灰谷蘭・竜胆
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
リビングのソファに深く腰掛けた竜胆は、手元のグラスを揺らし琥珀色の液体を喉に流し込んだ。
気だるげに細められた目の奥に、拭いきれない苛立ちがくすぶっている。
首元に覗く刺青が、彼がまっとうな世界の住人ではないことを何も言わずに示していた。
インターホンが鳴ったのは、竜胆が三杯目のグラスを空けた時だった。
扉を開けた瞬間、飛び込んできたのは、■■■のいつもの明るい笑顔だ。
「ごめんね。仕事が少し長引いちゃって」
「……勝手に来んなって、いつも言ってんだろ」
「夕飯まだでしょ? 竜胆が好きそうなもの買ってきたから」
「いらねぇよ。さっさと帰れ」
突き放すような言葉。
だが、■■■はひるまなかった。
その言葉の裏に何かがある気がして、なぜか離れる気になれない。
キッチンへ向かおうとする■■■の腕を、竜胆が荒々しく掴む。
「……っ、竜胆?」
「ここはオマエみたいなのが居ていい場所じゃねぇって、いつになったら理解するんだ」
掴まれた腕に強い力がこもる。
竜胆の指先は、微かに震えていた。
何を思っているのか分からないまま、その震えだけが伝わってくる。
「痛いよ、竜胆……」
「だろうな」
「……わたしは竜胆と一緒にいたいから来てるんだよ」
「バカか? オレがどういう人間か知ってて言ってんのか」
竜胆は■■■の体を乱暴に引き寄せ、耳元で低く囁く。
「大丈夫だよ。わたし、そんなに弱くないもん」
「……うっざ」
「竜胆が、わたしのこと大切に思ってくれてるって知ってるよ」
「……ムカつくんだよ、オマエ」
「ごめんね」
「なんでそうやって全部知ったような口を利くんだ」
「竜胆の考えてることくらい、少しはわかるよ」
「わかってねぇよ、何も……」
竜胆の腕に、さっきよりも強い力がこもった。
誰にも渡したくないとでも言うように、■■■を閉じ込める腕は少しも緩まない。
なのに、その声はどこか諦めたようにも聞こえた。
「もっと普通の男と、普通の場所で笑ってろよ」
竜胆の声は掠れていた。
「美味いもん食って、行きたいところに行って、……平和に暮らせ」
「竜胆がいないなら、わたしには意味がないよ」
「……そういう綺麗事が、一番ムカつく」
言いながらも、竜胆は■■■を離さない。
むしろ、その細い体を、覆い隠すようにさらに強く抱きしめ直した。
「■■■、こっち向け」
低い命令に従い顔を上げると、そこには射抜くような鋭い視線があった。
竜胆の指が、■■■の唇を乱暴になぞる。
それなのに、その動きはなかなか離れていかなかった。
「……後悔しても遅いからな」
「しないよ」
「明日、目が覚めて絶望しても知らねぇぞ」
竜胆は■■■の返事を待たずに、その唇を塞いだ。
強引で痛いほどの口づけ。
まるで自分のものだと刻みつけられているようだった。
唇が離れた後、竜胆は■■■の額に自分の額を預け、短く息を吐いた。
「……飯、食ってやるから出せ」
「ちゃんと脂質少なめのもの買ってきたよ」
「……オマエ、ほんと真面目だな」
竜胆が小さく笑うと、その顔からわずかに険が取れた。
「竜胆がちゃんと食べないと、心配なんだもん」
「……勝手にしろ」
キッチンから戻ると、竜胆はソファに深く身を沈めたまま、窓の外をぼんやりと眺めていた。
「……どうかした?」
「別に」
そう言って、竜胆は自分の手のひらを見つめる。
何かを確かめるような、長い沈黙だった。