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荷物が雑然と置かれた壁際のカウチに、体を沈め込む。
テーブルの端には使いかけの備品が放置されていた。
少し離れた場所で作業を終えたカートが、手を止めて深く息を吐く。
指先を軽く拭うこともなく、乱暴に前髪をかき上げた。
「ちょっと横になる」
声をかける間もなく、隣のスペースへすべり込むように体が倒れ込んできた。
肩口に重みがかかる。
そのまま頭を太ももの上に乗せ、うつ伏せのまま身体を預けてくる。
「……おい、動くなよ」
「ちょっと、重いって」
「いいからじっとしてろ」
小さく息を吐いた彼は、うつ伏せのまま腕を回してきた。
腰に腕を回され、ぎゅっと抱き込まれる。
「カート、苦しい」
「俺は疲れてんだよ」
「……もう」
頭頂部を軽く撫でてやるも、力を抜く気配を見せない。
「作業、終わったの?」
「だいたいはな」
「じゃあ、自分のベッドに行けばいいのに」
「なんだよ、文句あんのか」
「だって、重いんだもん」
「……」
「無言にならないでよ」
再び顔を腹のあたりに押し当てられ、ぐっと腕の力が強まる。
普段の彼は、周囲に誰もいない時でも滅多に態度を変えない。
皮肉混じりの短い言葉しか口にしないような男だ。
それが二人きりになると、こうして当たり前のように身を寄せてくる。
「……■■■」
「なに?」
「動くなつってんだろ」
ただ返事をしただけなのに、理由をつけて制止される。
わずかに体が揺れたことすら気に入らないらしい。
「動いてないよ」
「呼吸で腹が動くだろ」
「息を止めろって?」
「そこまでは言ってない」
吐き捨てるような言い草だが、腕の力は緩むどころか、さらに体を引き寄せようとしてくる。
深く腰掛け直そうとすると、太ももの上の頭が不機嫌そうに揺れた。
「じっとしてろって言ったろ」
「……苦しい」
「我慢しろ」
「クッションくらい使ってよ」
「は? だるいって」
開き直った声には、反論を受け付ける気配が微塵もない。
彼の指先が服の裾を掴み、軽く引っ張られた。
部屋の隅では小さなインジケーターが点滅を繰り返している。
どれくらいの時間が経ったのか、窓のない部屋では時間の感覚が曖昧になっていく。
膝の上の重みは呼吸に合わせてゆっくりと上下していた。
眠ってしまったのかと思い、そっと髪に触れる。
「……起きてるぞ」
「髪の毛触られるの嫌だった?」
「……嫌とは言ってない」
不機嫌そうな声のまま、カートは少しだけ体勢を変え、こちらを見上げるように横顔を向けた。
薄暗い光の中で、額にかかった髪がわずかに揺れる。
「もっと撫でろ」
「注文が多いね」
「文句あるならあっち行け」
「じゃあ離してよ」
「……」
「もう、また黙る」
「……大人しく撫でろ」
指示通りに髪の生え際から頭頂部へ向かって指を滑らせると、彼は満足したように小さく息を吐いた。
「明日も早いんでしょ?」
「あぁ」
「ねえ、カート」
「なんだよ。静かにしろ」
文句を言いながらも、顔を寄せる位置はさらに近くなる。
腹部に額を押し付けられ、服の生地越しにさらさらとした髪がすれて触れた。
「カート」
「だからなんだよ」
「……好きだよ」
「……急になんだよ」
「ちょっと言ってみただけ」
「……紛らわしいこと言ってんじゃねえよ」
低く籠もった声が返ってくる。
それでも顔は見せてくれない。
髪のすき間から覗く耳だけが、隠しきれないほど赤くなっていた。
「もしかして照れてる?」
「……うるせえ」
低く吐き捨てられた言葉とは裏腹に、腰を抱え込む腕の力がぐっと強まる。
「苦しいってば」
「うるさい」
「ねえ、カート」
「……」
すっぽりと顔を押し付けたまま動きを止めてしまった彼に、苦笑しながら髪へと指を差し込む。
さらさらとした毛筋が指の間を滑り落ちていく感覚が心地よくて、何度も何度も丁寧に撫で下ろした。
「……お前さ」
「ん?」
「調子乗ってると置いてくぞ」
「カートは置いていかないでしょ」
自信満々に返すと、太ももの上の頭がむっとしたように動いた。
少しだけ顔を上げた彼と、薄暗がりの中で目が合う。
「なんでそう言い切れるんだよ」
「だって、カートが私を離してくれないもん」
「……勘違いすんな」
そう言いながらも、掴んだ手は離れない。
彼は小さく舌打ちをすると、腹いせのようにこちらの服の裾をくしゃりと掴み直す。
文句を言いながらも、彼は再び腹部に顔をうずめた。
さらりとした髪が肌に触れるたび、くすぐったさに思わず口元が緩んだ。
部屋の隅で点滅するインジケーターの光だけが、変わらない間隔で明滅を繰り返していた。
「カート」
「……しつこい」
「どこにも行かないよ」
「……ならいい」
大きく息を吐くと、彼の肩からすっと力が抜けた。
それでも、服を掴んだ指だけは緩まない。
髪を撫でる手を止めないまま、その丸まった背中にそっと手を添えた。
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