イグニハイド
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
学園の喧騒から隔絶されたイグニハイド寮長室。青い髪を揺らしながら、イデアはモニターの前で深いため息をついた。
「……無理。詰んだ。人生という名のクソゲー、ここに来て難易度限界値超えてるでしょ」
イデアは猫背をさらに丸め、椅子の上で膝を抱える。
モニターに映っているのは、最新のFPSゲームの画面ではない。学園の共有サーバーにアップロードされた、マジカメの集合写真。その端の方で、陽だまりのような笑顔を浮かべているななしの姿だった。
「拙者みたいな陰キャの極みが、あんな光属性の塊と仲良くなれるわけないんですわ……。まず会話のプロトコルが違いすぎる。向こうは最新の5G、こっちはISDN。通信エラーで爆発するのが関の山」
「兄さん、またそれを見てるの? だったら直接会いに行けばいいのに」
背後から浮遊感のある声が響く。
弟のオルトが、心配そうに兄の顔を覗き込んでいた。
「ひっ!? オ、オルト、いつからそこに……! っていうか、会いに行く? 正気? 物理接触なんてしたら拙者のサーバーが熱暴走して死ぬ」
「でも、ななしさんは兄さんのことを『イデア先輩』って呼んで、この前も手を振ってくれたじゃない。嫌われてるなんて論理的におかしいよ」
「それは彼女が善意の塊だからであって、拙者のスペックが認められたわけじゃないんですわ。むしろ、あんな無防備に陰キャに近づくなんて、セキュリティ意識が低すぎて心配になるレベル!」
イデアはブツブツと独り言を続けながら、画面を別のウィンドウで隠した。
「わかった。兄さんが動けないなら、僕が機会を作るよ。……ちょうど、学園のシステムメンテナンスのボランティアが必要だって募集を見かけたんだ」
「え、ちょ、オルト? 変なフラグ立てるのはやめてくだ……」
イデアの制止も虚しく、オルトは軽快に部屋を飛び出していった。
・
数時間後、イデアはなぜか部屋の隅にある端末の前で固まっていた。隣には、オルトによって「メンテナンスの助手」として連れてこられたななしが座っている。
「イデア先輩、今日はよろしくお願いします! 機械のこと、全然わからなくて足手まといかもしれないですけど……」
「……ひ、ひいいっ……! あ、あ、あ……お手柔らかに、ドゾ……」
イデアはキーボードを叩く指が震えているのを隠そうともせず、視線を極限まで下げた。オルトは二人の背後で、満足げに浮遊している。
「ななしさん、ここの配線をチェックしてほしいんだ。兄さんが指示を出すから、一緒にやってみて」
「はい! 先輩、どこからやればいいですか?」
「ど、どこって……その、青いケーブルのコネクタを……あ、いや、拙者がやります! ななし氏は見てるだけでいいので!」
「ええっ、そんなの申し訳ないです。わたし、何か手伝いたいです」
ななしは身を乗り出し、イデアの手元を覗き込む。ふわりと彼女の体温と香りが届いた瞬間、イデアの髪がカッと赤みを帯びた。
「ち、近い! 距離感バグってるよ! デフォルトのパーソナルスペースを遵守してください死んでしまう!」
「わ、わっ、ごめんなさい! つい……」
イデアはガタガタと椅子を引いて距離を取る。しかしななしは、イデアの反応を熱心な作業ゆえの興奮と受け取ったのか、逆に身を乗り出してきた。
「先輩って、やっぱりすごいですね。こんな複雑なコードをスラスラ打ち込めるなんて。尊敬しちゃいます」
「そ……尊敬? 拙者を? 冗談はやめて……どうせ、裏では『あの先輩、髪が燃えててキモい』とかチャットルームで盛り上がってるんでしょ?」
「そんなこと言いませんよ! 先輩の髪、暗いところでとっても綺麗だなって、いつも思ってました」
「……綺麗……?」
イデアの指がピタリと止まる。彼は信じられないものを見る目で、ようやくななしの顔を直視した。そこには濁りのない、本物の賞賛が宿っている。
「な、……な……、何その高度な煽り……? 拙者みたいな陰の者にそんな……混乱状態で操作不能……」
「兄さん!ななしさんは本気で言ってるよ。僕のセンサーにも嘘の反応は出ていないし」
「オルトは黙ってて! 今、拙者の脳内メモリが整理中でパンクしてるんだから!」
イデアは再び顔を背けたが、その耳の先まで赤くなっている。
ななしは不思議そうに小首を傾げた。
「先輩、もしかして体調悪いですか?」
「……これが拙者の通常運転なんだわ……。っていうか、ななし氏。君、もっと警戒心持ったほうがいいよ。拙者みたいなやつにそんな笑顔見せたら、変なフラグ建築士に狙われるよ」
「え? 変なフラグ?」
「……もういい、何でもない! ほら、そこのキーを押して! 早く終わらせて拙者を帰還させて!」
イデアは必死に作業を再開したが、キーを打つ速度は先ほどよりも格段に上がっている。ななしは「はい!」と元気よく答え、彼に言われるがままキーボードを叩いた。
作業が終わる頃には、イデアの疲労困憊ぶりは限界に達していた。しかし、ななしが帰る間際、彼女はひょいとイデアの顔を覗き込んだ。
「イデア先輩、今日はありがとうございました。また、お話ししてもいいですか?」
「……、……コミュ強の挨拶乙……。拙者、リプ返遅いですよ……」
「ふふ、返信なくても、また会いに来ますね。じゃあ、オルトくんもバイバイ!」
ななしが去った後、部屋には静寂が訪れる。
イデアは力なく床に座り込み、両手で顔を覆った。
「……死んだ。完全に死んだ。攻略対象じゃないはずなのに、強制イベント発生させられた……」
「兄さん、すごく嬉しそうな顔してるよ。成功だね」
「どこが!? 拙者の平穏な引きこもりライフに致命的な脆弱性が見つかったんだわ! ……でも……」
イデアは指の隙間から彼女が去っていった扉を見つめる。
「……綺麗とか、ありえないでしょ……。あんなの、チート級の反則技だわ……」
イデアの髪がゆらゆらと小さく、しかし温かな光を伴って揺れていた。
「……無理。詰んだ。人生という名のクソゲー、ここに来て難易度限界値超えてるでしょ」
イデアは猫背をさらに丸め、椅子の上で膝を抱える。
モニターに映っているのは、最新のFPSゲームの画面ではない。学園の共有サーバーにアップロードされた、マジカメの集合写真。その端の方で、陽だまりのような笑顔を浮かべているななしの姿だった。
「拙者みたいな陰キャの極みが、あんな光属性の塊と仲良くなれるわけないんですわ……。まず会話のプロトコルが違いすぎる。向こうは最新の5G、こっちはISDN。通信エラーで爆発するのが関の山」
「兄さん、またそれを見てるの? だったら直接会いに行けばいいのに」
背後から浮遊感のある声が響く。
弟のオルトが、心配そうに兄の顔を覗き込んでいた。
「ひっ!? オ、オルト、いつからそこに……! っていうか、会いに行く? 正気? 物理接触なんてしたら拙者のサーバーが熱暴走して死ぬ」
「でも、ななしさんは兄さんのことを『イデア先輩』って呼んで、この前も手を振ってくれたじゃない。嫌われてるなんて論理的におかしいよ」
「それは彼女が善意の塊だからであって、拙者のスペックが認められたわけじゃないんですわ。むしろ、あんな無防備に陰キャに近づくなんて、セキュリティ意識が低すぎて心配になるレベル!」
イデアはブツブツと独り言を続けながら、画面を別のウィンドウで隠した。
「わかった。兄さんが動けないなら、僕が機会を作るよ。……ちょうど、学園のシステムメンテナンスのボランティアが必要だって募集を見かけたんだ」
「え、ちょ、オルト? 変なフラグ立てるのはやめてくだ……」
イデアの制止も虚しく、オルトは軽快に部屋を飛び出していった。
・
数時間後、イデアはなぜか部屋の隅にある端末の前で固まっていた。隣には、オルトによって「メンテナンスの助手」として連れてこられたななしが座っている。
「イデア先輩、今日はよろしくお願いします! 機械のこと、全然わからなくて足手まといかもしれないですけど……」
「……ひ、ひいいっ……! あ、あ、あ……お手柔らかに、ドゾ……」
イデアはキーボードを叩く指が震えているのを隠そうともせず、視線を極限まで下げた。オルトは二人の背後で、満足げに浮遊している。
「ななしさん、ここの配線をチェックしてほしいんだ。兄さんが指示を出すから、一緒にやってみて」
「はい! 先輩、どこからやればいいですか?」
「ど、どこって……その、青いケーブルのコネクタを……あ、いや、拙者がやります! ななし氏は見てるだけでいいので!」
「ええっ、そんなの申し訳ないです。わたし、何か手伝いたいです」
ななしは身を乗り出し、イデアの手元を覗き込む。ふわりと彼女の体温と香りが届いた瞬間、イデアの髪がカッと赤みを帯びた。
「ち、近い! 距離感バグってるよ! デフォルトのパーソナルスペースを遵守してください死んでしまう!」
「わ、わっ、ごめんなさい! つい……」
イデアはガタガタと椅子を引いて距離を取る。しかしななしは、イデアの反応を熱心な作業ゆえの興奮と受け取ったのか、逆に身を乗り出してきた。
「先輩って、やっぱりすごいですね。こんな複雑なコードをスラスラ打ち込めるなんて。尊敬しちゃいます」
「そ……尊敬? 拙者を? 冗談はやめて……どうせ、裏では『あの先輩、髪が燃えててキモい』とかチャットルームで盛り上がってるんでしょ?」
「そんなこと言いませんよ! 先輩の髪、暗いところでとっても綺麗だなって、いつも思ってました」
「……綺麗……?」
イデアの指がピタリと止まる。彼は信じられないものを見る目で、ようやくななしの顔を直視した。そこには濁りのない、本物の賞賛が宿っている。
「な、……な……、何その高度な煽り……? 拙者みたいな陰の者にそんな……混乱状態で操作不能……」
「兄さん!ななしさんは本気で言ってるよ。僕のセンサーにも嘘の反応は出ていないし」
「オルトは黙ってて! 今、拙者の脳内メモリが整理中でパンクしてるんだから!」
イデアは再び顔を背けたが、その耳の先まで赤くなっている。
ななしは不思議そうに小首を傾げた。
「先輩、もしかして体調悪いですか?」
「……これが拙者の通常運転なんだわ……。っていうか、ななし氏。君、もっと警戒心持ったほうがいいよ。拙者みたいなやつにそんな笑顔見せたら、変なフラグ建築士に狙われるよ」
「え? 変なフラグ?」
「……もういい、何でもない! ほら、そこのキーを押して! 早く終わらせて拙者を帰還させて!」
イデアは必死に作業を再開したが、キーを打つ速度は先ほどよりも格段に上がっている。ななしは「はい!」と元気よく答え、彼に言われるがままキーボードを叩いた。
作業が終わる頃には、イデアの疲労困憊ぶりは限界に達していた。しかし、ななしが帰る間際、彼女はひょいとイデアの顔を覗き込んだ。
「イデア先輩、今日はありがとうございました。また、お話ししてもいいですか?」
「……、……コミュ強の挨拶乙……。拙者、リプ返遅いですよ……」
「ふふ、返信なくても、また会いに来ますね。じゃあ、オルトくんもバイバイ!」
ななしが去った後、部屋には静寂が訪れる。
イデアは力なく床に座り込み、両手で顔を覆った。
「……死んだ。完全に死んだ。攻略対象じゃないはずなのに、強制イベント発生させられた……」
「兄さん、すごく嬉しそうな顔してるよ。成功だね」
「どこが!? 拙者の平穏な引きこもりライフに致命的な脆弱性が見つかったんだわ! ……でも……」
イデアは指の隙間から彼女が去っていった扉を見つめる。
「……綺麗とか、ありえないでしょ……。あんなの、チート級の反則技だわ……」
イデアの髪がゆらゆらと小さく、しかし温かな光を伴って揺れていた。
