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「先輩、何かいいことでもありましたか?」
「そう見えますか?」
「はい、なんとなく」
「それなら、理由は簡単です」
「?」
「こうして貴方に会えましたから」
「……急にそういうこと言うんですね」
「本心ですよ」
さらりと言われると返事に困る。
照れ隠しに視線を逸らすと、くすりと笑う声が耳へ届いた。
「可愛らしい反応ですね」
「からかわないでください」
「からかっているつもりはありません」
そう言いながらも、ジェイドはどこか楽しそうだ。
「ところで……」
ジェイドが少しだけ身を屈める。
距離が近づき、ななしは思わず息を止めた。
「今日は逃げないんですね」
「逃げませんよ」
「それは本当でしょうか?」
「……本当です」
そう答えた途端、ジェイドの指先が頬へ伸びる。
髪をそっと耳へ掛けるだけの穏やかな仕草。
それなのに胸の鼓動ばかりが忙しくなる。
「緊張していますか?」
「……少しだけ」
「そうですか」
「ジェイド先輩?」
「ふふっ、安心してください」
ジェイドの穏やかな声が静かに響いた。
「僕も少し緊張していますから」
「絶対嘘です」
「どうしてそう思われるのですか?」
「だって、全然そうは見えません」
「それは、貴方に見せないようにしているだけですよ」
微笑みながら言われると、どこまで本当なのかわからない。
「しかし、困りました」
「何がですか?」
「貴方に信じてもらえないことです」
「普段の行いのせいじゃないですか?」
「それは反省した方がいいのでしょうか?」
「少しだけ」
「そうですか。善処します」
言葉を返すたび、ななしの頬がゆるむ。
笑った瞬間、ジェイドがもう一歩近づく。
「ななしさん」
「なんですか?」
「少し目を閉じてもらえますか?」
意味を察した途端、胸が跳ねた。
「……はい」
ゆっくりと瞼を閉じると静かな時間が流れる。
近くに気配はあるのに、いつまで待っても何も起こらなかった。
「……ジェイド先輩?」
薄く目を開くと、すぐ目の前でジェイドがこちらを見ていた。
あと少しで触れそうな距離。
「ふふっ」
「……笑いましたね」
「ええ」
「今、わざとですよね」
「何のことでしょう?」
「とぼけないでください」
頬を膨らませると、ジェイドの肩が小さく揺れた。
「その表情が見たかったんです」
「もう……」
「拗ねていますか?」
「はい」
即答すると、ジェイドは満足そうに目を細めた。
「期待して待っているななしさんが、とても可愛らしかったもので」
「ひどいです」
「失礼しました」
謝っている口調なのに、少しも困っていない。
「全然反省してませんよね?」
「見抜かれてしまいましたか」
「だって、顔が笑ってます」
「では、次は真面目にしましょう」
そう言って再び距離を詰める。
今度こそだと思い、ななしはそっと目を閉じた。
けれど――
「……」
また何も起こらない。
恐る恐る目を開くと、ジェイドは口元を押さえて笑いを堪えていた。
「ジェイド先輩!」
「失礼しました」
「二回もですか」
「つい」
「ひどい!」
少しだけ背伸びをして抗議すると、ジェイドは珍しく困ったような笑みを浮かべた。
「怒らせてしまいましたか」
「怒ってます」
「それは困りました」
「本当に困ってます?」
「ええ」
そう答えるものの、その声にはまだ笑みが混じっている。
「もう知りません」
顔を背けようとした瞬間だった。
手首を軽く引かれ、視線が重なる。
「今度は待たせません」
先ほどまでの軽い調子は消えていた。
ななしが見上げると、ジェイドは穏やかに微笑む。
「こちらを向いてください」
小さく頷くと、ゆっくりと近づいた唇がそっと重なった。
触れるだけの短い口づけ。
離れたあとも距離は近いままで、ななしは思わず笑ってしまう。
「やっと、してくれましたね」
「ええ」
ジェイドもつられるように笑った。
「少し意地悪が過ぎました」
「ちゃんと自覚はあるんですね」
「ええ、もちろん」
「だったら最初からしてくれたらいいのに」
「しかし、それでは面白くありませんから」
「またそういうこと言う」
「申し訳ありません」
ジェイドは少しだけ肩をすくめる。
その言葉にななしは照れくさそうに笑う。
「じゃあ、今回は許します」
「感謝いたします」
「でも次は焦らさないでくださいね」
「……善処します」
「本当、信用ならない」
二人で顔を見合わせ、笑い声が重なった。
「そう見えますか?」
「はい、なんとなく」
「それなら、理由は簡単です」
「?」
「こうして貴方に会えましたから」
「……急にそういうこと言うんですね」
「本心ですよ」
さらりと言われると返事に困る。
照れ隠しに視線を逸らすと、くすりと笑う声が耳へ届いた。
「可愛らしい反応ですね」
「からかわないでください」
「からかっているつもりはありません」
そう言いながらも、ジェイドはどこか楽しそうだ。
「ところで……」
ジェイドが少しだけ身を屈める。
距離が近づき、ななしは思わず息を止めた。
「今日は逃げないんですね」
「逃げませんよ」
「それは本当でしょうか?」
「……本当です」
そう答えた途端、ジェイドの指先が頬へ伸びる。
髪をそっと耳へ掛けるだけの穏やかな仕草。
それなのに胸の鼓動ばかりが忙しくなる。
「緊張していますか?」
「……少しだけ」
「そうですか」
「ジェイド先輩?」
「ふふっ、安心してください」
ジェイドの穏やかな声が静かに響いた。
「僕も少し緊張していますから」
「絶対嘘です」
「どうしてそう思われるのですか?」
「だって、全然そうは見えません」
「それは、貴方に見せないようにしているだけですよ」
微笑みながら言われると、どこまで本当なのかわからない。
「しかし、困りました」
「何がですか?」
「貴方に信じてもらえないことです」
「普段の行いのせいじゃないですか?」
「それは反省した方がいいのでしょうか?」
「少しだけ」
「そうですか。善処します」
言葉を返すたび、ななしの頬がゆるむ。
笑った瞬間、ジェイドがもう一歩近づく。
「ななしさん」
「なんですか?」
「少し目を閉じてもらえますか?」
意味を察した途端、胸が跳ねた。
「……はい」
ゆっくりと瞼を閉じると静かな時間が流れる。
近くに気配はあるのに、いつまで待っても何も起こらなかった。
「……ジェイド先輩?」
薄く目を開くと、すぐ目の前でジェイドがこちらを見ていた。
あと少しで触れそうな距離。
「ふふっ」
「……笑いましたね」
「ええ」
「今、わざとですよね」
「何のことでしょう?」
「とぼけないでください」
頬を膨らませると、ジェイドの肩が小さく揺れた。
「その表情が見たかったんです」
「もう……」
「拗ねていますか?」
「はい」
即答すると、ジェイドは満足そうに目を細めた。
「期待して待っているななしさんが、とても可愛らしかったもので」
「ひどいです」
「失礼しました」
謝っている口調なのに、少しも困っていない。
「全然反省してませんよね?」
「見抜かれてしまいましたか」
「だって、顔が笑ってます」
「では、次は真面目にしましょう」
そう言って再び距離を詰める。
今度こそだと思い、ななしはそっと目を閉じた。
けれど――
「……」
また何も起こらない。
恐る恐る目を開くと、ジェイドは口元を押さえて笑いを堪えていた。
「ジェイド先輩!」
「失礼しました」
「二回もですか」
「つい」
「ひどい!」
少しだけ背伸びをして抗議すると、ジェイドは珍しく困ったような笑みを浮かべた。
「怒らせてしまいましたか」
「怒ってます」
「それは困りました」
「本当に困ってます?」
「ええ」
そう答えるものの、その声にはまだ笑みが混じっている。
「もう知りません」
顔を背けようとした瞬間だった。
手首を軽く引かれ、視線が重なる。
「今度は待たせません」
先ほどまでの軽い調子は消えていた。
ななしが見上げると、ジェイドは穏やかに微笑む。
「こちらを向いてください」
小さく頷くと、ゆっくりと近づいた唇がそっと重なった。
触れるだけの短い口づけ。
離れたあとも距離は近いままで、ななしは思わず笑ってしまう。
「やっと、してくれましたね」
「ええ」
ジェイドもつられるように笑った。
「少し意地悪が過ぎました」
「ちゃんと自覚はあるんですね」
「ええ、もちろん」
「だったら最初からしてくれたらいいのに」
「しかし、それでは面白くありませんから」
「またそういうこと言う」
「申し訳ありません」
ジェイドは少しだけ肩をすくめる。
その言葉にななしは照れくさそうに笑う。
「じゃあ、今回は許します」
「感謝いたします」
「でも次は焦らさないでくださいね」
「……善処します」
「本当、信用ならない」
二人で顔を見合わせ、笑い声が重なった。
