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試合が終わっても、どうにも動き出せずにいた。
すぐ声をかけに行けば「来てたんだ」ってバレバレだし、かといって黙って帰るのもなんか違う。
結局、人の波が引いて体育館の空気が冷えていくのを、ただぼーっと待つことしかできなかった。
まあ、気にしているのは自分だけで、ここで粘ったところで月島くんに見つかる保証なんてどこにもなかったんだけど。
「……何してんの」
急に頭の上から落ちてきた声に、肩が跳ねる。
「え、月島くん!? なんで!?」
「あのさぁ、それはこっちのセリフだけど」
首にかけたタオルをそのままに、月島くんが眉を寄せて見下ろしていた。
視線がふいっと逸れて、がらんとしたコートのほうへ向く。
「来てたの?」
「うん」
「いつから」
「公式練のあたりから」
「それ、最初からじゃん」
短く息を吐いた月島くんは、またじっとこちらを見てくる。
「……こういうの嫌がりそうだと思って」
「何が?」
「こっそり見に来たこと」
「別に……嫌がったりなんか……」
言いかけて、月島くんは口をつぐんだ。
「嫌じゃなかった?」
「……だから別に、嫌じゃないよ」
「ならみんなと混ざって応援したらよかったかな」
「君、応援とかできるの?」
「ナイス上げーとか言いたいよ」
「……僕、そんなレシーブするポジションじゃないでしょ」
「レアだからこそ言いたいじゃん」
「……まあ、盛り上がるしね」
「でしょ?」
「普通に応援すればいいじゃん」
「バレーの応援の普通がわからない」
「面倒くさいね」
口ではそう言いながらも、どこか楽しそうに見えるのは気のせいじゃないはずと思いたい。
二人で並んで、さっきまで熱気が溜まっていたはずのコートを見つめる。
「試合、勝ったね」
「まあね」
「おめでとう」
「……どうも」
相変わらず月島くんの返事は素っ気ない。
「感想は熱弁しそうだからやめとく」
「何それ」
「また見に来てもいい?」
「……別に、見に来るくらいでどうこう言わないよ」
「ほんとに?」
「君、都合よく解釈するよね。だめとは言ってないでしょ」
まわりの雑音が引いた通路に、沈黙が落ちる。
月島くんは何か言いかけたみたいに微かに口を開いたけれど、結局何も言わずにタオルの端を指先でいじっていた。
「集合、平気? 引き止めちゃってごめんね」
「■■■さんが勝手に話しかけてるだけでしょ」
「月島くんが声かけてくれたんじゃん」
「まあ、仕方なくね」
「え、ショック」
「思ってないくせに」
「次は、こっそりじゃなく普通に来てもいい?」
「……好きにすれば。試合くらい、いつでも来たらいいじゃん」
「試合前に声かけてもいい?」
「いらない。集中できなくなりそうだから」
「メンタルトレーニングにならない?」
「……なんか、そういうのはいい」
そっぽを向く横顔があからさまに不器用で、思わず吹き出しそうになる。
「そろそろ戻るから」
「うん」
「じゃあね」
背を向けた月島くんに、もう一度だけ声をかけた。
「月島くん、今日はお疲れさま。次も見に行くね」
「勝手にすれば」
捨てゼリフを残して歩き出した背中を見送っていると、数歩進んだところで足がぴたっと止まった。
ゆっくり振り返った顔は、落ちてきた夕暮れの影になっていてよく見えない。
「次、来るなら、ちゃんと見えるところにいてよね」
「え?」
「……終わったあと、探すの面倒だし」
静かな余韻だけをその場に残して、今度こそ彼は大きな背中を向けて去っていった。
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