ハーツラビュル
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甘く香ばしい焼き菓子の香りがハーツラビュル寮の広々とした厨房いっぱいに満ちていく。
大きな窓から差し込む柔らかな午後の光が、作業台に並んだ真っ赤なイチゴを磨き上げられた宝石のように艶やかに照らしていた。
ななしは隣で手際よくタルト生地を伸ばすトレイの横顔を盗み見るようにじっと見つめた。
きっちりとエプロンを締め、迷いなくお菓子作りをする彼の姿は普段の面倒見のいい先輩というよりも、どこか男らしく少し遠い大人びた存在に見える。
「……ん、どうした? ななし。俺の顔に何かついてるか?」
トレイは麺棒を動かす手を止めることなく、眼鏡の奥の琥珀色の瞳をこちらに向けて優しく微笑んだ。
すべてを見透かしているようなその余裕のある態度に、ななしは心臓を跳ねさせ少しだけ慌てて首を振る。
トレイは「それならいいんだ」と喉の奥で短く笑うと、型に生地を丁寧に敷き詰め余分な端をペティナイフの鮮やかな手つきで切り落としていった。
「よし土台はこれで準備完了だ。次は一番肝心な工程だぞ。……ほら、こっち来い」
トレイに促され、ななしは作業台を叩く彼の隣へと距離を詰める。
トレイはボウルたっぷりに練り上げられた、バニラビーンズが黒くきらめくカスタードクリームを目の前に置くと、ずっしりと重みのある絞り袋をななしの手に持たせた。
そして背後から影のようにぴったりと包み込むようにして、ななしの手の上に自分の大きな手を重ねた。
背中に触れる彼の胸板の厚み、指先からダイレクトに伝わる男らしい体温、そして耳元で聞こえる落ち着いた衣服の擦れる音と呼吸。あまりの密着感にななしの心臓はうるさいほどに跳ね上がった。
「力加減はこう……円を描くように、ゆっくりな。焦らなくていい。俺がこうして、ずっとついてるから」
トレイの低く響く声は、まるでおまじないのように心地よく耳の奥をくすぐる。重ねられた彼の掌は驚くほど厚く頼もしく、ななしの震える手を優しくリードしながら滑らかなクリームを黄金色のタルト台へと美しく広げていく。
視界の端で揺れるクローバーの髪の隙間から、彼の男らしいフェイスラインが見えて、ななしは息をするのも忘れるほどに緊張で身体を強ばらせてしまった。
「……指先までガチガチだな。そんなに緊張しなくても大丈夫だ」
トレイはななしの可愛い動揺をすべて楽しむように、わざと顔を限界まで覗き込んで悪戯っぽく笑った。眼鏡の奥の瞳が至近距離でまっすぐに射抜いてくる。
トレイは仕上げに使うために用意していた大粒のイチゴを一粒指先で摘み上げると、ななしの唇へとそっと運んだ。
「ほら、味見。このイチゴは俺が温室で手をかけて育てたものだから、味は保証するよ」
戸惑いながらもななしがそっと口を開いてイチゴを頬張ると弾けるような甘酸っぱい果汁が一瞬で口いっぱいに広がった。
トレイは満足そうに目を細めると、ななしの唇に小さく残った果汁を自分の親指の腹でそっと拭い、それをそのまま自分の唇で軽く舐めとる。その一連の動作があまりにも自然で、胸が締め付けられるほどに艶っぽい。
「美味いだろ? ……お前がそんな風に俺が作ったもので美味しそうに顔を綻ばせてくれると、作った甲斐があったって心の底から思えるよ。さあ、最後にお前がイチゴを飾って完成だ。どんな風に並べても、お前が作ったものなら誰も文句は言わないさ。……もちろん俺も、それが一番楽しみだからな」
トレイはななしの頭を大きな手でポンと愛おしそうに優しく叩くと、焼き上がったばかりの焼き菓子のように、温かくて甘い独占欲の滲む眼差しを向けた。
甘い香りに包まれた広いキッチンに流れる二人だけの静かな時間。
外から聞こえてくる寮生たちの騒がしい声さえ今は遠い世界の出来事のように二人の熱の中に溶けて消えていった。
大きな窓から差し込む柔らかな午後の光が、作業台に並んだ真っ赤なイチゴを磨き上げられた宝石のように艶やかに照らしていた。
ななしは隣で手際よくタルト生地を伸ばすトレイの横顔を盗み見るようにじっと見つめた。
きっちりとエプロンを締め、迷いなくお菓子作りをする彼の姿は普段の面倒見のいい先輩というよりも、どこか男らしく少し遠い大人びた存在に見える。
「……ん、どうした? ななし。俺の顔に何かついてるか?」
トレイは麺棒を動かす手を止めることなく、眼鏡の奥の琥珀色の瞳をこちらに向けて優しく微笑んだ。
すべてを見透かしているようなその余裕のある態度に、ななしは心臓を跳ねさせ少しだけ慌てて首を振る。
トレイは「それならいいんだ」と喉の奥で短く笑うと、型に生地を丁寧に敷き詰め余分な端をペティナイフの鮮やかな手つきで切り落としていった。
「よし土台はこれで準備完了だ。次は一番肝心な工程だぞ。……ほら、こっち来い」
トレイに促され、ななしは作業台を叩く彼の隣へと距離を詰める。
トレイはボウルたっぷりに練り上げられた、バニラビーンズが黒くきらめくカスタードクリームを目の前に置くと、ずっしりと重みのある絞り袋をななしの手に持たせた。
そして背後から影のようにぴったりと包み込むようにして、ななしの手の上に自分の大きな手を重ねた。
背中に触れる彼の胸板の厚み、指先からダイレクトに伝わる男らしい体温、そして耳元で聞こえる落ち着いた衣服の擦れる音と呼吸。あまりの密着感にななしの心臓はうるさいほどに跳ね上がった。
「力加減はこう……円を描くように、ゆっくりな。焦らなくていい。俺がこうして、ずっとついてるから」
トレイの低く響く声は、まるでおまじないのように心地よく耳の奥をくすぐる。重ねられた彼の掌は驚くほど厚く頼もしく、ななしの震える手を優しくリードしながら滑らかなクリームを黄金色のタルト台へと美しく広げていく。
視界の端で揺れるクローバーの髪の隙間から、彼の男らしいフェイスラインが見えて、ななしは息をするのも忘れるほどに緊張で身体を強ばらせてしまった。
「……指先までガチガチだな。そんなに緊張しなくても大丈夫だ」
トレイはななしの可愛い動揺をすべて楽しむように、わざと顔を限界まで覗き込んで悪戯っぽく笑った。眼鏡の奥の瞳が至近距離でまっすぐに射抜いてくる。
トレイは仕上げに使うために用意していた大粒のイチゴを一粒指先で摘み上げると、ななしの唇へとそっと運んだ。
「ほら、味見。このイチゴは俺が温室で手をかけて育てたものだから、味は保証するよ」
戸惑いながらもななしがそっと口を開いてイチゴを頬張ると弾けるような甘酸っぱい果汁が一瞬で口いっぱいに広がった。
トレイは満足そうに目を細めると、ななしの唇に小さく残った果汁を自分の親指の腹でそっと拭い、それをそのまま自分の唇で軽く舐めとる。その一連の動作があまりにも自然で、胸が締め付けられるほどに艶っぽい。
「美味いだろ? ……お前がそんな風に俺が作ったもので美味しそうに顔を綻ばせてくれると、作った甲斐があったって心の底から思えるよ。さあ、最後にお前がイチゴを飾って完成だ。どんな風に並べても、お前が作ったものなら誰も文句は言わないさ。……もちろん俺も、それが一番楽しみだからな」
トレイはななしの頭を大きな手でポンと愛おしそうに優しく叩くと、焼き上がったばかりの焼き菓子のように、温かくて甘い独占欲の滲む眼差しを向けた。
甘い香りに包まれた広いキッチンに流れる二人だけの静かな時間。
外から聞こえてくる寮生たちの騒がしい声さえ今は遠い世界の出来事のように二人の熱の中に溶けて消えていった。
