サバナクロー
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
学園の喧騒から離れた植物園。
巨木の影が落とす濃い闇の中で、ななしは必死に溢れそうになる涙を堪えていた。
発端は、何てことのない日常の風景だった。
マジカルシフト大会の準備で忙しないサバナクロー寮。
ななしは他寮との調整や備品の管理を真面目にこなしていた。レオナの気まぐれな要求にも、周囲からの無理難題にも笑顔で応え続けていた。
だがその笑顔がレオナには気に入らなかったらしい。
「……おい草食動物、いつまでその気持ち悪い面してやがる」
昼下がり。レオナが放ったその一言が張り詰めていたななしの糸を切った。
「……気持ち悪いって、どういう意味ですか?」
「言葉通りの意味だ。どいつもこいつも、俺の顔色を伺って、当たり障りのねぇ言葉を並べやがる。お前まで、その群れの一匹になり下がったのか」
「わたしはただ、円滑に進むように頑張っているだけですけど」
「それが気に入らねぇっつってんだよ。俺の隣にいる時まで、そうやって媚び売ってんのか。……反吐が出る」
レオナは気怠げに鼻を鳴らし、彼女に背を向けた。
ななしの胸の奥で何かが音を立てて崩れた。
彼女なりに彼の立場が悪くならないように、彼が動きやすいようにと心を砕いてきた。それを最も理解してほしかった相手に「媚び」と断じられたショック。
「……最低です。レオナさんに、わたしの気持ちなんて一生わかりません!」
言い返すと同時に彼女は走り出していってしまった。
「ふなっ!? 待つんだゾ、子分! レオナ! オメー言い過ぎなんだゾ!」
後ろでグリムが騒ぐ声が聞こえたが止まれなかった。
薄暗い温室の奥。岩場に腰を下ろし膝を抱える。
「……なによ、わたしがどれだけ……レオナさんのことを、特別だと思ってるか知らない癖に……」
独り言は虚しく温室に溶ける。人の顔色を伺って生きることは得意だと思っていた。なのに一番大切な人の機嫌だけがどうしても正しく読み解けない。
「――そこにいたか。逃げ足だけは一丁前だな、草食動物」
低く地響きのような声が頭上から降ってきた。
ななしが顔を上げる前に、大きな影が彼女を覆い隠す。レオナだ。
「……来ないでください。……わたし、媚びを売るのが仕事ですから。レオナさんには不快なだけでしょう?」
「……あぁ? まだその話かよ。……おい、こっち向け」
レオナは強引にななしの腕を掴み立ち上がらせた。
逃げようとする彼女を力任せに岩場へと追い詰める。
「離してください! レオナさんの望み通り、もう空気なんて読みません。嫌いだって、顔も見たくないって、はっきり言えばいいんですか!?」
「言ってみろよ。……お前のその、本気で怒ってる面の方が、よっぽど俺の心臓を動かすぜ」
「……っ、意味、わかんないですよ……!」
ななしがレオナの胸元を拳で叩こうとした瞬間、視界が急激に近付いた。奪われたのは抗議の言葉と呼吸。
「ん、……っ!?」
熱くて重い。
レオナの唇は噛み付くような激しさで彼女の口内を蹂躙した。
喧嘩の延長線上にあるような乱暴で独占的な接吻。だが、その奥にある焦燥をななしは確かに感じ取っていた。
「ふ、ぁ……っ、んん……っ」
抵抗する力は次第に奪われななしの腕はレオナの首に回される。深い深い終わりのないような口付け。
やがてレオナが顔を離し射抜くように見つめる。
「……俺が、お前に何を求めてるか、まだわかんねぇのか」
「……わかりません。……だって、レオナさん、いつも意地悪ばかりで……」
「……チッ。俺が欲しいのは、他人に向けられるような取り繕った笑顔じゃねぇ。……俺にだけ見せる、醜い涙や声だ」
レオナの大きな掌が彼女の頬を乱暴に、けれど慈しむように包み込んだ。
「俺を特別扱いする奴なら腐るほどいる。……だが、俺を一人の男として怒鳴りつけられるのは、お前だけだ」
ななしは、その不器用すぎる告白に毒気を抜かれたように息を吐いた。彼が怒っていたのは彼女が自分に対しても外面を保とうとしたから。それは彼にとって自分への信頼がないことと同義だったのだ。
「……レオナさん、本当に、勝手すぎます。……でも、わたしも、もっと素直になればよかったです」
「……はっ、ようやくわかったか。……おい、毛玉」
レオナが背後に視線を向けると、茂みの陰からグリムが恐る恐る顔を出した。
「ふ、ふなっ……仲直りしたのか?」
「……見ての通りだ。……ななし、行くぞ。……腹が減った」
「……もうちょっとムードとかないんですかね。あと、グリムも心配かけちゃってごめんね」
レオナは彼女の腰をぐいと引き寄せ、自分の方へと密着させる。
先ほどまでの険悪な空気は熱い熱量と共に塗り替えられていた。
「……大好きですよ、レオナさん」
「……黙って付いてこい。……あと、さっきの嫌いって言葉、二度と口にするな……噛み殺すぞ」
照れ隠しに低く唸るレオナの横でななしは今度こそ誰の目も気にしない、彼女だけの本当の笑顔を浮かべた。
巨木の影が落とす濃い闇の中で、ななしは必死に溢れそうになる涙を堪えていた。
発端は、何てことのない日常の風景だった。
マジカルシフト大会の準備で忙しないサバナクロー寮。
ななしは他寮との調整や備品の管理を真面目にこなしていた。レオナの気まぐれな要求にも、周囲からの無理難題にも笑顔で応え続けていた。
だがその笑顔がレオナには気に入らなかったらしい。
「……おい草食動物、いつまでその気持ち悪い面してやがる」
昼下がり。レオナが放ったその一言が張り詰めていたななしの糸を切った。
「……気持ち悪いって、どういう意味ですか?」
「言葉通りの意味だ。どいつもこいつも、俺の顔色を伺って、当たり障りのねぇ言葉を並べやがる。お前まで、その群れの一匹になり下がったのか」
「わたしはただ、円滑に進むように頑張っているだけですけど」
「それが気に入らねぇっつってんだよ。俺の隣にいる時まで、そうやって媚び売ってんのか。……反吐が出る」
レオナは気怠げに鼻を鳴らし、彼女に背を向けた。
ななしの胸の奥で何かが音を立てて崩れた。
彼女なりに彼の立場が悪くならないように、彼が動きやすいようにと心を砕いてきた。それを最も理解してほしかった相手に「媚び」と断じられたショック。
「……最低です。レオナさんに、わたしの気持ちなんて一生わかりません!」
言い返すと同時に彼女は走り出していってしまった。
「ふなっ!? 待つんだゾ、子分! レオナ! オメー言い過ぎなんだゾ!」
後ろでグリムが騒ぐ声が聞こえたが止まれなかった。
薄暗い温室の奥。岩場に腰を下ろし膝を抱える。
「……なによ、わたしがどれだけ……レオナさんのことを、特別だと思ってるか知らない癖に……」
独り言は虚しく温室に溶ける。人の顔色を伺って生きることは得意だと思っていた。なのに一番大切な人の機嫌だけがどうしても正しく読み解けない。
「――そこにいたか。逃げ足だけは一丁前だな、草食動物」
低く地響きのような声が頭上から降ってきた。
ななしが顔を上げる前に、大きな影が彼女を覆い隠す。レオナだ。
「……来ないでください。……わたし、媚びを売るのが仕事ですから。レオナさんには不快なだけでしょう?」
「……あぁ? まだその話かよ。……おい、こっち向け」
レオナは強引にななしの腕を掴み立ち上がらせた。
逃げようとする彼女を力任せに岩場へと追い詰める。
「離してください! レオナさんの望み通り、もう空気なんて読みません。嫌いだって、顔も見たくないって、はっきり言えばいいんですか!?」
「言ってみろよ。……お前のその、本気で怒ってる面の方が、よっぽど俺の心臓を動かすぜ」
「……っ、意味、わかんないですよ……!」
ななしがレオナの胸元を拳で叩こうとした瞬間、視界が急激に近付いた。奪われたのは抗議の言葉と呼吸。
「ん、……っ!?」
熱くて重い。
レオナの唇は噛み付くような激しさで彼女の口内を蹂躙した。
喧嘩の延長線上にあるような乱暴で独占的な接吻。だが、その奥にある焦燥をななしは確かに感じ取っていた。
「ふ、ぁ……っ、んん……っ」
抵抗する力は次第に奪われななしの腕はレオナの首に回される。深い深い終わりのないような口付け。
やがてレオナが顔を離し射抜くように見つめる。
「……俺が、お前に何を求めてるか、まだわかんねぇのか」
「……わかりません。……だって、レオナさん、いつも意地悪ばかりで……」
「……チッ。俺が欲しいのは、他人に向けられるような取り繕った笑顔じゃねぇ。……俺にだけ見せる、醜い涙や声だ」
レオナの大きな掌が彼女の頬を乱暴に、けれど慈しむように包み込んだ。
「俺を特別扱いする奴なら腐るほどいる。……だが、俺を一人の男として怒鳴りつけられるのは、お前だけだ」
ななしは、その不器用すぎる告白に毒気を抜かれたように息を吐いた。彼が怒っていたのは彼女が自分に対しても外面を保とうとしたから。それは彼にとって自分への信頼がないことと同義だったのだ。
「……レオナさん、本当に、勝手すぎます。……でも、わたしも、もっと素直になればよかったです」
「……はっ、ようやくわかったか。……おい、毛玉」
レオナが背後に視線を向けると、茂みの陰からグリムが恐る恐る顔を出した。
「ふ、ふなっ……仲直りしたのか?」
「……見ての通りだ。……ななし、行くぞ。……腹が減った」
「……もうちょっとムードとかないんですかね。あと、グリムも心配かけちゃってごめんね」
レオナは彼女の腰をぐいと引き寄せ、自分の方へと密着させる。
先ほどまでの険悪な空気は熱い熱量と共に塗り替えられていた。
「……大好きですよ、レオナさん」
「……黙って付いてこい。……あと、さっきの嫌いって言葉、二度と口にするな……噛み殺すぞ」
照れ隠しに低く唸るレオナの横でななしは今度こそ誰の目も気にしない、彼女だけの本当の笑顔を浮かべた。
