ディアソムニア
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オンボロ寮のキッチンには朝陽が斜めに差し込み、埃が光の粒のように舞っている。ななしは朝食の準備をしようと立ち上がったが、背後から伸びてきたマレウスの長い腕によって、再び引き戻された。
「……待て。どこへ行く、ななし」
「どこへって、朝ごはん作らなきゃ。グリムがそろそろ……」
「ふなーっ!! 腹が減って目が回るんだゾ! さっさとオレ様に高級ツナ缶を献上するんだゾ!」
案の定、転がり落ちるように現れたグリムが、しっぽを振り回してキッチンの床を叩く。マレウスは眉間にわずかな皺を寄せ、ななしの首筋に顔を寄せたまま低い声で応じた。
「……騒がしい奴だ。今は僕がお前と……その、身体感覚の共有を確認している最中なのだが」
「ツノ太郎、ほら、朝ごはん準備しないと」
「……ふん。ならば、黙らせればいいのだろう」
マレウスが指先をわずかに動かすと、空間が歪み、キッチンのテーブルの上に突如として豪華な銀の器が出現した。中には、王宮で供されるような、宝石のように輝く肉料理が山盛りになっている。
「ふなっ!? なんだこの美味そうな匂いは! 全部オレ様が食べていいのか!?」
「ああ。それを食べている間は、一言も発するな。僕とお前の間に、塵一つ通すつもりはない」
グリムは「ツノ太郎、話がわかるんだゾ!」と叫ぶなり、皿に頭を突っ込んで一心不乱に食べ始めた。
凄まじい勢いで咀嚼する音だけが響く中、マレウスは満足げに鼻を鳴らし、再びななしへと意識を向けた。
「……これで邪魔者は消えた。さて、ななし。先程の続きだ」
「続きって、別に何も始まってなかった気がするけど……」
「僕の中では始まっている。……お前の柔らかな体温が僕の冷えた指先に移っていくこの瞬間、僕の魔力がひどく甘やかにざわめくのだ。……お前も感じないか? 物理的な接触を超えた、この……魂の震えを」
マレウスの手がななしの頬を包み込み、ゆっくりと顔を上向かせる。至近距離で見つめ合う翡翠色の瞳は、朝の光を浴びて、恐ろしいほどに透き通っていた。その瞳の奥には、恋愛という未知の概念に戸惑いながらも、それを丸ごと飲み込もうとする強欲な光が宿っている。
「……ツノ太郎、目が怖いよ」
「怖いか。……無理もない。僕自身、自分の中にこれほど醜悪な独占欲が眠っていたとは知らなかった。お前をこの腕の中に閉じ込めて、一生、陽の光すら見せずに僕だけのものにしたいと……そんな狂った思考が、朝の静寂の中で形を成していく」
マレウスの指先がななしの唇を、壊れやすいガラス細工でも扱うかのような手つきでなぞる。
グリムが「美味いんだゾ〜」と幸せそうに咀嚼音を立てているのとは対照的に、二人の間の空気は、酸素が奪われていくような窒息感と抗いがたい甘美さに満たされていた。
「ななし。……お前は、僕がこのままお前を食らってしまいたいと言ったら、どう答える? 冗談だと笑って逃げるか? それとも……」
「……逃げても、どうせすぐ捕まえるでしょ」
「……ふ。全くだ、よくわかっているな。……逃がさない。この胸の鼓動が止まるその時まで、僕は僕の内に生まれたこの熱を、すべてお前に注ぎ込み続ける」
マレウスは彼女の髪に深く指を潜り込ませ、独占の印を刻むように、その首筋へ優しく、しかし確かな重みを持って唇を押し当てた。
内面で爆ぜるのは、剥き出しの恋情。
グリムが最後の一口を飲み込み、満足げに腹を叩いて寝転がる頃には、オンボロ寮の空気は完全にマレウスの色に塗り替えられていた。
「……美味かったんだゾ! ……って、お前ら、また怪しい雰囲気になってるんだゾ! オレ様を仲間外れにすんじゃねえ!」
「……チッ。やはり、あの程度の肉では足りなかったか」
マレウスは不機嫌そうに舌打ちをしながらも、その腕からななしを離すことは、決してなかった。
「……待て。どこへ行く、ななし」
「どこへって、朝ごはん作らなきゃ。グリムがそろそろ……」
「ふなーっ!! 腹が減って目が回るんだゾ! さっさとオレ様に高級ツナ缶を献上するんだゾ!」
案の定、転がり落ちるように現れたグリムが、しっぽを振り回してキッチンの床を叩く。マレウスは眉間にわずかな皺を寄せ、ななしの首筋に顔を寄せたまま低い声で応じた。
「……騒がしい奴だ。今は僕がお前と……その、身体感覚の共有を確認している最中なのだが」
「ツノ太郎、ほら、朝ごはん準備しないと」
「……ふん。ならば、黙らせればいいのだろう」
マレウスが指先をわずかに動かすと、空間が歪み、キッチンのテーブルの上に突如として豪華な銀の器が出現した。中には、王宮で供されるような、宝石のように輝く肉料理が山盛りになっている。
「ふなっ!? なんだこの美味そうな匂いは! 全部オレ様が食べていいのか!?」
「ああ。それを食べている間は、一言も発するな。僕とお前の間に、塵一つ通すつもりはない」
グリムは「ツノ太郎、話がわかるんだゾ!」と叫ぶなり、皿に頭を突っ込んで一心不乱に食べ始めた。
凄まじい勢いで咀嚼する音だけが響く中、マレウスは満足げに鼻を鳴らし、再びななしへと意識を向けた。
「……これで邪魔者は消えた。さて、ななし。先程の続きだ」
「続きって、別に何も始まってなかった気がするけど……」
「僕の中では始まっている。……お前の柔らかな体温が僕の冷えた指先に移っていくこの瞬間、僕の魔力がひどく甘やかにざわめくのだ。……お前も感じないか? 物理的な接触を超えた、この……魂の震えを」
マレウスの手がななしの頬を包み込み、ゆっくりと顔を上向かせる。至近距離で見つめ合う翡翠色の瞳は、朝の光を浴びて、恐ろしいほどに透き通っていた。その瞳の奥には、恋愛という未知の概念に戸惑いながらも、それを丸ごと飲み込もうとする強欲な光が宿っている。
「……ツノ太郎、目が怖いよ」
「怖いか。……無理もない。僕自身、自分の中にこれほど醜悪な独占欲が眠っていたとは知らなかった。お前をこの腕の中に閉じ込めて、一生、陽の光すら見せずに僕だけのものにしたいと……そんな狂った思考が、朝の静寂の中で形を成していく」
マレウスの指先がななしの唇を、壊れやすいガラス細工でも扱うかのような手つきでなぞる。
グリムが「美味いんだゾ〜」と幸せそうに咀嚼音を立てているのとは対照的に、二人の間の空気は、酸素が奪われていくような窒息感と抗いがたい甘美さに満たされていた。
「ななし。……お前は、僕がこのままお前を食らってしまいたいと言ったら、どう答える? 冗談だと笑って逃げるか? それとも……」
「……逃げても、どうせすぐ捕まえるでしょ」
「……ふ。全くだ、よくわかっているな。……逃がさない。この胸の鼓動が止まるその時まで、僕は僕の内に生まれたこの熱を、すべてお前に注ぎ込み続ける」
マレウスは彼女の髪に深く指を潜り込ませ、独占の印を刻むように、その首筋へ優しく、しかし確かな重みを持って唇を押し当てた。
内面で爆ぜるのは、剥き出しの恋情。
グリムが最後の一口を飲み込み、満足げに腹を叩いて寝転がる頃には、オンボロ寮の空気は完全にマレウスの色に塗り替えられていた。
「……美味かったんだゾ! ……って、お前ら、また怪しい雰囲気になってるんだゾ! オレ様を仲間外れにすんじゃねえ!」
「……チッ。やはり、あの程度の肉では足りなかったか」
マレウスは不機嫌そうに舌打ちをしながらも、その腕からななしを離すことは、決してなかった。
