サバナクロー
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サボり場所として定番になっている木陰で、横たわる男の影がわずかに動いた。
大きな身じろぎとともに、鬱陶しそうな溜息が低く零れ落ちる。
「……遅い」
木漏れ日を遮るように立ち尽くしていた少女を見上げもせず、レオナは低い声でそう呟いた。
普段の欠伸混じりの声とは明らかに違う、地を這うような重苦しさがそこにはある。
「すみません。課題が終わらなくて」
「言い訳ならいい」
「あの……機嫌悪いですか?」
理由を探るように顔を覗き込もうとした瞬間、急激に視界が回転した。
強引に腕を引かれ、地面の草の上に押し倒される。
重みを感じる間もなく、覆いかぶさってきた体躯が完全に光を遮った。
「わかってんなら機嫌取れよ」
短く吐き捨てられた言葉の意味を噛み締める余裕さえ与えられない。
重ねられた唇から、逃げ場のない熱が容赦なく流れ込んできた。
「ん……ッ!?」
すがるように差し伸ばした腕ごと体を抑え込まれ、ビクともしない。
唇を荒々しくこじ開け、深く滑り込んでくる舌が口内の柔らかい粘膜を逃さず撫で回す。
息を吸う間もなく喉の奥まで熱が入り込み、意識が白く霞んでいく。
少しだけ隙間が空いた瞬間に息を吐き出そうとしたが、それよりも早く、再び角度を変えて強く塞がれた。
「ん……ッ、れ、お……っ」
「喋る余裕があんなら、まだ足りねえな」
まるで獲物を逃がさない猛獣のようだった。
少しだけ引き結ばれた眉間がすぐ近くに見える。
熱を帯びた荒い息が肌を叩き、頭の芯を強烈に揺さぶった。
唾液の混じる淫らな音を隠そうともせず、何度も何度も息を整える間すら与えずに口付けが重ねられる。
酸欠で視界の端が明滅し始め、胸のあたりが苦しさで絞られる。
胸元を掴む手に力を込めるものの、ビクともしない圧倒的な体格差に押し返せるはずもない。
「は……っ、……レオ、ナさん……ッ」
ようやく唇が離れたときには顎をつたう涎を拭う余裕もなく、肩を大きく上下させて呼吸を拾うのが精一杯だった。
肺が激しく酸素を求め、熱を持った喉の奥がヒリヒリと痛む。
しかしレオナは首筋あたりに顔を埋めるように近づけ、深く息を吸い込むと、さらに不機嫌そうに目を細めた。
「……知らねえ奴のニオイがついてる」
「え……?」
「知らねえ奴のニオイが混ざってんだよ」
低く削り取るような言葉にハッと合点がいった。
先ほど混み合う廊下を通り抜ける際、見知らぬ生徒と肩が触れそうになるほどすれ違ったときのことだろうか。
自分では気づきもしないような僅かな痕跡を、レオナは見逃さなかったらしい。
「それは……さっき廊下ですれ違っただけです……」
「理由なんか聞いてねえよ」
「……っ」
「他の奴のニオイを纏って目の前に立ってんのが気に喰わねぇ」
言い終わるか終わらないかのうちに、三度目の口付けが降ってきた。
先ほどよりも激しく深く、他人の痕跡などすべて塗り潰す勢いで貪られる。
「ん……――ッ」
呼吸を忘れた胸が悲鳴をあげる。
酸素を求めて開いた口内へ容赦なく舌が滑り込む。
舌を根元から絡め取られて逃げ道を潰される。
熱い粘膜が擦れ合うたびに体に力が入らなくなり、背筋を熱い痺れが駆け抜けていく。
息を吸うために口を開けばそこを侵食され、引き剥がそうと動く頭は後頭部をガッチリと固定されて動かせない。
苦しさと圧倒的な熱量に目元が熱くなり、溢れた涙が頬を伝って耳元へ落ちた。
「……ぁっ……いき、が……っ」
荒い息を吐き出しながら必死に乞うと、レオナは濡れた唇をわずかに離し、頬に伝う涙を親指で撫でるように拭った。
「自業自得だろ」
「……理不尽です…っ」
「で? お前は誰のものだ?」
「……っ」
呆れを含んだ、けれどどこかギラついた熱を帯びた声が耳元を打つ。
レオナは顔を近づけ濡れた唇を滑らせるようにして耳たぶを甘噛みした。
「まだ全然消えてねぇな」
「レオナ、さん……んッ」
言いかける口内へ、再び容赦のない熱がねじ込まれた。
舌先で上顎を押し撫でられ、息を吸う隙間すら一切与えられない。
他人の痕跡を微塵も許さないような口付けに、全身の力を完全に奪われ、ただその熱に身を委ねるしかなくなっていた。
◇
どれほどの時間が経ったのだろうか。
何度も呼吸を奪われ続け、ドロドロに溶かされた体が横たわっている。
レオナは満足したのか、その隣に身を投げ出していた。
「……ハァ、ハァ……っ」
掠れた呼吸を繰り返しながら、隣の男の横顔を盗み見る。
先ほどまでの尖った不機嫌さは幾分か削ぎ落とされたようにも見えるが、紅潮した頬と乱れた息遣いが、まだ熱が冷めきっていないことを物語っていた。
「何見てんだ」
「……ひどいです」
「俺がいながら、勝手に他のオスのニオイつけて来るのが悪い」
「横暴すぎます」
横を向いたままレオナが腕を回してきた。
ズシリとした重みが胸元にかかり、そのまま逃さないように強く引き寄せられる。
「……苦しいです、レオナさん」
「お前は黙って俺の傍にいろ」
乱暴な言葉とは裏腹に、抱きすくめる腕の力加減にはどこか優しさがあった。
「次はこの程度じゃ済まねぇからな」
耳元で低く囁かれた脅し文句は、本気なのか冗談なのか判別がつかない。
呼吸を整えながら、すっかり冷めきった風が通り抜けていくのを感じる。
深く息を吸い込むと、まだ口内に残る熱と痺れが夢ではないことを嫌というほど物語っていた。
「でもここ男子校ですよ?」
「知るか。言い訳するな」
「……理不尽すぎます」
「また口を塞がれてぇのか?」
つまらなさそうに吐き捨てながらも、引き寄せた腕が離されることはなかった。
腕の中で静かに繰り返される互いの熱い呼吸だけが、静寂の中に溶けていく。
大きな身じろぎとともに、鬱陶しそうな溜息が低く零れ落ちる。
「……遅い」
木漏れ日を遮るように立ち尽くしていた少女を見上げもせず、レオナは低い声でそう呟いた。
普段の欠伸混じりの声とは明らかに違う、地を這うような重苦しさがそこにはある。
「すみません。課題が終わらなくて」
「言い訳ならいい」
「あの……機嫌悪いですか?」
理由を探るように顔を覗き込もうとした瞬間、急激に視界が回転した。
強引に腕を引かれ、地面の草の上に押し倒される。
重みを感じる間もなく、覆いかぶさってきた体躯が完全に光を遮った。
「わかってんなら機嫌取れよ」
短く吐き捨てられた言葉の意味を噛み締める余裕さえ与えられない。
重ねられた唇から、逃げ場のない熱が容赦なく流れ込んできた。
「ん……ッ!?」
すがるように差し伸ばした腕ごと体を抑え込まれ、ビクともしない。
唇を荒々しくこじ開け、深く滑り込んでくる舌が口内の柔らかい粘膜を逃さず撫で回す。
息を吸う間もなく喉の奥まで熱が入り込み、意識が白く霞んでいく。
少しだけ隙間が空いた瞬間に息を吐き出そうとしたが、それよりも早く、再び角度を変えて強く塞がれた。
「ん……ッ、れ、お……っ」
「喋る余裕があんなら、まだ足りねえな」
まるで獲物を逃がさない猛獣のようだった。
少しだけ引き結ばれた眉間がすぐ近くに見える。
熱を帯びた荒い息が肌を叩き、頭の芯を強烈に揺さぶった。
唾液の混じる淫らな音を隠そうともせず、何度も何度も息を整える間すら与えずに口付けが重ねられる。
酸欠で視界の端が明滅し始め、胸のあたりが苦しさで絞られる。
胸元を掴む手に力を込めるものの、ビクともしない圧倒的な体格差に押し返せるはずもない。
「は……っ、……レオ、ナさん……ッ」
ようやく唇が離れたときには顎をつたう涎を拭う余裕もなく、肩を大きく上下させて呼吸を拾うのが精一杯だった。
肺が激しく酸素を求め、熱を持った喉の奥がヒリヒリと痛む。
しかしレオナは首筋あたりに顔を埋めるように近づけ、深く息を吸い込むと、さらに不機嫌そうに目を細めた。
「……知らねえ奴のニオイがついてる」
「え……?」
「知らねえ奴のニオイが混ざってんだよ」
低く削り取るような言葉にハッと合点がいった。
先ほど混み合う廊下を通り抜ける際、見知らぬ生徒と肩が触れそうになるほどすれ違ったときのことだろうか。
自分では気づきもしないような僅かな痕跡を、レオナは見逃さなかったらしい。
「それは……さっき廊下ですれ違っただけです……」
「理由なんか聞いてねえよ」
「……っ」
「他の奴のニオイを纏って目の前に立ってんのが気に喰わねぇ」
言い終わるか終わらないかのうちに、三度目の口付けが降ってきた。
先ほどよりも激しく深く、他人の痕跡などすべて塗り潰す勢いで貪られる。
「ん……――ッ」
呼吸を忘れた胸が悲鳴をあげる。
酸素を求めて開いた口内へ容赦なく舌が滑り込む。
舌を根元から絡め取られて逃げ道を潰される。
熱い粘膜が擦れ合うたびに体に力が入らなくなり、背筋を熱い痺れが駆け抜けていく。
息を吸うために口を開けばそこを侵食され、引き剥がそうと動く頭は後頭部をガッチリと固定されて動かせない。
苦しさと圧倒的な熱量に目元が熱くなり、溢れた涙が頬を伝って耳元へ落ちた。
「……ぁっ……いき、が……っ」
荒い息を吐き出しながら必死に乞うと、レオナは濡れた唇をわずかに離し、頬に伝う涙を親指で撫でるように拭った。
「自業自得だろ」
「……理不尽です…っ」
「で? お前は誰のものだ?」
「……っ」
呆れを含んだ、けれどどこかギラついた熱を帯びた声が耳元を打つ。
レオナは顔を近づけ濡れた唇を滑らせるようにして耳たぶを甘噛みした。
「まだ全然消えてねぇな」
「レオナ、さん……んッ」
言いかける口内へ、再び容赦のない熱がねじ込まれた。
舌先で上顎を押し撫でられ、息を吸う隙間すら一切与えられない。
他人の痕跡を微塵も許さないような口付けに、全身の力を完全に奪われ、ただその熱に身を委ねるしかなくなっていた。
◇
どれほどの時間が経ったのだろうか。
何度も呼吸を奪われ続け、ドロドロに溶かされた体が横たわっている。
レオナは満足したのか、その隣に身を投げ出していた。
「……ハァ、ハァ……っ」
掠れた呼吸を繰り返しながら、隣の男の横顔を盗み見る。
先ほどまでの尖った不機嫌さは幾分か削ぎ落とされたようにも見えるが、紅潮した頬と乱れた息遣いが、まだ熱が冷めきっていないことを物語っていた。
「何見てんだ」
「……ひどいです」
「俺がいながら、勝手に他のオスのニオイつけて来るのが悪い」
「横暴すぎます」
横を向いたままレオナが腕を回してきた。
ズシリとした重みが胸元にかかり、そのまま逃さないように強く引き寄せられる。
「……苦しいです、レオナさん」
「お前は黙って俺の傍にいろ」
乱暴な言葉とは裏腹に、抱きすくめる腕の力加減にはどこか優しさがあった。
「次はこの程度じゃ済まねぇからな」
耳元で低く囁かれた脅し文句は、本気なのか冗談なのか判別がつかない。
呼吸を整えながら、すっかり冷めきった風が通り抜けていくのを感じる。
深く息を吸い込むと、まだ口内に残る熱と痺れが夢ではないことを嫌というほど物語っていた。
「でもここ男子校ですよ?」
「知るか。言い訳するな」
「……理不尽すぎます」
「また口を塞がれてぇのか?」
つまらなさそうに吐き捨てながらも、引き寄せた腕が離されることはなかった。
腕の中で静かに繰り返される互いの熱い呼吸だけが、静寂の中に溶けていく。
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