ハーツラビュル
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「なあななし、今ヒマ?」
声をかけられて振り返るとエースがいつもの調子で片手を上げていた。
「別に予定はないけど」
「ノート見せてほしいんだよね」
「また?」
「またとは失礼な」
「昨日も同じこと言ってたよな」
後ろから聞こえた声にエースが露骨に顔をしかめる。
「げっ、デュース」
「げっとはなんだ」
「タイミング悪すぎだろ」
「僕は普通に話しかけに来ただけだ」
「へえ?」
エースがにやりと笑う。
「ノート借りに来たとか?」
「違う」
「じゃあ何」
「それは……」
言葉に詰まったデュースがちらりとななしを見る。
「一緒に課題をやらないかと思って」
「ははっ、真面目だなあ」
「悪いか」
「悪くないけどさ」
エースが肩をすくめる。
「で? ななしはどっち優先?」
「急に選ばせないでよ」
「えー」
「当然だろ」
デュースが呆れたように言う。
「困らせるな」
「え、困ってんの?」
「それは……」
「ほらな」
エースが勝ち誇ったように笑う。
「だったら三人でやればいいんじゃない?」
その一言で二人が同時に黙った。
「……三人?」
「課題もノートもそれで解決するでしょ」
「まあ……オレはいいけど」
「僕も構わない」
言いながら二人の視線がぶつかる。
納得しているようには見えなかった。
◇
「だからここはこうだって」
「その式だと途中がおかしい」
「は?」
「見ろよ、この数字」
「……あ」
「ほらな」
「一回くらいミスするだろ」
「三回目だ」
「数えるなよ」
向かい側で言い合う二人を見ながらななしは小さく笑った。
「仲いいよね」
「「よくない」」
ぴったり重なった声。
少し遅れてエースが吹き出した。
「いや今のはずるいだろ」
「笑うな」
「だってデュースと同じタイミングとかさ」
「僕だって不本意だ」
「ひどくない?」
「お前が言うな」
また言い合いが始まる。
けれど不思議と嫌な空気にはならない。
騒がしくて少しだけ心地いい時間だった。
「……でさ」
エースが急にこちらを見る。
「ななしってさ、こういうの誰かとやる予定とかないの?」
「こういうの?」
「勉強会とか、放課後遊ぶとか」
「グリムとはよくやってるよ」
「アイツかあ」
「課題も一緒にやるし、ツナ缶買うのに付き合わされることもあるかな」
「なるほどね」
「なんだその反応は」
デュースが眉をひそめる。
「別に?」
「絶対何か考えている顔だ」
「失礼だなあ」
エースは笑う。
「オレとしてはさ、もっと誘えばいいのにって思っただけ」
「誰を?」
「オレとか?」
「自分で言う?」
「いいじゃん減るもんじゃないし」
「だったら僕でもいいだろう」
「は?」
「僕の方が役に立つ」
「オレの方が楽しい」
「根拠は」
「経験則?」
「適当だな」
「デュースよりはな」
「なんだと」
また始まる。
けれど今度は二人ともどこか本気だった。
◇
「ななし」
帰ろうとしたところで呼び止められる。
振り返るとそこには、少し緊張した様子のデュースが立っていた。
「どうしたの?」
「少しだけいいか」
「うん」
少し歩いたところでデュースが口を開く。
「今日、エースが変なことを言っていただろ」
「変なこと?」
「もっと誘えばいいとか」
「ああ」
「……あれは僕も同意見だ」
「え?」
「別に無理にとは言わない」
デュースが視線を逸らす。
「ただ、もし誰かを誘うなら……僕も候補に入れてくれ」
思わず瞬きをする。
「課題でも買い物でもなんでもいい」
「デュース」
「なんだ」
「顔赤いよ」
「赤くない!」
即答だった。
「気のせいだ」
「そうかな」
「そうだ」
言い切ったあと、デュースは小さく咳払いをした。
「とにかく、それだけだ」
「うん」
「返事は急がなくていい」
「返事?」
「……なんでもない」
そのまま足早に去っていく。
見送っていると今度は別の声が聞こえた。
「へえ」
振り返る。
「聞いてたの?」
「いや偶然?」
「絶対嘘」
「ばれた?」
エースが悪びれもなく笑う。
「デュースって意外と攻めるよなあ」
「盗み聞きはよくないと思う」
「反省してまーす」
まったく反省していない顔だった。
「で?」
「で?」
「ななしはどう思った?」
「どうって」
「デュースのこと」
「友達だよ」
「ふーん」
エースが少し黙る。
「じゃあオレは?」
「友達」
「即答かあ」
「違うの?」
「いや?」
エースが目を細める。
「オレは違うかも」
「……え?」
「なんてね」
「びっくりした」
「それは残念」
笑っているのにその表情は少しだけ真剣だった。
◇
次の日。
「おはよう」
「おう」
「おはよう」
返事をした二人が同時にこちらを見る。
「……なんで二人ともいるの?」
「偶然」
「たまたまだ」
「絶対違うよね」
「違わないって」
「本当だ」
二人とも譲らない。
「で、今日はどっちと帰る?」
エースの言葉に固まる。
「なんでそうなるの」
「昨日デュースだけ話してたじゃん」
「見てたの?」
「見えた」
「それで公平じゃないと思った」
「公平って」
「だから今日はオレの番」
「順番制なのか」
デュースが呆れたように言う。
「そんなルールは聞いていない」
「今作った」
「勝手すぎるだろ」
「じゃあデュースも一緒に来る?」
「……行く」
「即答だな」
「悪いか」
「別に」
エースが笑う。
「じゃ、三人な」
◇
「エースって意外と詳しいんだね」
「意外とは?」
「もっと適当かと思ってた」
「ひどっ」
「いや実際そういうところあるだろ」
デュースの言葉にエースが顔をしかめる。
「デュースにだけは言われたくない」
「なんだと」
「でもさ」
エースがこちらを見る。
「ななしって、オレたちといる時楽しそうだよな」
「楽しいよ」
「即答」
「だって本当だし」
少しの沈黙。
先に口を開いたのはデュースだった。
「……僕も楽しい」
「え」
「だから、もっとこういう時間が増えればいいと思う」
「デュース」
「なんだ」
「それ告白みたい」
「っ……!」
デュースが固まる。
一方、エースは腹を抱えて笑っていた。
「ははっ、ほら見ろデュース!」
「笑うな!」
「顔真っ赤!」
「うるさい!」
「いやあ面白いなあ」
「エースだって同じこと思ってるくせに」
ぴたりと笑いが止まる。
「……は?」
「違うのか」
「いや、それは」
今度はエースが言葉を失う番だった。
「……ずるいだろそれ」
「事実確認だ」
「ぐっ」
「図星か」
「うるさいなあ」
エースが視線を逸らす。
「否定しないんだ」
思わず言うと二人とも黙った。
その沈黙が答えだった。
「困らせたいわけじゃないんだ」
ぽつりとデュースが言う。
「ただ、隠しておくのも違うと思った」
「僕はお前のことが好きだ」
真っ直ぐな言葉だった。
迷いも誤魔化しもない。
「だから他の誰かに取られたくないと思ってる」
隣でエースが息を吐く。
「先に言われた」
「競争だからな」
「いやそこ張り合う?」
エースが笑う。
けれど次の言葉は静かだった。
「オレも好き」
「エース」
「デュースみたいに立派な理由とかないけどさ」
少しだけ肩をすくめる。
「一緒にいると楽しいし、気づくと探してるし」
「……」
「誰かと話してると気になるし、たぶんそれで十分だろ」
言葉が出ない。
「すぐ答え出さなくていいから」
デュースが言う。
「待つ」
「オレも待つよ」
エースが続ける。
「でも譲る気はないけど」
「僕もだ」
「だよな」
二人が笑う。
「ななし」
「うん」
「悩め」
「……」
「だって簡単に決められたら困るし」
「それは確かに」
デュースも頷く。
「ちゃんと考えて選んでほしい」
「選ばれなかった方は?」
思わず聞く。
エースが笑った。
「泣くかも」
「笑いながら言わないで」
「でも諦めるかは別問題」
「おい」
「冗談だって」
デュースがため息をつく。
「半分くらいは本気だろ」
「ばれた?」
「当然だ」
三人で笑う。
答えはまだ出ない。
けれど急かされることもなかった。
「じゃあ今日は送る」
「僕も行く」
「また?」
「まただ」
「ほんと仲いいなあ」
「「だから違う」」
また重なる声。
思わず吹き出す。
二人も少し遅れて笑った。
きっと明日もこうして言い合うのだろう。
その先がどうなるのかはまだ分からない。
それでも今は――。
隣に並ぶ二人の存在が妙に心強かった。
声をかけられて振り返るとエースがいつもの調子で片手を上げていた。
「別に予定はないけど」
「ノート見せてほしいんだよね」
「また?」
「またとは失礼な」
「昨日も同じこと言ってたよな」
後ろから聞こえた声にエースが露骨に顔をしかめる。
「げっ、デュース」
「げっとはなんだ」
「タイミング悪すぎだろ」
「僕は普通に話しかけに来ただけだ」
「へえ?」
エースがにやりと笑う。
「ノート借りに来たとか?」
「違う」
「じゃあ何」
「それは……」
言葉に詰まったデュースがちらりとななしを見る。
「一緒に課題をやらないかと思って」
「ははっ、真面目だなあ」
「悪いか」
「悪くないけどさ」
エースが肩をすくめる。
「で? ななしはどっち優先?」
「急に選ばせないでよ」
「えー」
「当然だろ」
デュースが呆れたように言う。
「困らせるな」
「え、困ってんの?」
「それは……」
「ほらな」
エースが勝ち誇ったように笑う。
「だったら三人でやればいいんじゃない?」
その一言で二人が同時に黙った。
「……三人?」
「課題もノートもそれで解決するでしょ」
「まあ……オレはいいけど」
「僕も構わない」
言いながら二人の視線がぶつかる。
納得しているようには見えなかった。
◇
「だからここはこうだって」
「その式だと途中がおかしい」
「は?」
「見ろよ、この数字」
「……あ」
「ほらな」
「一回くらいミスするだろ」
「三回目だ」
「数えるなよ」
向かい側で言い合う二人を見ながらななしは小さく笑った。
「仲いいよね」
「「よくない」」
ぴったり重なった声。
少し遅れてエースが吹き出した。
「いや今のはずるいだろ」
「笑うな」
「だってデュースと同じタイミングとかさ」
「僕だって不本意だ」
「ひどくない?」
「お前が言うな」
また言い合いが始まる。
けれど不思議と嫌な空気にはならない。
騒がしくて少しだけ心地いい時間だった。
「……でさ」
エースが急にこちらを見る。
「ななしってさ、こういうの誰かとやる予定とかないの?」
「こういうの?」
「勉強会とか、放課後遊ぶとか」
「グリムとはよくやってるよ」
「アイツかあ」
「課題も一緒にやるし、ツナ缶買うのに付き合わされることもあるかな」
「なるほどね」
「なんだその反応は」
デュースが眉をひそめる。
「別に?」
「絶対何か考えている顔だ」
「失礼だなあ」
エースは笑う。
「オレとしてはさ、もっと誘えばいいのにって思っただけ」
「誰を?」
「オレとか?」
「自分で言う?」
「いいじゃん減るもんじゃないし」
「だったら僕でもいいだろう」
「は?」
「僕の方が役に立つ」
「オレの方が楽しい」
「根拠は」
「経験則?」
「適当だな」
「デュースよりはな」
「なんだと」
また始まる。
けれど今度は二人ともどこか本気だった。
◇
「ななし」
帰ろうとしたところで呼び止められる。
振り返るとそこには、少し緊張した様子のデュースが立っていた。
「どうしたの?」
「少しだけいいか」
「うん」
少し歩いたところでデュースが口を開く。
「今日、エースが変なことを言っていただろ」
「変なこと?」
「もっと誘えばいいとか」
「ああ」
「……あれは僕も同意見だ」
「え?」
「別に無理にとは言わない」
デュースが視線を逸らす。
「ただ、もし誰かを誘うなら……僕も候補に入れてくれ」
思わず瞬きをする。
「課題でも買い物でもなんでもいい」
「デュース」
「なんだ」
「顔赤いよ」
「赤くない!」
即答だった。
「気のせいだ」
「そうかな」
「そうだ」
言い切ったあと、デュースは小さく咳払いをした。
「とにかく、それだけだ」
「うん」
「返事は急がなくていい」
「返事?」
「……なんでもない」
そのまま足早に去っていく。
見送っていると今度は別の声が聞こえた。
「へえ」
振り返る。
「聞いてたの?」
「いや偶然?」
「絶対嘘」
「ばれた?」
エースが悪びれもなく笑う。
「デュースって意外と攻めるよなあ」
「盗み聞きはよくないと思う」
「反省してまーす」
まったく反省していない顔だった。
「で?」
「で?」
「ななしはどう思った?」
「どうって」
「デュースのこと」
「友達だよ」
「ふーん」
エースが少し黙る。
「じゃあオレは?」
「友達」
「即答かあ」
「違うの?」
「いや?」
エースが目を細める。
「オレは違うかも」
「……え?」
「なんてね」
「びっくりした」
「それは残念」
笑っているのにその表情は少しだけ真剣だった。
◇
次の日。
「おはよう」
「おう」
「おはよう」
返事をした二人が同時にこちらを見る。
「……なんで二人ともいるの?」
「偶然」
「たまたまだ」
「絶対違うよね」
「違わないって」
「本当だ」
二人とも譲らない。
「で、今日はどっちと帰る?」
エースの言葉に固まる。
「なんでそうなるの」
「昨日デュースだけ話してたじゃん」
「見てたの?」
「見えた」
「それで公平じゃないと思った」
「公平って」
「だから今日はオレの番」
「順番制なのか」
デュースが呆れたように言う。
「そんなルールは聞いていない」
「今作った」
「勝手すぎるだろ」
「じゃあデュースも一緒に来る?」
「……行く」
「即答だな」
「悪いか」
「別に」
エースが笑う。
「じゃ、三人な」
◇
「エースって意外と詳しいんだね」
「意外とは?」
「もっと適当かと思ってた」
「ひどっ」
「いや実際そういうところあるだろ」
デュースの言葉にエースが顔をしかめる。
「デュースにだけは言われたくない」
「なんだと」
「でもさ」
エースがこちらを見る。
「ななしって、オレたちといる時楽しそうだよな」
「楽しいよ」
「即答」
「だって本当だし」
少しの沈黙。
先に口を開いたのはデュースだった。
「……僕も楽しい」
「え」
「だから、もっとこういう時間が増えればいいと思う」
「デュース」
「なんだ」
「それ告白みたい」
「っ……!」
デュースが固まる。
一方、エースは腹を抱えて笑っていた。
「ははっ、ほら見ろデュース!」
「笑うな!」
「顔真っ赤!」
「うるさい!」
「いやあ面白いなあ」
「エースだって同じこと思ってるくせに」
ぴたりと笑いが止まる。
「……は?」
「違うのか」
「いや、それは」
今度はエースが言葉を失う番だった。
「……ずるいだろそれ」
「事実確認だ」
「ぐっ」
「図星か」
「うるさいなあ」
エースが視線を逸らす。
「否定しないんだ」
思わず言うと二人とも黙った。
その沈黙が答えだった。
「困らせたいわけじゃないんだ」
ぽつりとデュースが言う。
「ただ、隠しておくのも違うと思った」
「僕はお前のことが好きだ」
真っ直ぐな言葉だった。
迷いも誤魔化しもない。
「だから他の誰かに取られたくないと思ってる」
隣でエースが息を吐く。
「先に言われた」
「競争だからな」
「いやそこ張り合う?」
エースが笑う。
けれど次の言葉は静かだった。
「オレも好き」
「エース」
「デュースみたいに立派な理由とかないけどさ」
少しだけ肩をすくめる。
「一緒にいると楽しいし、気づくと探してるし」
「……」
「誰かと話してると気になるし、たぶんそれで十分だろ」
言葉が出ない。
「すぐ答え出さなくていいから」
デュースが言う。
「待つ」
「オレも待つよ」
エースが続ける。
「でも譲る気はないけど」
「僕もだ」
「だよな」
二人が笑う。
「ななし」
「うん」
「悩め」
「……」
「だって簡単に決められたら困るし」
「それは確かに」
デュースも頷く。
「ちゃんと考えて選んでほしい」
「選ばれなかった方は?」
思わず聞く。
エースが笑った。
「泣くかも」
「笑いながら言わないで」
「でも諦めるかは別問題」
「おい」
「冗談だって」
デュースがため息をつく。
「半分くらいは本気だろ」
「ばれた?」
「当然だ」
三人で笑う。
答えはまだ出ない。
けれど急かされることもなかった。
「じゃあ今日は送る」
「僕も行く」
「また?」
「まただ」
「ほんと仲いいなあ」
「「だから違う」」
また重なる声。
思わず吹き出す。
二人も少し遅れて笑った。
きっと明日もこうして言い合うのだろう。
その先がどうなるのかはまだ分からない。
それでも今は――。
隣に並ぶ二人の存在が妙に心強かった。
