ディアソムニア
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オンボロ寮の談話室。
暖炉の火はとうに消え、冷えた空気の中に魔法灯の淡い光だけが浮いている。リリアは音もなく近づくと、ななしの首筋に顔を寄せ、低く笑った。
「ななし、まだ寝ておらぬのか。ペンを握る指先が震えておるぞ」
「あ……リリア先輩。あともう少しだけ、まとめておきたくて。これくらいやらないと落ち着かないんです」
「ふむ、お主のそういう一生懸命なところは嫌いではないが、今夜は少々度が過ぎる。ほれ、わしの目を見ろ」
至近距離で見つめてくる瞳。
リリアの手が机を突き、ななしを閉じ込める形になる。
「リリア先輩、顔が近すぎます……」
「近い方が、お主の嘘を見抜きやすい。……目は泳ぎ、顔は火照っておる。これは課題のせいか? それとも、わしのせいか?」
「それは……どちらも、だと思います。先輩がそんなにじっと見るから」
リリアは満足げに目を細め、空いた手でななしの髪をゆっくりと指に絡める。彼の指先から伝わる微かな熱が、うなじから背筋へとじわじわと伝染していく。会話を重ねるごとに、二人の間の空気が濃密に、甘く変化していく。
「お主はいつも自分に厳しすぎる。わしの前でくらい、甘えても罰は当たらぬぞ」
「甘え方が、よくわからないんです。いつも気づいたら必死になっちゃってて」
「ならば、わしがおしえてやろう。……まずは、その強張った身体をわしに預けることからじゃ」
リリアがななしの腰を引き寄せ、抱き上げる。驚いて声を上げようとした唇が、彼の指先でそっと塞がれる。彼の冷たそうな外見とは裏腹に、抱きしめる腕は驚くほど熱い。
「……っ、先輩、こんなの、心臓に悪いです」
「くふふ、わしの胸にもしっかり響いておる。お主の熱い動悸がな。……いいか、ななし。わしはお主の頑張りを誰よりも認めておる。だが、それ以上に、お主を独り占めしたいとも願っておるのだ」
リリアの吐息が耳元を掠め、全身の力がふっと抜けていく。
彼に深く抱きしめられる感覚は、心地よい痺れとなってななしの思考を奪っていく。内面を満たしていくのは、自分を追い込む苦しさではなく、リリアに求められているという圧倒的な充足感。
「先輩にそう言われると、全部どうでもよくなっちゃいそうです」
「それでよい。今この瞬間、お主の世界にはわしだけがいればいい。他の雑音など、わしがすべて追い払ってやろう」
リリアはななしの首筋に深く顔を埋め、深く息を吸い込む。
吸血鬼特有の、独占欲に満ちた熱い抱擁。
ななしは逃げることも忘れ、リリアが与えてくれる甘い毒のような安らぎの中に、溶けるように身を任せていく。
「……リリア先輩。さっきから、離してくれる気配がまったくないですね」
「当たり前であろう。お主がこれほど素直にわしの腕に収まっておるのだ。この好機を逃すほど、わしは物分かりのよい男ではないぞ」
リリアはクスクスと喉を鳴らし、抱きしめる腕の力をさらに強める。
ななしの背中に回された彼の手のひらから、心臓の鼓動が伝わるほどの熱が波のように押し寄せてくる。視界の端で揺れていた魔法灯の火さえも、今の二人には遠い世界の出来事のように感じられる。
「でも、これじゃあ作業が全然進みません。明日、学園長に怒られちゃいます」
「あやつにはわしから言っておいてやろう。『ななしはわしが美味しくいただいた』とな」
「……っ! 変な言い方しないでください。みんなに誤解されます!」
「誤解? くふふ、お主はこれがただの冗談に見えるのか? わしの目は、いつになく本気だぞ」
リリアがななしの顎を指先ですくい上げ、強引に視線を固定する。潤んだ紅い瞳が、獲物を狙う獣のように、あるいは慈しむ恋人のように、甘く揺らめいている。
彼の顔がさらに近づき、鼻先が触れ合うほどの距離で熱い吐息が唇に降りかかる。
「……リリア、先輩……」
「お主のその声、もっと聞かせておくれ。わしの名を呼ぶたびに、胸の奥がチリチリと焼けるように熱くなる。この感覚は、長い時を生きてきたわしにとっても、ひどく新鮮で、恐ろしいほどに心地よい」
リリアの唇が、ななしの耳たぶを優しく食む。
頭の芯が真っ白になり、指先まで甘い痺れが駆け巡る。自分を追い込んでいた張り詰めた気持ちは、彼によって跡形もなく溶かされていく。
「わたし、先輩が思ってるよりずっと、リリア先輩のことばかり考えてます。だから、そんな風にされると、もう……」
「……ほう。それは、わしへの愛の告白と受け取ってもよいのか?」
「……そうですよ。気づいてたくせに、意地悪です」
「くふふ、お主の口から直接聞きたかったのじゃ。可愛い奴め」
リリアは満足げに目を細め、ななしの額に、頬に、そして最後に唇の端に、羽毛が触れるような優しいキスを落とす。
内面のすべてがリリアという存在だけで満たされていく充足感。言葉にならない甘い熱が、静かな談話室の空気をどこまでも濃密に変えていく。
「今夜はお主を寝かせてやらんぞ、ななし。わしの愛を、その身にしっかりと刻み込むまでな」
リリアの腕に抱かれたまま、ななしは彼の深い情愛の海へと、ただ溺れるように身を委ねる。窓の外で夜風が鳴る中、二人の吐息だけが、甘く重なり続けていた。
暖炉の火はとうに消え、冷えた空気の中に魔法灯の淡い光だけが浮いている。リリアは音もなく近づくと、ななしの首筋に顔を寄せ、低く笑った。
「ななし、まだ寝ておらぬのか。ペンを握る指先が震えておるぞ」
「あ……リリア先輩。あともう少しだけ、まとめておきたくて。これくらいやらないと落ち着かないんです」
「ふむ、お主のそういう一生懸命なところは嫌いではないが、今夜は少々度が過ぎる。ほれ、わしの目を見ろ」
至近距離で見つめてくる瞳。
リリアの手が机を突き、ななしを閉じ込める形になる。
「リリア先輩、顔が近すぎます……」
「近い方が、お主の嘘を見抜きやすい。……目は泳ぎ、顔は火照っておる。これは課題のせいか? それとも、わしのせいか?」
「それは……どちらも、だと思います。先輩がそんなにじっと見るから」
リリアは満足げに目を細め、空いた手でななしの髪をゆっくりと指に絡める。彼の指先から伝わる微かな熱が、うなじから背筋へとじわじわと伝染していく。会話を重ねるごとに、二人の間の空気が濃密に、甘く変化していく。
「お主はいつも自分に厳しすぎる。わしの前でくらい、甘えても罰は当たらぬぞ」
「甘え方が、よくわからないんです。いつも気づいたら必死になっちゃってて」
「ならば、わしがおしえてやろう。……まずは、その強張った身体をわしに預けることからじゃ」
リリアがななしの腰を引き寄せ、抱き上げる。驚いて声を上げようとした唇が、彼の指先でそっと塞がれる。彼の冷たそうな外見とは裏腹に、抱きしめる腕は驚くほど熱い。
「……っ、先輩、こんなの、心臓に悪いです」
「くふふ、わしの胸にもしっかり響いておる。お主の熱い動悸がな。……いいか、ななし。わしはお主の頑張りを誰よりも認めておる。だが、それ以上に、お主を独り占めしたいとも願っておるのだ」
リリアの吐息が耳元を掠め、全身の力がふっと抜けていく。
彼に深く抱きしめられる感覚は、心地よい痺れとなってななしの思考を奪っていく。内面を満たしていくのは、自分を追い込む苦しさではなく、リリアに求められているという圧倒的な充足感。
「先輩にそう言われると、全部どうでもよくなっちゃいそうです」
「それでよい。今この瞬間、お主の世界にはわしだけがいればいい。他の雑音など、わしがすべて追い払ってやろう」
リリアはななしの首筋に深く顔を埋め、深く息を吸い込む。
吸血鬼特有の、独占欲に満ちた熱い抱擁。
ななしは逃げることも忘れ、リリアが与えてくれる甘い毒のような安らぎの中に、溶けるように身を任せていく。
「……リリア先輩。さっきから、離してくれる気配がまったくないですね」
「当たり前であろう。お主がこれほど素直にわしの腕に収まっておるのだ。この好機を逃すほど、わしは物分かりのよい男ではないぞ」
リリアはクスクスと喉を鳴らし、抱きしめる腕の力をさらに強める。
ななしの背中に回された彼の手のひらから、心臓の鼓動が伝わるほどの熱が波のように押し寄せてくる。視界の端で揺れていた魔法灯の火さえも、今の二人には遠い世界の出来事のように感じられる。
「でも、これじゃあ作業が全然進みません。明日、学園長に怒られちゃいます」
「あやつにはわしから言っておいてやろう。『ななしはわしが美味しくいただいた』とな」
「……っ! 変な言い方しないでください。みんなに誤解されます!」
「誤解? くふふ、お主はこれがただの冗談に見えるのか? わしの目は、いつになく本気だぞ」
リリアがななしの顎を指先ですくい上げ、強引に視線を固定する。潤んだ紅い瞳が、獲物を狙う獣のように、あるいは慈しむ恋人のように、甘く揺らめいている。
彼の顔がさらに近づき、鼻先が触れ合うほどの距離で熱い吐息が唇に降りかかる。
「……リリア、先輩……」
「お主のその声、もっと聞かせておくれ。わしの名を呼ぶたびに、胸の奥がチリチリと焼けるように熱くなる。この感覚は、長い時を生きてきたわしにとっても、ひどく新鮮で、恐ろしいほどに心地よい」
リリアの唇が、ななしの耳たぶを優しく食む。
頭の芯が真っ白になり、指先まで甘い痺れが駆け巡る。自分を追い込んでいた張り詰めた気持ちは、彼によって跡形もなく溶かされていく。
「わたし、先輩が思ってるよりずっと、リリア先輩のことばかり考えてます。だから、そんな風にされると、もう……」
「……ほう。それは、わしへの愛の告白と受け取ってもよいのか?」
「……そうですよ。気づいてたくせに、意地悪です」
「くふふ、お主の口から直接聞きたかったのじゃ。可愛い奴め」
リリアは満足げに目を細め、ななしの額に、頬に、そして最後に唇の端に、羽毛が触れるような優しいキスを落とす。
内面のすべてがリリアという存在だけで満たされていく充足感。言葉にならない甘い熱が、静かな談話室の空気をどこまでも濃密に変えていく。
「今夜はお主を寝かせてやらんぞ、ななし。わしの愛を、その身にしっかりと刻み込むまでな」
リリアの腕に抱かれたまま、ななしは彼の深い情愛の海へと、ただ溺れるように身を委ねる。窓の外で夜風が鳴る中、二人の吐息だけが、甘く重なり続けていた。
