サバナクロー
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ナイトレイブンカレッジの喧騒が遠い幻のように思える。
学園指定の制服を脱ぎ捨て、慣れない私服に身を包んだななしは、隣を歩くあまりにも存在感の強い男――レオナ・キングスカラーの気配に、朝からずっと翻弄されていた。
行き先は学園から少し離れた海沿いの街。
学園では気にしていなかったが、レオナのような華やかな男と並んで歩くということがどういうことなのかを思い知った。道行く人々が、レオナの美貌と隠しきれない覇気に目を奪われ、振り返るたび彼女は居心地が悪そうに俯いた。
「……おい。いつまで地面に睨みきかせてやがる気だ」
隣から、低く地響きのような声が降ってくる。
「あ……、すみません。なんだか、皆さんに見られている気がして。レオナさん、やっぱり目立ちますし……」
「はっ、勝手に見させておけ。俺が隣に置いてやってんだ、お前は前だけ見てりゃいいんだよ」
レオナは気怠げに鼻を鳴らすと、俯く彼女の肩を強引に引き寄せた。
厚い胸板と、彼自身の体温が間近に迫る。レオナの香りが鼻先を掠め、ななしの思考は一気に白く染まった。
「そんな、密着したら余計に目立って……!」
「うるせぇ。……文句があるなら、今すぐここでお前の口を塞いで、もっと注目浴びさせてやろうか?」
「……っ、遠慮します……」
真っ赤になって口を噤む彼女を見て、レオナは満足げに口角を上げた。
彼にとって、彼女が周囲の顔色を伺うのは面白くない。自分の腕の中にいる時くらいは、世界には自分たちしかいないのだと思い知らせたかった。
レオナが彼女を連れて行ったのは、街の外れにある隠れ家のようなテラスカフェだった。海を見下ろす高台にあり、潮風が心地よく吹き抜ける。店内に客はまばらで、これなら人目を気にしなくて済むと、ななしはようやく安堵の息を吐いた。
「……綺麗な場所ですね。レオナさん、こういうところ知ってたんですね」
「ラギーが聞き出してきた場所だ。……お前、狭い寮の談話室に閉じこもってばかりで、顔が青白くなってたからな」
「……心配してくれたんですか?」
「……暇つぶしだと言っただろ」
レオナは不機嫌そうに視線を逸らしたが、差し出されたアイスティーのストローを弄る指先は、どこか落ち着かない。ななしは、彼なりの不器用な優しさに、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
潮風に揺れる彼女の髪を、レオナの大きな掌が掬い上げる。
「お前、自分を殺してて楽しいのか?」
「……楽しくはないです。でも、そうしないと、ここではうまくやっていけない気がして……」
「だったら、俺の色に染まればいい。俺の後ろにいりゃ、他人の目なんて届かねぇだろうがよ」
レオナの瞳が、真っ直ぐに彼女を射抜く。それは傲慢な支配の言葉であり、同時に、世界で一番甘い保護の約束でもあった。彼女は、その言葉の重みに耐えかねるように、小さな声で「……ずるいです」と呟いた。
◇
夕暮れ時。
空がオレンジ色から深い紫色へと溶けていく頃、二人は海辺の遊歩道を歩いていた。
人気のない場所まで来ると、レオナは繋いでいた手を一度離し、彼女を背後から包み込むように抱き寄せた。
「……っ、レオナさん?」
「黙ってろ」
耳元で囁かれる低い熱。
レオナはそのまま彼女の首筋に顔を埋め、深く深く、その存在を確かめるように吸い付いた。ななしは、彼の腕の強さに驚きながらも、その独占欲に身を委ねる。
ただ、この荒々しくも温かい腕の中にいることだけが、彼女にとっての唯一の真実だった。
「……大好き、ですよ。レオナさん」
勇気を出して紡いだ言葉に、レオナの腕がわずかに震えた気がした。彼は彼女の顔を自分の方へ向けさせると、夕闇の中で優しく、けれど拒絶を許さない力強さで唇を重ねた。
「……あぁ。……お前は俺の獲物だ。二度と他人の群れに紛れようなんて思うな」
重なった唇から伝わる、情熱的な熱。
ななしは、彼に抱きしめられながら、ようやく気づいた。
自分を殺すことよりも、彼という嵐に翻弄されながら、一秒一秒を必死に生きることの方が、ずっと、ずっと幸せなのだと。
帰り道、並んで歩く二人の影は、いつまでも長く寄り添うように伸びていた。彼女の頬は夕焼けのせいだけではない熱を帯び、その手は二度と離れないように固く握られていた。
学園指定の制服を脱ぎ捨て、慣れない私服に身を包んだななしは、隣を歩くあまりにも存在感の強い男――レオナ・キングスカラーの気配に、朝からずっと翻弄されていた。
行き先は学園から少し離れた海沿いの街。
学園では気にしていなかったが、レオナのような華やかな男と並んで歩くということがどういうことなのかを思い知った。道行く人々が、レオナの美貌と隠しきれない覇気に目を奪われ、振り返るたび彼女は居心地が悪そうに俯いた。
「……おい。いつまで地面に睨みきかせてやがる気だ」
隣から、低く地響きのような声が降ってくる。
「あ……、すみません。なんだか、皆さんに見られている気がして。レオナさん、やっぱり目立ちますし……」
「はっ、勝手に見させておけ。俺が隣に置いてやってんだ、お前は前だけ見てりゃいいんだよ」
レオナは気怠げに鼻を鳴らすと、俯く彼女の肩を強引に引き寄せた。
厚い胸板と、彼自身の体温が間近に迫る。レオナの香りが鼻先を掠め、ななしの思考は一気に白く染まった。
「そんな、密着したら余計に目立って……!」
「うるせぇ。……文句があるなら、今すぐここでお前の口を塞いで、もっと注目浴びさせてやろうか?」
「……っ、遠慮します……」
真っ赤になって口を噤む彼女を見て、レオナは満足げに口角を上げた。
彼にとって、彼女が周囲の顔色を伺うのは面白くない。自分の腕の中にいる時くらいは、世界には自分たちしかいないのだと思い知らせたかった。
レオナが彼女を連れて行ったのは、街の外れにある隠れ家のようなテラスカフェだった。海を見下ろす高台にあり、潮風が心地よく吹き抜ける。店内に客はまばらで、これなら人目を気にしなくて済むと、ななしはようやく安堵の息を吐いた。
「……綺麗な場所ですね。レオナさん、こういうところ知ってたんですね」
「ラギーが聞き出してきた場所だ。……お前、狭い寮の談話室に閉じこもってばかりで、顔が青白くなってたからな」
「……心配してくれたんですか?」
「……暇つぶしだと言っただろ」
レオナは不機嫌そうに視線を逸らしたが、差し出されたアイスティーのストローを弄る指先は、どこか落ち着かない。ななしは、彼なりの不器用な優しさに、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
潮風に揺れる彼女の髪を、レオナの大きな掌が掬い上げる。
「お前、自分を殺してて楽しいのか?」
「……楽しくはないです。でも、そうしないと、ここではうまくやっていけない気がして……」
「だったら、俺の色に染まればいい。俺の後ろにいりゃ、他人の目なんて届かねぇだろうがよ」
レオナの瞳が、真っ直ぐに彼女を射抜く。それは傲慢な支配の言葉であり、同時に、世界で一番甘い保護の約束でもあった。彼女は、その言葉の重みに耐えかねるように、小さな声で「……ずるいです」と呟いた。
◇
夕暮れ時。
空がオレンジ色から深い紫色へと溶けていく頃、二人は海辺の遊歩道を歩いていた。
人気のない場所まで来ると、レオナは繋いでいた手を一度離し、彼女を背後から包み込むように抱き寄せた。
「……っ、レオナさん?」
「黙ってろ」
耳元で囁かれる低い熱。
レオナはそのまま彼女の首筋に顔を埋め、深く深く、その存在を確かめるように吸い付いた。ななしは、彼の腕の強さに驚きながらも、その独占欲に身を委ねる。
ただ、この荒々しくも温かい腕の中にいることだけが、彼女にとっての唯一の真実だった。
「……大好き、ですよ。レオナさん」
勇気を出して紡いだ言葉に、レオナの腕がわずかに震えた気がした。彼は彼女の顔を自分の方へ向けさせると、夕闇の中で優しく、けれど拒絶を許さない力強さで唇を重ねた。
「……あぁ。……お前は俺の獲物だ。二度と他人の群れに紛れようなんて思うな」
重なった唇から伝わる、情熱的な熱。
ななしは、彼に抱きしめられながら、ようやく気づいた。
自分を殺すことよりも、彼という嵐に翻弄されながら、一秒一秒を必死に生きることの方が、ずっと、ずっと幸せなのだと。
帰り道、並んで歩く二人の影は、いつまでも長く寄り添うように伸びていた。彼女の頬は夕焼けのせいだけではない熱を帯び、その手は二度と離れないように固く握られていた。
