ディアソムニア
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昼下がりの穏やかな空気が漂う中、ふと横に立っていたセベクの制服の裾をつまんだ。
廊下から差し込む光が制服の金ボタンに反射していて、なんとなくその硬質な輝きを見つめているうちに、からかい半分の言葉が口をついて出てしまう。
軽はずみに呟いたのは本当にただの気まぐれだった。
「ねえセベク、ちょっとハグしてよ」
「は?」
低く掠れた声が返ってくると同時に、セベクの鋭い双眸がわずかに見開かれる。
セベクは一瞬だけ眉根を寄せ、それから何か重大な軍令にでも直面したかのような真剣な面持ちへと切り替わる。
その変化があまりにも急で、思わず言葉を飲み込んだ。
「……本気だな、貴様」
「えっ、ちょっ、まっ……」
説明する暇すら与えてもらえない。
セベクが踏み込んできた足音は硬く、逃げ場を塞ぐように大きな身体が覆いかぶさる。
戸惑う間もなく、背中に回された腕がガッチリと固定された。
力加減というものを完全に無視したその抱擁は、まるで暴れる大獣をねじ伏せるような、一切の容赦がない全力そのものだった。
「ぐっ、苦し……!」
「貴様、動くな!」
「待って、セベク!」
「そのような願いを口にするからには、相応の覚悟ができていたのだろう!」
「待って、冗談だから! 冗談だってば!」
「冗談だと? ふざけるな、発した言葉に責任を持て! 僕に求めただろう、ならばこれくらい当然だ!」
骨がミシミシと鳴るような圧迫感に息が詰まる。
人間の身体をどう思っているのかと突っ込みたくなるほどの頑丈な腕は、鋼鉄の鎖のようにほどける気配すらない。
至近距離で見下ろしてくる整った顔立ちは微塵も冗談を疑っておらず、ただひたすらに真面目な義務感と謎の熱意に満ちあふれていた。
「いや、本当に死ぬから! ちょっと力緩めてセベク!」
「ふん、軟弱だな! これで苦しいなどと言っていたのでは、いつか僕の背中を預けることなど到底できんぞ!」
「背中預ける予定ないんだけど!?」
「何を言う! 日頃から同じ学園で切磋琢磨する仲なのだ、いざという時の連携は不可欠だろう!」
話が変な方向へ猛スピードで転がり始めていく。
抱きしめられているというよりも、もはやプロレスの固め技をかけられているに近い状態のまま、必死にセベクの胸板を押し返した。
しかし鍛え上げられた筋肉はびくともせず、逆にその硬さに自分の手が痛むという本末転倒な事態に陥る。
「だいたい、急にそんなことを言い出すなんて何か理由があるのだろう?」
「ないってば! 本当になんとなく言っただけ!」
「なんとなく、だと……?」
セベクの動きがピタリと止まる。
耳元で聞こえていた荒い息遣いが静まり、不審そうな沈黙が落ちた。
上を向けば、納得がいかないと言わんばかりの不機嫌そうな顔がすぐ目の前にある。
「なんだ、僕をからかったのか」
「……その、セベクの面白そうな反応見れると思ったから……」
「き、貴様……」
「そんな怖い顔しないでよ」
「ふざけるな! 僕は大真面目に貴様の要求を受け止めようとしたのだぞ!」
抗議の声を上げながらも、セベクは徐々に腕の力を緩めてくれた。
ようやく肺に新鮮な空気が戻ってきて、その場に崩れ落ちそうになるのを必死に踏みとどまる。
解放された身体をさすりながら睨み返すと、セベクはフンと盛大に鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「二度とそのような軽口を叩くな」
「ごめんなさい」
「……まあ、いい。次からはもっと言葉を選べ」
「はぁい、わかりました」
「真面目に返事をしろ!」
呆れたように言い捨てたセベクは不機嫌そうに腕を組み、そのまま顔を背けた。
けれど、その耳たぶはなぜか少しだけ赤い。
「……セベク、もしかして照れてる?」
「は!? な、何を言っている!」
「耳、赤いよ」
「僕が貴様ごときに動揺するはずがないだろう!」
勢いよく振り返ったセベクは、さっきまで以上に声を張り上げた。
しかし、こちらを見ようとしない。
「じゃあ、もうハグは嫌?」
「……嫌とは、言っていない」
思わず瞬きをすると、セベクは気まずそうに眉を寄せた。
「ただし、次にするなら……」
「次にするなら?」
「……もう少し加減してやる」
小さく付け加えられた言葉に、今度はからかう気持ちが少しだけ引っ込んだ。
「じゃあ、次は真面目にお願いしようかな」
「……好きにしろ」
ぶっきらぼうに答えたセベクの耳は、まだ赤いままだった。
廊下から差し込む光が制服の金ボタンに反射していて、なんとなくその硬質な輝きを見つめているうちに、からかい半分の言葉が口をついて出てしまう。
軽はずみに呟いたのは本当にただの気まぐれだった。
「ねえセベク、ちょっとハグしてよ」
「は?」
低く掠れた声が返ってくると同時に、セベクの鋭い双眸がわずかに見開かれる。
セベクは一瞬だけ眉根を寄せ、それから何か重大な軍令にでも直面したかのような真剣な面持ちへと切り替わる。
その変化があまりにも急で、思わず言葉を飲み込んだ。
「……本気だな、貴様」
「えっ、ちょっ、まっ……」
説明する暇すら与えてもらえない。
セベクが踏み込んできた足音は硬く、逃げ場を塞ぐように大きな身体が覆いかぶさる。
戸惑う間もなく、背中に回された腕がガッチリと固定された。
力加減というものを完全に無視したその抱擁は、まるで暴れる大獣をねじ伏せるような、一切の容赦がない全力そのものだった。
「ぐっ、苦し……!」
「貴様、動くな!」
「待って、セベク!」
「そのような願いを口にするからには、相応の覚悟ができていたのだろう!」
「待って、冗談だから! 冗談だってば!」
「冗談だと? ふざけるな、発した言葉に責任を持て! 僕に求めただろう、ならばこれくらい当然だ!」
骨がミシミシと鳴るような圧迫感に息が詰まる。
人間の身体をどう思っているのかと突っ込みたくなるほどの頑丈な腕は、鋼鉄の鎖のようにほどける気配すらない。
至近距離で見下ろしてくる整った顔立ちは微塵も冗談を疑っておらず、ただひたすらに真面目な義務感と謎の熱意に満ちあふれていた。
「いや、本当に死ぬから! ちょっと力緩めてセベク!」
「ふん、軟弱だな! これで苦しいなどと言っていたのでは、いつか僕の背中を預けることなど到底できんぞ!」
「背中預ける予定ないんだけど!?」
「何を言う! 日頃から同じ学園で切磋琢磨する仲なのだ、いざという時の連携は不可欠だろう!」
話が変な方向へ猛スピードで転がり始めていく。
抱きしめられているというよりも、もはやプロレスの固め技をかけられているに近い状態のまま、必死にセベクの胸板を押し返した。
しかし鍛え上げられた筋肉はびくともせず、逆にその硬さに自分の手が痛むという本末転倒な事態に陥る。
「だいたい、急にそんなことを言い出すなんて何か理由があるのだろう?」
「ないってば! 本当になんとなく言っただけ!」
「なんとなく、だと……?」
セベクの動きがピタリと止まる。
耳元で聞こえていた荒い息遣いが静まり、不審そうな沈黙が落ちた。
上を向けば、納得がいかないと言わんばかりの不機嫌そうな顔がすぐ目の前にある。
「なんだ、僕をからかったのか」
「……その、セベクの面白そうな反応見れると思ったから……」
「き、貴様……」
「そんな怖い顔しないでよ」
「ふざけるな! 僕は大真面目に貴様の要求を受け止めようとしたのだぞ!」
抗議の声を上げながらも、セベクは徐々に腕の力を緩めてくれた。
ようやく肺に新鮮な空気が戻ってきて、その場に崩れ落ちそうになるのを必死に踏みとどまる。
解放された身体をさすりながら睨み返すと、セベクはフンと盛大に鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「二度とそのような軽口を叩くな」
「ごめんなさい」
「……まあ、いい。次からはもっと言葉を選べ」
「はぁい、わかりました」
「真面目に返事をしろ!」
呆れたように言い捨てたセベクは不機嫌そうに腕を組み、そのまま顔を背けた。
けれど、その耳たぶはなぜか少しだけ赤い。
「……セベク、もしかして照れてる?」
「は!? な、何を言っている!」
「耳、赤いよ」
「僕が貴様ごときに動揺するはずがないだろう!」
勢いよく振り返ったセベクは、さっきまで以上に声を張り上げた。
しかし、こちらを見ようとしない。
「じゃあ、もうハグは嫌?」
「……嫌とは、言っていない」
思わず瞬きをすると、セベクは気まずそうに眉を寄せた。
「ただし、次にするなら……」
「次にするなら?」
「……もう少し加減してやる」
小さく付け加えられた言葉に、今度はからかう気持ちが少しだけ引っ込んだ。
「じゃあ、次は真面目にお願いしようかな」
「……好きにしろ」
ぶっきらぼうに答えたセベクの耳は、まだ赤いままだった。
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