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試合終了を告げるブザーが鳴った瞬間、会場の空気が一気に弾けた。
「勝ったんだゾー!」
グリムが両前足を上げる。
「見たか!? オレ様の応援が効いたんだゾ!」
「グリムの応援のおかげだね」
「当然なんだゾ!」
観客席のあちこちで拍手が起こる。
コートでは選手たちが互いに声を掛け合い握手を交わしていた。
その中で真っ先にこちらを見つけたのは、やはりエースだった。
「ななし!」
名前を呼ばれ視線がぶつかる。
エースは笑った。
試合中の鋭い表情とは違う、いつもの顔。
けれど汗に濡れた前髪と高揚した空気のせいか、どこか違って見えた。
「ほらな? 言った通りだったろ」
「うん。すごかった」
「もっと具体的に褒めてくれてもいいんだけど?」
「え?」
「いやだからさ、どこがかっこよかったとか」
「自分で聞くんだ」
「別にいいだろ!」
エースが眉を寄せる。
「シュートとかドライブとかパス回しとか、色々あったじゃん?」
「全部かっこよかったよ」
「ざっくりしてんなぁ!」
「でも本当にそうだったから」
「……っ」
エースが言葉に詰まる。
「そういう真顔で言うの反則なんだけど」
「何が?」
「なんでもない!」
◇
「小エビちゃーん」
後ろからひょいと影が落ちる。
「オレのこと忘れてない?」
「フロイド先輩」
「ねぇねぇ見てた? 最後のダンク」
「見てました」
「どーだった?」
「すごかったです」
「それだけ?」
「え?」
「カニちゃんにはいっぱい言ってたじゃん」
「聞こえてたんですか」
「聞こえる聞こえる」
フロイドが笑う。
「オレにも言ってよ。いっぱい頑張ったんだからさぁ」
「えっと……迫力がありました」
「うんうん」
「相手の選手二人に囲まれてたのに決めちゃうし」
「うん」
「あと速かったです」
「うんうん」
「それから――」
「アハッ。満足」
フロイドが機嫌よさそうに目を細めた。
「小エビちゃんがちゃんと見ててくれたならそれでいーや」
「先輩、今日は特に楽しそうでしたね」
「だって面白かったもん」
「試合がですか?」
「それもあるけど」
フロイドが少しだけ顔を寄せる。
「観客席見るたび小エビちゃんいたし」
「……」
「応援してくれてるの分かると頑張ろっかなーってなるんだよねぇ」
「それは光栄です」
「でしょ?」
「でも頑張ったのはフロイド先輩です」
「じゃあご褒美ちょーだい」
「またそれですか」
「だめ?」
「内容によります」
「じゃあ考えとく」
「今考えてないんですか」
「うん」
フロイドがけらけら笑う。
「オレ、楽しみは後に取っとくタイプ」
◇
「お前たち、まだそこにいたのか」
ジャミルがタオルを肩に掛けたまま近づいてくる。
「撤収の準備が始まるぞ」
「あ、ジャミル先輩」
「ななし、グリム、今日は応援ありがとう」
「こちらこそ、すごい試合でした」
「そう言ってもらえると助かる」
ジャミルは小さく息を吐いた。
「正直なところ、前半はかなり嫌な流れだった」
「そうだったんですか?」
「ああ。相手のセンターが予想以上だったからな」
「全然分かりませんでした」
「顔に出すわけにはいかないからな」
「さすがジャミル先輩」
「褒めても何も出ないぞ」
そう言いながらも少しだけ表情が柔らかい。
「でもお前たちの声は聞こえていた」
「グリムの声もですか?」
「特にな」
「オレ様は大活躍だったんだゾ!」
「審判が何度か観客席を見ていたぞ」
「なんでなんだゾ?」
「大声だったからだろうな」
グリムが首を傾げる。
ジャミルが小さく笑った。
「不思議と落ち着いたよ」
「え?」
「応援されていると実感できると、人間案外冷静になれるものなんだ」
「そういうものなんですね」
「少なくとも俺はそうだった」
ジャミルの声は静かだった。
けれどその言葉は真っ直ぐ届いた。
◇
「おーい、ジャミル先輩!」
エースが近づいてくる。
「監督が呼んでますよ」
「ああ、今行く」
「あとフロイド先輩も」
「えー」
「えーじゃなくて」
「めんどくさーい」
「ほら行きますよ」
「小エビちゃん助けてー」
「頑張ってください」
「裏切り者だぁ」
「違います」
「アハッ」
フロイドは笑いながら歩き出し、その途中で振り返った。
「逃げないで待っててねぇ」
「逃げませんよ」
「約束」
「約束です」
満足したように手を振って去っていく。
◇
しばらくして選手たちが戻ってきた。
撤収作業も終わりに近い。
観客もかなり減っていた。
「やーっと終わったー!」
エースが大きく伸びをする。
「あー、腹減った!」
「試合終わって最初がそれか」
ジャミルが呆れる。
「だってマジで減ったんすよ」
「オレも減ったぁ」
「フロイド先輩まで」
「運動したしねぇ」
「今日は高級ツナ缶なんだゾ!」
「お前はそれしかないのか」
「他にもあるんだゾ!」
「例えば?」
「えっと……」
「ないんじゃないか」
「あるんだゾー!」
グリムが抗議する。
みんなの笑い声が重なった。
◇
「そういえばさ」
エースがふと口を開く。
「ななしって試合とか見るの好き?」
「好きだよ」
「へぇ」
「今日もっと好きになったかも」
「……へぇ」
「なんで二回言うの?」
「いや別に」
エースが視線を逸らす。
「また来てくれる?」
「予定が合えば」
「なんだよそれ」
「行くよ」
「ほんと?」
「うん」
「よし」
エースが嬉しそうに笑う。
「じゃあ次も活躍しなきゃな」
「毎回言ってる気がする」
「毎回やってるから問題なし!」
「自信家ですね」
「自信なくしたら終わりじゃん?」
その言葉は妙に真面目だった。
「負けんの悔しいし」
「うん」
「だから応援してくれると嬉しい」
エースが頭をかく。
「単純に力になるし」
「また応援するね」
「約束な」
「うん、約束」
◇
「小エビちゃん」
今度はフロイドが覗き込む。
「次の試合も来る?」
「行けたら」
「カニちゃんと同じ答えだ」
「だって本当にそうだから」
「じゃあ来てくれたらいっぱい点取る」
「取れなかったら?」
「その時はその時〜」
「適当ですね」
「バスケってそういうもんじゃない?」
「そうなんですか?」
「うん。上手くいく日もあるし、ダメな日もある」
珍しく落ち着いた声だった。
「でも来てくれるなら頑張る理由になる」
「フロイド先輩まで」
「だって本当だもん」
「……」
「だから来てよ」
「はい」
◇
「二人とも似たことを言うんだな」
ジャミルが苦笑する。
「ジャミル先輩は違うんですか?」
「俺か?」
少し考え、肩をすくめる。
「……いや、俺も同じかもしれないな」
「え?」
「見ていてくれる人がいると力が出る」
「先輩たちって意外と素直ですよね」
「今さら気づいたのか?」
「もっと秘密主義かと」
「それは否定しない」
ジャミルが笑う。
「だが今日くらいはいいだろう」
「特別ですか?」
「勝った日くらいはな」
◇
帰る準備が整う。
外へ出ると夜風が少しだけ火照りをさらっていった。
アリーナの明かりが背中に残る。
「終わっちゃったんだゾ」
グリムがぽつりと言う。
「楽しかったね」
「また来たいんだゾ!」
「じゃあ次も応援だな」
エースが言う。
「小エビちゃん来るならオレも頑張る〜」
「フロイド先輩は普段も頑張ってください」
「えー」
「その通りだな」
「ウミヘビくんまでひどーい」
笑い声が夜に溶ける。
今日の試合は終わった。
歓声も拍手ももう聞こえない。
けれどコートで走る姿も、勝った瞬間の顔も、名前を呼ばれた声も、きっと簡単には忘れられない。
「次はもっとすごいとこ見せるから、期待してて」
エースが言う。
「小エビちゃん驚かせる予定だからねぇ」
フロイドが続く。
「お前の応援に見合う結果を、次も持って帰るよ」
ジャミルが静かに告げる。
「うん、楽しみにしてる」
三人がそれぞれ違う表情で笑った。
勝利の余韻は、まだ消えない。
次の試合まで続いていく。
そんな予感だけが確かにそこにあった。
「勝ったんだゾー!」
グリムが両前足を上げる。
「見たか!? オレ様の応援が効いたんだゾ!」
「グリムの応援のおかげだね」
「当然なんだゾ!」
観客席のあちこちで拍手が起こる。
コートでは選手たちが互いに声を掛け合い握手を交わしていた。
その中で真っ先にこちらを見つけたのは、やはりエースだった。
「ななし!」
名前を呼ばれ視線がぶつかる。
エースは笑った。
試合中の鋭い表情とは違う、いつもの顔。
けれど汗に濡れた前髪と高揚した空気のせいか、どこか違って見えた。
「ほらな? 言った通りだったろ」
「うん。すごかった」
「もっと具体的に褒めてくれてもいいんだけど?」
「え?」
「いやだからさ、どこがかっこよかったとか」
「自分で聞くんだ」
「別にいいだろ!」
エースが眉を寄せる。
「シュートとかドライブとかパス回しとか、色々あったじゃん?」
「全部かっこよかったよ」
「ざっくりしてんなぁ!」
「でも本当にそうだったから」
「……っ」
エースが言葉に詰まる。
「そういう真顔で言うの反則なんだけど」
「何が?」
「なんでもない!」
◇
「小エビちゃーん」
後ろからひょいと影が落ちる。
「オレのこと忘れてない?」
「フロイド先輩」
「ねぇねぇ見てた? 最後のダンク」
「見てました」
「どーだった?」
「すごかったです」
「それだけ?」
「え?」
「カニちゃんにはいっぱい言ってたじゃん」
「聞こえてたんですか」
「聞こえる聞こえる」
フロイドが笑う。
「オレにも言ってよ。いっぱい頑張ったんだからさぁ」
「えっと……迫力がありました」
「うんうん」
「相手の選手二人に囲まれてたのに決めちゃうし」
「うん」
「あと速かったです」
「うんうん」
「それから――」
「アハッ。満足」
フロイドが機嫌よさそうに目を細めた。
「小エビちゃんがちゃんと見ててくれたならそれでいーや」
「先輩、今日は特に楽しそうでしたね」
「だって面白かったもん」
「試合がですか?」
「それもあるけど」
フロイドが少しだけ顔を寄せる。
「観客席見るたび小エビちゃんいたし」
「……」
「応援してくれてるの分かると頑張ろっかなーってなるんだよねぇ」
「それは光栄です」
「でしょ?」
「でも頑張ったのはフロイド先輩です」
「じゃあご褒美ちょーだい」
「またそれですか」
「だめ?」
「内容によります」
「じゃあ考えとく」
「今考えてないんですか」
「うん」
フロイドがけらけら笑う。
「オレ、楽しみは後に取っとくタイプ」
◇
「お前たち、まだそこにいたのか」
ジャミルがタオルを肩に掛けたまま近づいてくる。
「撤収の準備が始まるぞ」
「あ、ジャミル先輩」
「ななし、グリム、今日は応援ありがとう」
「こちらこそ、すごい試合でした」
「そう言ってもらえると助かる」
ジャミルは小さく息を吐いた。
「正直なところ、前半はかなり嫌な流れだった」
「そうだったんですか?」
「ああ。相手のセンターが予想以上だったからな」
「全然分かりませんでした」
「顔に出すわけにはいかないからな」
「さすがジャミル先輩」
「褒めても何も出ないぞ」
そう言いながらも少しだけ表情が柔らかい。
「でもお前たちの声は聞こえていた」
「グリムの声もですか?」
「特にな」
「オレ様は大活躍だったんだゾ!」
「審判が何度か観客席を見ていたぞ」
「なんでなんだゾ?」
「大声だったからだろうな」
グリムが首を傾げる。
ジャミルが小さく笑った。
「不思議と落ち着いたよ」
「え?」
「応援されていると実感できると、人間案外冷静になれるものなんだ」
「そういうものなんですね」
「少なくとも俺はそうだった」
ジャミルの声は静かだった。
けれどその言葉は真っ直ぐ届いた。
◇
「おーい、ジャミル先輩!」
エースが近づいてくる。
「監督が呼んでますよ」
「ああ、今行く」
「あとフロイド先輩も」
「えー」
「えーじゃなくて」
「めんどくさーい」
「ほら行きますよ」
「小エビちゃん助けてー」
「頑張ってください」
「裏切り者だぁ」
「違います」
「アハッ」
フロイドは笑いながら歩き出し、その途中で振り返った。
「逃げないで待っててねぇ」
「逃げませんよ」
「約束」
「約束です」
満足したように手を振って去っていく。
◇
しばらくして選手たちが戻ってきた。
撤収作業も終わりに近い。
観客もかなり減っていた。
「やーっと終わったー!」
エースが大きく伸びをする。
「あー、腹減った!」
「試合終わって最初がそれか」
ジャミルが呆れる。
「だってマジで減ったんすよ」
「オレも減ったぁ」
「フロイド先輩まで」
「運動したしねぇ」
「今日は高級ツナ缶なんだゾ!」
「お前はそれしかないのか」
「他にもあるんだゾ!」
「例えば?」
「えっと……」
「ないんじゃないか」
「あるんだゾー!」
グリムが抗議する。
みんなの笑い声が重なった。
◇
「そういえばさ」
エースがふと口を開く。
「ななしって試合とか見るの好き?」
「好きだよ」
「へぇ」
「今日もっと好きになったかも」
「……へぇ」
「なんで二回言うの?」
「いや別に」
エースが視線を逸らす。
「また来てくれる?」
「予定が合えば」
「なんだよそれ」
「行くよ」
「ほんと?」
「うん」
「よし」
エースが嬉しそうに笑う。
「じゃあ次も活躍しなきゃな」
「毎回言ってる気がする」
「毎回やってるから問題なし!」
「自信家ですね」
「自信なくしたら終わりじゃん?」
その言葉は妙に真面目だった。
「負けんの悔しいし」
「うん」
「だから応援してくれると嬉しい」
エースが頭をかく。
「単純に力になるし」
「また応援するね」
「約束な」
「うん、約束」
◇
「小エビちゃん」
今度はフロイドが覗き込む。
「次の試合も来る?」
「行けたら」
「カニちゃんと同じ答えだ」
「だって本当にそうだから」
「じゃあ来てくれたらいっぱい点取る」
「取れなかったら?」
「その時はその時〜」
「適当ですね」
「バスケってそういうもんじゃない?」
「そうなんですか?」
「うん。上手くいく日もあるし、ダメな日もある」
珍しく落ち着いた声だった。
「でも来てくれるなら頑張る理由になる」
「フロイド先輩まで」
「だって本当だもん」
「……」
「だから来てよ」
「はい」
◇
「二人とも似たことを言うんだな」
ジャミルが苦笑する。
「ジャミル先輩は違うんですか?」
「俺か?」
少し考え、肩をすくめる。
「……いや、俺も同じかもしれないな」
「え?」
「見ていてくれる人がいると力が出る」
「先輩たちって意外と素直ですよね」
「今さら気づいたのか?」
「もっと秘密主義かと」
「それは否定しない」
ジャミルが笑う。
「だが今日くらいはいいだろう」
「特別ですか?」
「勝った日くらいはな」
◇
帰る準備が整う。
外へ出ると夜風が少しだけ火照りをさらっていった。
アリーナの明かりが背中に残る。
「終わっちゃったんだゾ」
グリムがぽつりと言う。
「楽しかったね」
「また来たいんだゾ!」
「じゃあ次も応援だな」
エースが言う。
「小エビちゃん来るならオレも頑張る〜」
「フロイド先輩は普段も頑張ってください」
「えー」
「その通りだな」
「ウミヘビくんまでひどーい」
笑い声が夜に溶ける。
今日の試合は終わった。
歓声も拍手ももう聞こえない。
けれどコートで走る姿も、勝った瞬間の顔も、名前を呼ばれた声も、きっと簡単には忘れられない。
「次はもっとすごいとこ見せるから、期待してて」
エースが言う。
「小エビちゃん驚かせる予定だからねぇ」
フロイドが続く。
「お前の応援に見合う結果を、次も持って帰るよ」
ジャミルが静かに告げる。
「うん、楽しみにしてる」
三人がそれぞれ違う表情で笑った。
勝利の余韻は、まだ消えない。
次の試合まで続いていく。
そんな予感だけが確かにそこにあった。
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