ハーツラビュル
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「■■■ちゃん、このあと予定ある?」
「特にないですけど」
「ホント? じゃ、ちょっと付き合ってよ」
「どこか行くんですか?」
「買い物。新しい服見たくてさ」
「わたしとでいいんですか?」
「そこはほら。女の子の意見って大事じゃん?」
いつもの調子で笑うケイトを見て、頷いた。
「わかりました」
「やった」
その返事だけで、ケイトの顔がぱっと明るくなる。
「じゃ、行こっか」
歩き出したケイトは、少しだけ歩幅を狭くした。
隣に並んだ■■■をちらりと確認してから、何でもないように話しかける。
「最近どう? なんか忙しそうじゃん」
「忙しそうに見えますか?」
「うん。前より見かけなくなった気がする」
「そうですかね?」
「そうそう。オレ、結構探してるんだけど」
「何をですか?」
「……いや、なんでもない」
危うく本音が出そうになって、ケイトは笑って誤魔化した。
◇
店に入ってから、ケイトは何着も服を手に取った。
「これどう?」
「いいと思います」
「こっちは?」
「それも似合いそうです」
「じゃあ、これは?」
「ケイト先輩なら似合うと思います」
「……あのさ、」
「どうしました?」
「いや、■■■ちゃんってさ」
「はい?」
「なんで全部褒めてくれるの?」
「だって本当に似合うので」
「そっかー……」
褒めてもらえるのは嬉しい。
けれど、それ以上のものは何もない。
十分だと思いたいのに、最近はそれだけでは物足りなくなっている。
「じゃ、これとこれならどっちが好き?」
「こっちです」
「じゃあ、これ買お」
「そんな簡単に決めていいんですか?」
「だって、■■■ちゃんが選んでくれたし」
「わたしの意見で決めちゃっていいんですか?」
「いいんだよ」
本当は、■■■が選んだものを身につけたかった。
けれど、そんなことを言えば変に思われる気がして、ケイトは飲み込んだ。
「じゃ、次ね」
「まだ見るんですか?」
「もちろん。せっかく来たんだし」
もう十分に選んだはずなのに、ケイトは次の服へ手を伸ばした。
帰る理由が見つからない。
◇
買い物を終えて外に出る。
「今日はありがとね」
「いえ。わたしも楽しかったです」
「じゃあ、また行く?」
「いいですよ」
「……」
即答だった。
けれどケイトから誘わなければ、この約束は生まれない。
そう思うと、胸の奥が少しだけ重くなる。
「たまには■■■ちゃんから誘ってくれてもいいからね?」
冗談っぽく言ってみる。
「そうですね」
「……うん」
それだけだった。
「じゃ、また連絡するね」
「はい」
笑って手を振る。
離れていくのを見ながら、ケイトは小さく息を吐いた。
やはり自分ばっかりだ。
そう思った矢先にスマホが震え、画面を見ると■■■からの通知が表示されていた。
『今日はありがとうございました』
短いメッセージだった。
それだけなのに、緩みそうになる口元を抑えきれない。
「……単純すぎでしょ、オレ」
すぐに返信を打ち込む。
『こちらこそ! またよろしくね』
送信してすぐに画面を閉じたものの、少し経ってまた開いてしまう。
返信はまだない。
画面を閉じ、数分後にまた開く。
「……何やってんだろ」
◇
それから数日。
ケイトは授業の合間にも、スマホを確認していた。
新しい通知は来ていない。
マジカメを開けば、■■■が別の友人と話している投稿が目に入った。
楽しそうに笑っている。
「……いいなぁ」
何が「いい」のか、自分でもわからない。
自分がいないところで楽しそうにしているのが嫌なのか。
それとも、自分のことを考えている時間なんてないのだと思い知らされるのが嫌なのか。
スマホを閉じたところで、そんなことを気にしている自分が余計に嫌になった。
「ケイト先輩?」
「うわっ」
突然声をかけられ、ケイトは慌ててスマホを伏せた。
「何してるんですか?」
「ん? ちょっとスマホ見てただけ」
「そうですか」
「■■■ちゃんはどうしたの?」
「これから授業です」
「そっか」
もう少し話していたいのに、引き止める理由が見つからない。
「じゃ、頑張ってね」
「はい。ケイト先輩も」
■■■がその場を離れていく。
ケイトはその背中を数秒見送ると、小さく息をついた。
人の少ない廊下に残されると、先ほどまで隣にいたのが嘘みたいに感じられた。
◇
その日の帰り道。
ケイトは偶然を装って、■■■のいる方向へ足を向けた。
待っていたわけじゃないと自分に言い聞かせながら歩いていると、少し先に彼女を見つけた。
「あ、ケイト先輩」
「……■■■ちゃん」
「今帰りですか?」
「うん。■■■ちゃんも?」
「はい」
「じゃ、途中まで一緒に行く?」
「いいですよ」
あっさり頷かれて、ケイトは少し驚いた。
「……え、いいの?」
「どうかしました?」
「いや、なんでもない」
並んで歩く。
それだけなのに、さっきまでの寂しさが嘘みたいに軽くなる。
「この前買った服、着てみたんだけど」
「どうでした?」
「結構よかった」
「それならよかったです」
「■■■ちゃんが選んでくれたやつ」
「覚えてますよ」
「そっか」
その一言だけで、ケイトの口元が緩む。
自分でも呆れるくらい、簡単だった。
「……ねえ、また買い物付き合ってよ」
「いいですよ」
「……ほんと?」
「この前も言いましたよね」
「いや、そうなんだけど」
嬉しい。
けれどきっと、■■■にとってはただの先輩との買い物だ。
自分だけがその約束を何日も前から楽しみにしていて、少しでも長く一緒にいたくて理由を探している。
「ケイト先輩?」
「ん?」
「なんか嬉しそうですね」
「そりゃ嬉しいでしょ」
「そんなに買い物好きでしたっけ?」
「……買い物が好きっていうか」
そこまで言って、ケイトは止まった。
「……なんでもない」
「?」
ケイトは笑って誤魔化す。
本当は言いたい。
買い物がしたいんじゃない。
一緒にいたいだけだ。
けれど、そんなことを言ってしまったら、今みたいに隣を歩けなくなる気がした。
「次はどこ行こっか?」
それだけでいい。
今はまだ、それでいいと思うしかなかった。