イグニハイド
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「はぁ……ゲーム機までバグるとか勘弁してほしいんだけど」
モニターを見つめたまま、イデアは大きくため息をつく。
「なにこれ呪い? 嫌がらせイベントか何か?」
画面を切り替えても改善する気配はなく、キーボードを叩く手もどこか荒っぽい。
そのとき、小さくノックの音が響いた。
「……イデア先輩、入りますね。学園長からの預かり物です」
「ひっ……ななし氏?」
返事を待って開いた扉から入ってきたのはななし。
その隣にはグリムが当たり前のようについてきていた。
「い、いらっしゃい……」
「おー、イデア! オレ様も来たんだゾ!」
「と、とりあえず荷物そこに置いといてくだされ」
「オメー、相変わらず暗いんだゾ」
「グリム氏、機材には触らないで。お願いだから」
グリムは口を尖らせながら部屋を見回す。
「イデア先輩、この部屋暑くないですか?」
「あー……」
イデアは思い出したように頭をかく。
「PCフル稼働させてたら排熱がすごくて、空調も追いついてないんだよね」
「オレ様、暑すぎて溶けちまいそうなんだゾ……」
「グリム氏には申し訳ないけど、ななし氏は暑いなら上着でも脱いで調整して」
「わかりました」
言われるがままに制服のジャケットを脱ぎ、首元のネクタイを少し緩めてほっと息をつく。
「たしかに暑いですね」
そう言って襟元のボタンをひとつ、ふたつと外していく。
「……っ!?」
イデアの視線が止まった。
開いた襟元から見えたのは、肌ではない。
胸元をしっかり押さえる厚手の布だった。
頭の中が一瞬真っ白になる。
ななしは男子生徒として過ごしている。
それなのに今見えたものは、その認識を揺さぶるには十分だった。
「イデア先輩?」
「ヒィ!」
「大丈夫ですか? 顔、真っ赤ですよ」
そう言いながら襟元をぱたぱたとあおぐ。
そのたびにシャツ越しの輪郭がわずかに動き、イデアは勢いよく椅子から身を引いた。
「ちょ、ちょっと待って! それ以上あおがないで!」
「え?」
「視覚情報が処理しきれないから!」
「処理……?」
「その、えっと……装備というか、防具というか……!」
「ああ、この下のですか?」
ななしは納得したように胸元へ手をやる。
「結構締めつけるんですよね。もう少し楽なのに替えようかなって」
「替えなくていい!」
思わず裏返った大声が出た。
「むしろ強化して! 完全防備でお願い!」
「完全防備ですか?」
「鉄壁レベルで!」
「そこまでします?」
首をかしげるななしに、イデアは必死に首を縦へ振る。
「拙者の精神が保たないので……!」
「先輩、今日は本当に変ですよ」
心配そうに近づいてくる。
その距離にイデアはさらに慌てた。
頭の中では警報が鳴りっぱなしだった。
「拙者がおかしいだけ!? もうわからん!」
イデアは勢いよくキーボードを叩き始め、早口でまくし立てる。
「よし! 荷物は受け取った! 任務完了!」
「さすが、早いですね」
「ななし氏はその、身だしなみを整えてから帰還してください! はい解散!」
「わ、わかりました」
ななしは困ったように笑いながら荷物の確認をする。
「行こっか、グリム」
「結局なんだったんだゾ?」
扉が閉まり、部屋は静けさを取り戻した。
◇
一人になったイデアは椅子へ深く沈み込む。
両手で顔を覆ったまま、大きく息を吐く。
「……もう無理」
熱くなった頬はまだ冷めない。
思い出そうとしなくても、さっき見た光景が勝手に浮かんでくる。
「お願いだから記憶までオートセーブしないで……」
頭を抱えてひとしきり悶絶したのち、現実逃避するように狂ったような速度でキーボードを叩き始める。
その夜、イデアの部屋からは雑音を掻き消すような激しい打鍵音とゲームの爆音だけが、深夜遅くまで響き渡っていた。
モニターを見つめたまま、イデアは大きくため息をつく。
「なにこれ呪い? 嫌がらせイベントか何か?」
画面を切り替えても改善する気配はなく、キーボードを叩く手もどこか荒っぽい。
そのとき、小さくノックの音が響いた。
「……イデア先輩、入りますね。学園長からの預かり物です」
「ひっ……ななし氏?」
返事を待って開いた扉から入ってきたのはななし。
その隣にはグリムが当たり前のようについてきていた。
「い、いらっしゃい……」
「おー、イデア! オレ様も来たんだゾ!」
「と、とりあえず荷物そこに置いといてくだされ」
「オメー、相変わらず暗いんだゾ」
「グリム氏、機材には触らないで。お願いだから」
グリムは口を尖らせながら部屋を見回す。
「イデア先輩、この部屋暑くないですか?」
「あー……」
イデアは思い出したように頭をかく。
「PCフル稼働させてたら排熱がすごくて、空調も追いついてないんだよね」
「オレ様、暑すぎて溶けちまいそうなんだゾ……」
「グリム氏には申し訳ないけど、ななし氏は暑いなら上着でも脱いで調整して」
「わかりました」
言われるがままに制服のジャケットを脱ぎ、首元のネクタイを少し緩めてほっと息をつく。
「たしかに暑いですね」
そう言って襟元のボタンをひとつ、ふたつと外していく。
「……っ!?」
イデアの視線が止まった。
開いた襟元から見えたのは、肌ではない。
胸元をしっかり押さえる厚手の布だった。
頭の中が一瞬真っ白になる。
ななしは男子生徒として過ごしている。
それなのに今見えたものは、その認識を揺さぶるには十分だった。
「イデア先輩?」
「ヒィ!」
「大丈夫ですか? 顔、真っ赤ですよ」
そう言いながら襟元をぱたぱたとあおぐ。
そのたびにシャツ越しの輪郭がわずかに動き、イデアは勢いよく椅子から身を引いた。
「ちょ、ちょっと待って! それ以上あおがないで!」
「え?」
「視覚情報が処理しきれないから!」
「処理……?」
「その、えっと……装備というか、防具というか……!」
「ああ、この下のですか?」
ななしは納得したように胸元へ手をやる。
「結構締めつけるんですよね。もう少し楽なのに替えようかなって」
「替えなくていい!」
思わず裏返った大声が出た。
「むしろ強化して! 完全防備でお願い!」
「完全防備ですか?」
「鉄壁レベルで!」
「そこまでします?」
首をかしげるななしに、イデアは必死に首を縦へ振る。
「拙者の精神が保たないので……!」
「先輩、今日は本当に変ですよ」
心配そうに近づいてくる。
その距離にイデアはさらに慌てた。
頭の中では警報が鳴りっぱなしだった。
「拙者がおかしいだけ!? もうわからん!」
イデアは勢いよくキーボードを叩き始め、早口でまくし立てる。
「よし! 荷物は受け取った! 任務完了!」
「さすが、早いですね」
「ななし氏はその、身だしなみを整えてから帰還してください! はい解散!」
「わ、わかりました」
ななしは困ったように笑いながら荷物の確認をする。
「行こっか、グリム」
「結局なんだったんだゾ?」
扉が閉まり、部屋は静けさを取り戻した。
◇
一人になったイデアは椅子へ深く沈み込む。
両手で顔を覆ったまま、大きく息を吐く。
「……もう無理」
熱くなった頬はまだ冷めない。
思い出そうとしなくても、さっき見た光景が勝手に浮かんでくる。
「お願いだから記憶までオートセーブしないで……」
頭を抱えてひとしきり悶絶したのち、現実逃避するように狂ったような速度でキーボードを叩き始める。
その夜、イデアの部屋からは雑音を掻き消すような激しい打鍵音とゲームの爆音だけが、深夜遅くまで響き渡っていた。
