イグニハイド
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「……ねえ、それ誰?」
低く落ちた声にななしは肩を震わせた。
振り返るとイデアがじっとこちらを見ている。
その視線はななしの手元のメッセージ画面に向けられていた。
「クラスの人ですよ。課題のことで連絡を取っていて……」
最後まで言い切る前にイデアが一歩近づく。
「……ふーん」
短く返した声は静かなのに張りつめていた。
画面から目を離さないまま、ぽつりと続ける。
「ずいぶん楽しそうに話してるんだね」
「そんなことないですよ」
「いや、あるでしょ」
間髪を入れず出された返事だった。
さらに一歩、自然と距離が縮まりななしは思わず息を止める。
「……ねえ」
名前を呼ぶより静かな声だった。
「その人と話してるときと僕と話してるとき。どっちが楽しい?」
「え……」
急な問いに言葉が出ない。
ほんの一瞬の沈黙。
それだけでイデアの表情がわずかに曇った。
「……今、迷ったよね」
「違います、そういう意味じゃ……」
「違わないでしょ」
静かな口調のまま言葉を重ねられる。
怒鳴られたわけではない。
それなのに胸がぎゅっと締めつけられた。
「……別に? 誰と話すのも自由だし」
そう言いながらイデアはスマホの上にそっと手を添えた。
軽く押さえられただけなのに、逃げ道を塞がれたような気がする。
「でも、僕以外の人と楽しそうにされるのは……普通に無理」
その一言が思っていた以上に重く響いた。
「イデア先輩……」
「……呼ばないで」
「え?」
「そんな声で呼ばれると余計に調子が狂う」
視線がぶつかる。
逸らそうとしても逃げられそうになかった。
「もう連絡取らないでほしい」
「それは……」
「無理って言う?」
言葉を重ねるように、また一歩近づいた。
すぐ目の前まで距離が縮まる。
「僕って、そのくらいの存在なんだ」
「違います!」
思わず声が大きくなる。
イデアが目を瞬かせた。
「イデア先輩は……大切です」
ひとつひとつ確かめるように言葉を紡ぐ。
「一番、大切です」
静かな空気が流れる。
しばらく黙っていたイデアが小さく口を開いた。
「……ほんとに?」
その声には、先ほどまでの刺々しさがほとんど残っていなかった。
不安を隠しきれない響きだった。
「ほんとです」
「……じゃあ」
ななしの手首をそっとつかむ。
力任せではない。
けれど離すつもりがないことだけは伝わってきた。
「証明して」
「証明……ですか?」
「そう、僕が一番だって分かるように証明してみせて」
「……どうすればいいですか?」
その問いにイデアは少しだけ考え込んだあと、小さく答えた。
「……今、この場でその人とのトーク消して」
「……っ」
「できるよね?」
返事を急かす声ではなかった。
それでも断れない空気があった。
そこにあるのは強引さだけではなく、失うことを恐れている気持ちが隠しきれずに滲んでいた。
ななしはゆっくり画面を操作する。
履歴を消し終わるとスマホを閉じた。
「……消しました」
「……そっか」
その言葉を聞いて、イデアは目を伏せる。
ほっとしたように肩の力が抜けた。
「……ごめん」
漏れた声は弱々しい。
「自分でも重いって分かってる」
「分かってるんですね」
少しだけ困ったように笑うとイデアも小さく息をつく。
「……でも、手放すくらいなら嫌われるほうがまだいい」
冗談には聞こえなかった。
「……それでもいい?」
真剣な問いかけにななしは少しだけ笑う。
「ちゃんと離さないなら許します」
その返事にイデアの表情がふっと緩んだ。
「……それ、ずるくない?」
「それをイデア先輩が言うんですか?」
小さなやり取りに空気が少しだけ和らぐ。
イデアはそのままななしの手を引き寄せた。
「……もう逃がさないから」
静かな声だった。
けれどその言葉だけは迷いなく胸に残った。
低く落ちた声にななしは肩を震わせた。
振り返るとイデアがじっとこちらを見ている。
その視線はななしの手元のメッセージ画面に向けられていた。
「クラスの人ですよ。課題のことで連絡を取っていて……」
最後まで言い切る前にイデアが一歩近づく。
「……ふーん」
短く返した声は静かなのに張りつめていた。
画面から目を離さないまま、ぽつりと続ける。
「ずいぶん楽しそうに話してるんだね」
「そんなことないですよ」
「いや、あるでしょ」
間髪を入れず出された返事だった。
さらに一歩、自然と距離が縮まりななしは思わず息を止める。
「……ねえ」
名前を呼ぶより静かな声だった。
「その人と話してるときと僕と話してるとき。どっちが楽しい?」
「え……」
急な問いに言葉が出ない。
ほんの一瞬の沈黙。
それだけでイデアの表情がわずかに曇った。
「……今、迷ったよね」
「違います、そういう意味じゃ……」
「違わないでしょ」
静かな口調のまま言葉を重ねられる。
怒鳴られたわけではない。
それなのに胸がぎゅっと締めつけられた。
「……別に? 誰と話すのも自由だし」
そう言いながらイデアはスマホの上にそっと手を添えた。
軽く押さえられただけなのに、逃げ道を塞がれたような気がする。
「でも、僕以外の人と楽しそうにされるのは……普通に無理」
その一言が思っていた以上に重く響いた。
「イデア先輩……」
「……呼ばないで」
「え?」
「そんな声で呼ばれると余計に調子が狂う」
視線がぶつかる。
逸らそうとしても逃げられそうになかった。
「もう連絡取らないでほしい」
「それは……」
「無理って言う?」
言葉を重ねるように、また一歩近づいた。
すぐ目の前まで距離が縮まる。
「僕って、そのくらいの存在なんだ」
「違います!」
思わず声が大きくなる。
イデアが目を瞬かせた。
「イデア先輩は……大切です」
ひとつひとつ確かめるように言葉を紡ぐ。
「一番、大切です」
静かな空気が流れる。
しばらく黙っていたイデアが小さく口を開いた。
「……ほんとに?」
その声には、先ほどまでの刺々しさがほとんど残っていなかった。
不安を隠しきれない響きだった。
「ほんとです」
「……じゃあ」
ななしの手首をそっとつかむ。
力任せではない。
けれど離すつもりがないことだけは伝わってきた。
「証明して」
「証明……ですか?」
「そう、僕が一番だって分かるように証明してみせて」
「……どうすればいいですか?」
その問いにイデアは少しだけ考え込んだあと、小さく答えた。
「……今、この場でその人とのトーク消して」
「……っ」
「できるよね?」
返事を急かす声ではなかった。
それでも断れない空気があった。
そこにあるのは強引さだけではなく、失うことを恐れている気持ちが隠しきれずに滲んでいた。
ななしはゆっくり画面を操作する。
履歴を消し終わるとスマホを閉じた。
「……消しました」
「……そっか」
その言葉を聞いて、イデアは目を伏せる。
ほっとしたように肩の力が抜けた。
「……ごめん」
漏れた声は弱々しい。
「自分でも重いって分かってる」
「分かってるんですね」
少しだけ困ったように笑うとイデアも小さく息をつく。
「……でも、手放すくらいなら嫌われるほうがまだいい」
冗談には聞こえなかった。
「……それでもいい?」
真剣な問いかけにななしは少しだけ笑う。
「ちゃんと離さないなら許します」
その返事にイデアの表情がふっと緩んだ。
「……それ、ずるくない?」
「それをイデア先輩が言うんですか?」
小さなやり取りに空気が少しだけ和らぐ。
イデアはそのままななしの手を引き寄せた。
「……もう逃がさないから」
静かな声だった。
けれどその言葉だけは迷いなく胸に残った。
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