ハーツラビュル
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ナイトレイブンカレッジを卒業して数年。
大学進学や就職など、それぞれの道を歩んでいた彼らも、今や堂々と酒を煽れる年齢になっていた。
ある賑やかなパブの一角。
そこには学生時代から変わらぬ騒がしさを見せるエースとデュース、そして異世界からの迷い人であったななしの姿がある。
「あはは! デュース、それ本気? さすがに盛りすぎでしょ」
「本当なんだ、ななし! 嘘だと思うならエースに聞いてくれ。……おい、エース!」
ななしが楽しそうに笑いながらグラスを揺らす。彼女は卒業後、より柔らかく大人の女性らしい落ち着きを纏っていたが、真面目で明るいその本質は変わっていない。
一方で話を振られたエースは、心ここにあらずといった様子でジョッキを口に運んでいた。
「……あ? ああ、そうだったかもな。アイツ、マジでそのまま突っ込んでったわ」
エースの返答はどこか適当だ。彼は先ほどから、ななしの少し赤くなった頬や、笑うたびに揺れる鎖骨から目が離せずにいた。
酒が進むにつれ、胸の奥に押し込めていた熱い塊が喉元までせり上がってくるのを感じている。
そんなエースの視線に気づかないほど、成長したデュースは鈍くない。デュースは手元の時計をチラリと確認すると、わざとらしく大きな動作で立ち上がった。
「すまない二人とも。明日は早朝から用事があるのを忘れていた。……僕はもうそろそろ帰るとするよ」
「はあ!? デュース、お前まだちょっとしか飲んでねーじゃん。付き合い悪いなー!」
エースが茶化すが、デュースの目は笑っていない。「あとは自分でどうにかしろ」という無言の圧力をエースにぶつけ、ななしに向き直る。
「ななし、また今度ゆっくりな。……エース、飲みすぎには気をつけろよ。じゃあな」
「はあ!? デュース、お前……! 待てって!」
エースが珍しく焦った声を出すが、デュースは「あとは頑張れよ」と言いたげにエースの肩を強く叩き、足早に店を出て行った。
嵐が去ったような静寂が、テーブルを包み込む。
「……行っちゃった。デュース、忙しいんだね。……ねえエース、水もらおうか? 本当に顔赤いよ」
「いらねー。水なんて飲んだら、せっかくの勇気が消えんだろ」
「勇気……?」
ななしが心配そうに身を乗り出すと、エースがガタッと椅子を鳴らして隣の席に移動してきた。驚く間もなく、エースの熱い体がななしに密着する。
「ちょっと、エース! 狭いってば。……うわ、お酒の匂いすごい。やっぱり酔いすぎだって」
「うるせーな、酔ってなきゃこんなこと言えねーよ。……ななし、お前さ。卒業してから何回こうやって会ったと思ってんの?」
エースがななしの肩に頭を預けてくる。首筋に当たる彼の吐息が熱い。
「そのたびにさ、オレがどんな気持ちでお前を送ってったか、考えたことある? ……アイツは魔法が使えねーからとか、夜道は危ねーからとか、そんなの全部建前。……本当は、全部オレ自身がお前を離したくなかっただけだし」
ななしの鼓動が急激に速まる。エースの言葉は、酔っ払いの戯言にしてはあまりに重く切実だった。
「エース、それって、どういう……」
「……にっぶいなー。真面目すぎるのも大概にしろよ。オレ、もう限界なんだけど」
エースの瞳は据わっているようでいて、奥底には執着に近い熱が灯っていた。
「……ちょっと待って。ここ、お店だよ? ……とりあえず出よう、ね?」
「……チッ、わかったよ。逃げんなよ、絶対」
エースはななしの手を強く握り締め、代金をテーブルに置くと、ふらつく足取りで彼女を店から連れ出した。
◇
店を一歩出ると、ひんやりとした夜風が火照った頬を撫でる。
エースはななしの手を引いたまま、人通りの少ない街灯の薄暗い通りへと歩を進めた。
「ちょっと、エース! 早いってば」
人気のない角まで来たところで、エースが急に足を止める。勢いのまま、彼はななしを街灯の支柱に追い詰めるようにして、その両腕で彼女を閉じ込めた。
「……で。店じゃ聞かせてもらえなかったけど、……返事は?」
エースの顔が、鼻先が、触れそうなほど近くにある。
酒の匂いと共に、彼特有の体温が伝わってくる。
ななしは逃げるのをやめ、真っ赤な顔で彼を見つめ返した。
「……ズルいよエース。お酒の勢いで……」
「ズルくて悪かったな。で?返事は?もう待てないんだけど」
「…………わたしも、ずっと同じ気持ちだったよ。この関係が崩れちゃうのが怖くて言えなかったけど、わたしもエースが好き。……友だちじゃ、嫌だった」
ななしが潤んだ瞳でそう告げた瞬間、エースの表情が劇的に緩む。
「……やっと言った。お前、マジで責任取れよ」
エースの手がななしの頬を包み込み、そのまま静かに唇を重ねた。
鼻を突くのは、エースが飲んでいたウイスキーのきつい香り。そして肌に直接伝わるのは、彼自身の熱。少し乱暴で、酒の匂いが混じったキス。ななしはエースの肩を掴み、その熱を受け止める。
長い、長いキスの後。
ようやく離れたエースは、ななしの額に自分の額をこつんと当てて、幸せそうに笑った。
「……あは、マジで酒臭いな、オレ。……ごめん、ななし。でも、後悔はしてないわ」
「……本当最悪。……でも、嬉しい」
ななしが顔を真っ赤にして俯くと、エースはその頭を自分の胸元に引き寄せ、今度は壊れ物を扱うように優しく抱きしめた。
「明日起きて『あれはお酒のせいでした』なんて言ったら、絶対許さないからね」
「言うわけねーだろ。……むしろ、明日からはもっと覚悟しとけよ」
エースは満足げに笑い、ななしの肩を抱き寄せながらゆっくりと歩き出す。ふと、エースが夜空を見上げて小さく鼻を鳴らした。
「……ま、なんだ。明日になったら、アイツにもお礼くらいは言ってやるか」
「え? アイツって、デュースのこと?」
「そう。アイツ、わざとらしく帰りやがってさ。……おかげで、こうしてお前と二人きりになれたわけだし。今日に関しては、マジでアイツに感謝だわ」
エースは少し照れくさそうに笑いながら、繋いだななしの手を自分のコートのポケットに放り込んだ。
「デュース、優しいよね」
「優しすぎだっつーの。……でも、次会った時は『おせっかいなんだよ』って一言余計なこと言ってからお礼言うつもりだけどな」
「ふふっ、エースらしいね」
街灯の光が、寄り添って歩く二人の影を静かに照らしている。エースはななしを離さないように引き寄せ、最高に幸せな夜道を歩んでいった。
大学進学や就職など、それぞれの道を歩んでいた彼らも、今や堂々と酒を煽れる年齢になっていた。
ある賑やかなパブの一角。
そこには学生時代から変わらぬ騒がしさを見せるエースとデュース、そして異世界からの迷い人であったななしの姿がある。
「あはは! デュース、それ本気? さすがに盛りすぎでしょ」
「本当なんだ、ななし! 嘘だと思うならエースに聞いてくれ。……おい、エース!」
ななしが楽しそうに笑いながらグラスを揺らす。彼女は卒業後、より柔らかく大人の女性らしい落ち着きを纏っていたが、真面目で明るいその本質は変わっていない。
一方で話を振られたエースは、心ここにあらずといった様子でジョッキを口に運んでいた。
「……あ? ああ、そうだったかもな。アイツ、マジでそのまま突っ込んでったわ」
エースの返答はどこか適当だ。彼は先ほどから、ななしの少し赤くなった頬や、笑うたびに揺れる鎖骨から目が離せずにいた。
酒が進むにつれ、胸の奥に押し込めていた熱い塊が喉元までせり上がってくるのを感じている。
そんなエースの視線に気づかないほど、成長したデュースは鈍くない。デュースは手元の時計をチラリと確認すると、わざとらしく大きな動作で立ち上がった。
「すまない二人とも。明日は早朝から用事があるのを忘れていた。……僕はもうそろそろ帰るとするよ」
「はあ!? デュース、お前まだちょっとしか飲んでねーじゃん。付き合い悪いなー!」
エースが茶化すが、デュースの目は笑っていない。「あとは自分でどうにかしろ」という無言の圧力をエースにぶつけ、ななしに向き直る。
「ななし、また今度ゆっくりな。……エース、飲みすぎには気をつけろよ。じゃあな」
「はあ!? デュース、お前……! 待てって!」
エースが珍しく焦った声を出すが、デュースは「あとは頑張れよ」と言いたげにエースの肩を強く叩き、足早に店を出て行った。
嵐が去ったような静寂が、テーブルを包み込む。
「……行っちゃった。デュース、忙しいんだね。……ねえエース、水もらおうか? 本当に顔赤いよ」
「いらねー。水なんて飲んだら、せっかくの勇気が消えんだろ」
「勇気……?」
ななしが心配そうに身を乗り出すと、エースがガタッと椅子を鳴らして隣の席に移動してきた。驚く間もなく、エースの熱い体がななしに密着する。
「ちょっと、エース! 狭いってば。……うわ、お酒の匂いすごい。やっぱり酔いすぎだって」
「うるせーな、酔ってなきゃこんなこと言えねーよ。……ななし、お前さ。卒業してから何回こうやって会ったと思ってんの?」
エースがななしの肩に頭を預けてくる。首筋に当たる彼の吐息が熱い。
「そのたびにさ、オレがどんな気持ちでお前を送ってったか、考えたことある? ……アイツは魔法が使えねーからとか、夜道は危ねーからとか、そんなの全部建前。……本当は、全部オレ自身がお前を離したくなかっただけだし」
ななしの鼓動が急激に速まる。エースの言葉は、酔っ払いの戯言にしてはあまりに重く切実だった。
「エース、それって、どういう……」
「……にっぶいなー。真面目すぎるのも大概にしろよ。オレ、もう限界なんだけど」
エースの瞳は据わっているようでいて、奥底には執着に近い熱が灯っていた。
「……ちょっと待って。ここ、お店だよ? ……とりあえず出よう、ね?」
「……チッ、わかったよ。逃げんなよ、絶対」
エースはななしの手を強く握り締め、代金をテーブルに置くと、ふらつく足取りで彼女を店から連れ出した。
◇
店を一歩出ると、ひんやりとした夜風が火照った頬を撫でる。
エースはななしの手を引いたまま、人通りの少ない街灯の薄暗い通りへと歩を進めた。
「ちょっと、エース! 早いってば」
人気のない角まで来たところで、エースが急に足を止める。勢いのまま、彼はななしを街灯の支柱に追い詰めるようにして、その両腕で彼女を閉じ込めた。
「……で。店じゃ聞かせてもらえなかったけど、……返事は?」
エースの顔が、鼻先が、触れそうなほど近くにある。
酒の匂いと共に、彼特有の体温が伝わってくる。
ななしは逃げるのをやめ、真っ赤な顔で彼を見つめ返した。
「……ズルいよエース。お酒の勢いで……」
「ズルくて悪かったな。で?返事は?もう待てないんだけど」
「…………わたしも、ずっと同じ気持ちだったよ。この関係が崩れちゃうのが怖くて言えなかったけど、わたしもエースが好き。……友だちじゃ、嫌だった」
ななしが潤んだ瞳でそう告げた瞬間、エースの表情が劇的に緩む。
「……やっと言った。お前、マジで責任取れよ」
エースの手がななしの頬を包み込み、そのまま静かに唇を重ねた。
鼻を突くのは、エースが飲んでいたウイスキーのきつい香り。そして肌に直接伝わるのは、彼自身の熱。少し乱暴で、酒の匂いが混じったキス。ななしはエースの肩を掴み、その熱を受け止める。
長い、長いキスの後。
ようやく離れたエースは、ななしの額に自分の額をこつんと当てて、幸せそうに笑った。
「……あは、マジで酒臭いな、オレ。……ごめん、ななし。でも、後悔はしてないわ」
「……本当最悪。……でも、嬉しい」
ななしが顔を真っ赤にして俯くと、エースはその頭を自分の胸元に引き寄せ、今度は壊れ物を扱うように優しく抱きしめた。
「明日起きて『あれはお酒のせいでした』なんて言ったら、絶対許さないからね」
「言うわけねーだろ。……むしろ、明日からはもっと覚悟しとけよ」
エースは満足げに笑い、ななしの肩を抱き寄せながらゆっくりと歩き出す。ふと、エースが夜空を見上げて小さく鼻を鳴らした。
「……ま、なんだ。明日になったら、アイツにもお礼くらいは言ってやるか」
「え? アイツって、デュースのこと?」
「そう。アイツ、わざとらしく帰りやがってさ。……おかげで、こうしてお前と二人きりになれたわけだし。今日に関しては、マジでアイツに感謝だわ」
エースは少し照れくさそうに笑いながら、繋いだななしの手を自分のコートのポケットに放り込んだ。
「デュース、優しいよね」
「優しすぎだっつーの。……でも、次会った時は『おせっかいなんだよ』って一言余計なこと言ってからお礼言うつもりだけどな」
「ふふっ、エースらしいね」
街灯の光が、寄り添って歩く二人の影を静かに照らしている。エースはななしを離さないように引き寄せ、最高に幸せな夜道を歩んでいった。
