に誤魔化してないよ」
「してるしてる」
蘭が笑う。
「今日こそ決めよ」
「なんで今日なの」
「暇だから」
「理由が軽い」
「竜胆は?」
「俺も暇」
「兄弟そろって暇なの」
「失礼だな」
「仕事はしてる」
「してるんだ」
「疑った?」
「ちょっとだけ」
「傷ついたわ」
蘭はそう言いながら全然傷ついていない顔をした。
竜胆も呆れたように肩を竦める。
「で、どっち」
「帰らない」
「却下」
「選択肢増やして」
「増やしたら俺ら負ける可能性あるし」
「最初から公平じゃないんだ」
「勝負ってそういうもん」
「何の勝負なの」
「恋愛レース」
「参加した覚えない」
「エントリー済み」
「勝手に!?」
蘭が楽しげに笑い声を漏らした。
◇
結局三人で歩くことになった。
「ほらな」
「何が」
「選べない」
「選んでないだけ」
「似たようなもんじゃん」
蘭が言う隣で竜胆が頷いた。
「俺らも別に急かしてるわけじゃねぇし」
「さっき急かしてたよね」
「遊んでただけ」
「たち悪いなぁ」
「でもさ、お前が他の奴といたら普通に嫌だけど」
「……急に真面目」
「俺も嫌」
竜胆も続く。
「兄貴といるのは別」
「その理屈がわからない」
「兄弟だから」
「万能ワードみたいに使わないで」
「便利だからな」
蘭が笑う。
ななしはため息をついた。
「じゃあわたしが誰かと付き合ったら?」
「誰と」
「二人が知らない人」
「嫌」
「即答」
「嫌なもんは嫌」
竜胆の返答は早かった。
蘭も当然のように頷く。
「だよな」
「だよなじゃないの」
「でも俺らは許される」
「なんで」
「灰谷兄弟だから」
「また万能ワード」
◇
数日後。
「お前さ」
蘭が突然質問を投げてくる。
「好きなタイプとかあんの」
「急だなぁ」
「答えて」
「優しい人」
「俺、優しい」
「俺も」
「自己申告制なんだ」
「他は?」
「面白い人」
「俺ら面白いよな」
「自信すごいね」
「あと?」
「話してて楽な人」
蘭と竜胆が顔を見合わせた。
「勝った」
「勝ったな」
「まだ結果出してないけど」
「総合優勝」
「審査員誰」
「俺」
「俺も」
「身内審査だ」
「……じゃあ逆に聞くけど」
ななしが二人を見る。
「わたしのどこが好きなの」
珍しく沈黙が落ちた。
「……」
「……」
「ほら」
「いや」
蘭が頭を掻く。
「意外と難しい質問」
「好きな理由って後付けじゃねぇ?」
竜胆も眉を寄せる。
「いると落ち着くし」
「話してると楽しいし」
「変に気を遣わねぇし」
「あと、俺らのこと怖がらない」
ななしは少しだけ目を逸らす。
「え、怖い時もあるよ」
「え」
「あるの!?」
「なんでショック受けるの」
「いや俺ら結構頑張ってるし」
「威圧感消そうとしてる」
「努力の方向がおかしい」
「どこが怖かった?」
「二人とも無言で同じタイミングで振り向いた時」
「あー」
「あるな」
「ホラー映画みたいだった」
「反省する」
竜胆が素直に頭を下げた。
蘭が吹き出す。
◇
「蘭」
「んー?」
「竜胆」
「何」
「二人とも近くない?」
「近くない」
「近いよ」
「ほら」
蘭が肩を寄せる。
「これくらい普通」
「普通じゃない」
「竜胆どう思う」
「普通」
竜胆も寄る。
「増えた!」
「何が」
「圧が」
「愛情の圧?」
「物理の圧」
蘭が笑いすぎて肩を震わせる。
「お前、面白いな」
「笑い事じゃないんだけど」
「じゃあ離れる?」
「……少しだけ」
二人がほんの少し距離を取る。
「極端!」
「言われた通りにしただけ」
「加減を覚えて」
「……決めた」
急に蘭が言った。
「何を?」
「デート」
「誰と」
「俺と」
「いや俺だろ」
竜胆が即座に返す。
「先に言ったの俺」
「じゃあじゃんけん」
「人を景品みたいに扱わないで」
「じゃあお前が決めて」
二人の視線が集まる。
ななしは黙った。
「……」
「……」
「無理」
「だと思った」
「だよな」
「じゃあ三人で行くか」
「結局それ」
「平和的解決」
「デートではないよね」
「三人デート」
「日本語って便利」
◇
「蘭ってさ」
「ん?」
「昔からこんな感じなの」
「こんな感じって」
「自由」
「褒めてる?」
「半分くらい」
「竜胆は?」
「兄貴は昔から兄貴」
「説明になってない」
「竜胆は昔から苦労してる」
「余計なお世話」
「小さい頃から大変だったんだろうなぁ」
「今も大変」
「聞こえてるぞ竜胆」
「聞かせてる」
ななしが笑う。
二人が同時にそちらを見る。
「また同時」
「兄弟だから」
「便利ワード禁止」
「禁止された」
「悲しい」
「全然悲しそうじゃない」
◇
「なぁ」
蘭が言った。
「もしさ」
「うん」
「どっちか選べって言われたら困る?」
「困るよ」
「そっか」
「蘭は?」
「困る」
「え?」
「竜胆いなくなるの嫌だし」
竜胆が小さく笑った。
「俺も同じ」
「兄弟愛が強いなぁ」
「だからお前も困るんだろ」
「……うん」
「じゃあ同じだな」
蘭が言う。
「別に急がなくていいんじゃね」
竜胆も頷いた。
「答えってさ、無理やり出すもんでもねぇし」
ななしは少し驚いた顔をした。
「意外」
「何が」
「もっと押してくると思った」
「押してるだろ」
「毎日押してる」
「それは否定できない」
「でも、待つくらいはできる」
「俺ら案外大人」
「自分で言うんだ」
「大事だろ自己評価」
「ただし、他の男が出てきたら話変わる」
「急に物騒」
「それは俺も同意」
「結託しないで」
「そこは兄弟だから」
「また!」
三人の笑い声が重なる。
「なぁ、ななし」
「なに?」
「俺と竜胆どっちが好き?」
「まだ聞くの?」
「気になる」
「俺も」
ななしは少し考える。
「……決められない」
蘭が笑った。
竜胆も小さく息を吐く。
「知ってた」
「でも嬉しいな」
「ずるい答えだけどね」
「ずるいのはお互い様だろ」
蘭が言う。
「俺らだって一人に決めろって言われたら困るし」
「兄弟だから?」
「いや」
蘭が笑う。
「竜胆だから」
竜胆が目を細めた。
「……そういうこと言うな」
「照れた?」
「うるさい」
「仲良いなぁ」
「お前も入ってる」
「そうそう」
蘭が頷く。
「だから意外とうまくいってんだろ」
「変な関係」
「でも嫌いじゃない」
竜胆の言葉に二人が静かに笑う。
答えはまだ出ない。
たぶん明日も出ない。
それでも三人でいる時間は妙に心地よくて。
蘭は相変わらず自由で。
竜胆は相変わらず冷静で。
そして二人は相変わらず息が合っている。
「なぁ」
「今度こそ決めよ」
蘭が言う。
「また始まった」
「俺か蘭か」
「だから選択肢増やしてって」
「じゃあ追加するか」
「え?」
「俺ら二人」
「増えてない!」
笑い声が重なった。
答えが出る日はまだ遠い。
けれどそれも悪くない。
少なくとも今は。
三人とも、そう思っていた。
