イグニハイド
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「……ななし氏、本気で言ってる?」
イデアはゲーミングチェアへ深く沈み込んだまま、目の前に立つななしを見上げる。
「本気です」
ななしは腕を組んで、小さくため息をつく。
「イデア先輩、お風呂入ってないですよね」
「……今日で三日目です」
「うわ、汚い」
イデアは勢いよく頭を抱えた。
「ストップ! それ以上言わないで! ライフがゼロになる!」
「ゼロじゃ困ります」
「困るのは拙者なんだけど!」
椅子の上でごろりと丸くなる。
「お風呂って工程が多すぎるんだよ」
「だから入らないんですか?」
「そう」
「即答ですね」
「ゲームならロード時間も楽しめるけど、お風呂はロードしかない」
「意味が分かりません」
「拙者も説明できない」
「今日は入りますよ」
「やだ」
「入ります」
「やだ」
「入りましょう」
「……どうしても?」
「どうしてもです」
イデアはしばらく黙り込んだあと、小さくぼやく。
「じゃあ……ななし氏も一緒に来て」
断られるつもりで言った一言だった。
ところが――
「分かりました」
返事はあまりにもあっさりしていた。
「へ?」
「一緒に行きます」
「……え?」
「背中くらいなら流しますよ」
「ちょ、ちょっと待って」
イデアが額を押さえながら首を振る。
「今の聞き間違い?」
「早く行きますよ」
「拙者の聴覚バグった?」
「正常なんで、早く準備してください」
「いや絶対バグってる」
「わたし、準備してきますね」
ななしは軽い足取りで部屋を出ていく。
残されたイデアは呆然と扉を見つめていた。
「……なんで了承されるの」
◇
浴室には湯気が立ちこめていた。
「……か、帰りたい」
脱衣所の隅でイデアが小さくつぶやく。
「いい加減諦めてください」
「まだ引き返せる」
「引き返しません」
「強い……」
ななしは笑いながらシャワーの準備をする。
「先輩、ここ座ってください」
「はい……」
珍しく素直だった。
椅子へ座るイデアの後ろに回り、シャワーのお湯をゆっくり流す。
「あっ」
「熱かったですか?」
「いや……びっくりしただけ」
「すみません」
「いや、その……人に髪洗われるとか慣れてないから」
「そうなんですね」
ななしはシャンプーを泡立て、優しく髪を洗っていく。
イデアは最初こそ肩に力が入っていたが、少しずつ表情が和らいでいった。
「力加減、大丈夫ですか?」
「……うん」
「痛くないです?」
「むしろ気持ちいい」
ぽつりと漏れた本音に、ななしが笑う。
「よかったです」
「意外とうまい」
「本当ですか?」
「ゲーム以外にもスキルあったんだ」
「失礼ですね」
二人の笑い声が浴室へ響く。
「先輩の髪、きれいですね」
「は?」
「触り心地もいいです」
「こんな色なのに?」
「色は関係ないのでは?」
「……そういうこと平気で言う」
「思ったことですから」
イデアは小さく息をつく。
「君、本当に人たらしだよね」
◇
髪を流し終え、ななしがタオルを差し出す。
「身体は自分で洗えますか?」
「流石に自分でやります!」
イデアが勢いよく立ち上がる。
「そこまで面倒見られると、さすがに拙者のプライドがログアウトする」
「よかったです」
「何が?」
「イデア先輩のやる気? が出たみたいなので」
「……策士」
「褒め言葉ですか?」
「半分くらいは」
身体を洗い終えたイデアは、少し照れながら湯船へ入る。
「あー……溶ける……」
「気持ちいいですね」
ななしも隣へ腰を下ろす。
静かな湯気が二人を包み、しばらく何も話さずお湯の音だけが響いた。
「……ななし氏」
「なんですか?」
「今日来てくれてよかった」
イデアは照れくさそうに前を向いたまま続ける。
「一人だったら、多分あと二日は入らなかった」
「二日じゃ済まない気がします」
「否定できない」
二人で笑う。
その笑いにつられて、イデアの肩から力が抜けていった。
「君と一緒だと、不思議と面倒って思わなくなる」
「それならよかったです」
「……また、僕が限界になったら助けて」
「もちろんです」
その返事に安心したように、イデアは目を閉じる。
心地よい湯気の中で、いつもよりほんの少しだけ緩んだ表情を浮かべていた。
イデアはゲーミングチェアへ深く沈み込んだまま、目の前に立つななしを見上げる。
「本気です」
ななしは腕を組んで、小さくため息をつく。
「イデア先輩、お風呂入ってないですよね」
「……今日で三日目です」
「うわ、汚い」
イデアは勢いよく頭を抱えた。
「ストップ! それ以上言わないで! ライフがゼロになる!」
「ゼロじゃ困ります」
「困るのは拙者なんだけど!」
椅子の上でごろりと丸くなる。
「お風呂って工程が多すぎるんだよ」
「だから入らないんですか?」
「そう」
「即答ですね」
「ゲームならロード時間も楽しめるけど、お風呂はロードしかない」
「意味が分かりません」
「拙者も説明できない」
「今日は入りますよ」
「やだ」
「入ります」
「やだ」
「入りましょう」
「……どうしても?」
「どうしてもです」
イデアはしばらく黙り込んだあと、小さくぼやく。
「じゃあ……ななし氏も一緒に来て」
断られるつもりで言った一言だった。
ところが――
「分かりました」
返事はあまりにもあっさりしていた。
「へ?」
「一緒に行きます」
「……え?」
「背中くらいなら流しますよ」
「ちょ、ちょっと待って」
イデアが額を押さえながら首を振る。
「今の聞き間違い?」
「早く行きますよ」
「拙者の聴覚バグった?」
「正常なんで、早く準備してください」
「いや絶対バグってる」
「わたし、準備してきますね」
ななしは軽い足取りで部屋を出ていく。
残されたイデアは呆然と扉を見つめていた。
「……なんで了承されるの」
◇
浴室には湯気が立ちこめていた。
「……か、帰りたい」
脱衣所の隅でイデアが小さくつぶやく。
「いい加減諦めてください」
「まだ引き返せる」
「引き返しません」
「強い……」
ななしは笑いながらシャワーの準備をする。
「先輩、ここ座ってください」
「はい……」
珍しく素直だった。
椅子へ座るイデアの後ろに回り、シャワーのお湯をゆっくり流す。
「あっ」
「熱かったですか?」
「いや……びっくりしただけ」
「すみません」
「いや、その……人に髪洗われるとか慣れてないから」
「そうなんですね」
ななしはシャンプーを泡立て、優しく髪を洗っていく。
イデアは最初こそ肩に力が入っていたが、少しずつ表情が和らいでいった。
「力加減、大丈夫ですか?」
「……うん」
「痛くないです?」
「むしろ気持ちいい」
ぽつりと漏れた本音に、ななしが笑う。
「よかったです」
「意外とうまい」
「本当ですか?」
「ゲーム以外にもスキルあったんだ」
「失礼ですね」
二人の笑い声が浴室へ響く。
「先輩の髪、きれいですね」
「は?」
「触り心地もいいです」
「こんな色なのに?」
「色は関係ないのでは?」
「……そういうこと平気で言う」
「思ったことですから」
イデアは小さく息をつく。
「君、本当に人たらしだよね」
◇
髪を流し終え、ななしがタオルを差し出す。
「身体は自分で洗えますか?」
「流石に自分でやります!」
イデアが勢いよく立ち上がる。
「そこまで面倒見られると、さすがに拙者のプライドがログアウトする」
「よかったです」
「何が?」
「イデア先輩のやる気? が出たみたいなので」
「……策士」
「褒め言葉ですか?」
「半分くらいは」
身体を洗い終えたイデアは、少し照れながら湯船へ入る。
「あー……溶ける……」
「気持ちいいですね」
ななしも隣へ腰を下ろす。
静かな湯気が二人を包み、しばらく何も話さずお湯の音だけが響いた。
「……ななし氏」
「なんですか?」
「今日来てくれてよかった」
イデアは照れくさそうに前を向いたまま続ける。
「一人だったら、多分あと二日は入らなかった」
「二日じゃ済まない気がします」
「否定できない」
二人で笑う。
その笑いにつられて、イデアの肩から力が抜けていった。
「君と一緒だと、不思議と面倒って思わなくなる」
「それならよかったです」
「……また、僕が限界になったら助けて」
「もちろんです」
その返事に安心したように、イデアは目を閉じる。
心地よい湯気の中で、いつもよりほんの少しだけ緩んだ表情を浮かべていた。
