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薄暗い室内には、雨音の代わりに小さな水滴の弾ける音が響いていた。
ガラス越しに見える水中の揺らぎが、室内の床にぼんやりとした模様を落としている。
ななしは膝の上に置いた自分の手をきゅっと握りしめた。
目の前には、いつもの穏やかな笑みをたたえたジェイドが立っている。
けれど、その微笑みの奥にある温度はいつもと明らかに違っていた。
「……ジェイド先輩?」
呼びかける声がわずかに震えた。
ジェイドは何も答えず、ただ静かに一歩を踏み出す。
その足取りには迷いがなく、追い詰められたななしの背中はすぐに壁へと突き当たった。
「なぜ逃げようとするのですか、ななしさん」
低く静かな声が耳元に降ってくる。
ジェイドの手が伸ばされ、逃げ道を塞ぐように壁に突かれた。
「逃げるだなんて……ただ、ちょっと」
「僕から距離を置きたくなりましたか?」
「違います! ただ、今日のジェイド先輩……なんだか怖くて」
「怖い、ですか」
ジェイドの唇が薄く弧を描く。
だが目元には一切の笑みがなかった。
長い指先がななしの顎に触れ、少し強めの力で上を向かされる。
逃げ場を失った視線が真っ直ぐにぶつかり合った。
「怖がらせているのなら謝罪します。ですが、僕の問いに答えていただかないことには、離す気にもなれませんね」
「問い……って、さっきの?」
「ええ。昼間、何を話していたのですか」
「クラスメイトに課題のノートを貸してほしいって言われただけで……」
「やましいことは何もないと?」
「本当になんでもないんです」
「そうですか。ただの課題の貸し借り」
「……はい」
ジェイドの指先が顎から頬へと滑り、そのまま耳たぶを強く摘まんだ。
強い刺激にななしが小さく声を上げる。
「ですが、僕以外の誰かにそんな顔を見せる必要はありません」
言葉が終わるか終わらないかのうちに、ジェイドの顔が覆いかぶさってきた。
重なる唇は容赦がなく、ななしの小さな悲鳴ごと口内に押し込まれる。
噛みつくような強さで唇を奪われ、息を吸う隙すら与えられない。
ジェイドの舌がすんなりと割り込み、口腔内をくまなく探り回る。
「んっ…………!」
苦しさに胸を叩こうとしても、両手をまとめて片手で押さえつけられ、頭上の壁に固定された。
腕を固く縛られ、身動きが取れない。
何度も角度を変えながら深く、深く貪るようなキスが続く。
「ん……ッ……」
唇が離れたのは、呼吸が限界に達して膝が砕けそうになった瞬間だった。
銀の糸が二人の間をつなぎ、ぽたりと床に落ちる。
ななしは荒い息を吐き出しながら、肩を激しく上下させた。
「はぁ、ぁ……ッ……」
「……足りませんか? まだまだお返しできていませんよ」
「なに、を……っ」
「僕を不安にさせた分の、お返しです」
ジェイドの目元に暗い情念が宿っていた。
そのまま再び唇が重なり、舌が絡み合うたびに不躾な水音が密室に響く。
溢れた唾液が顎を伝い、首筋へと滴り落ちていくのをジェイドは気に留める素振りも見せない。
むしろそれを楽しむかのように、さらに深く強く吸い上げた。
「んぁ……ッ! ……息が……っ」
「ダメです。まだ許しません」
隙間から漏れ出る言葉すらも、すぐに次のキスで塗り潰される。
唇と唇が擦れる音と、激しい水音だけが支配する空間で、ななしの意識は真っ白に染まっていった。
◇
どれほどの時間が経ったのだろうか。
ようやく腕の拘束が解かれた時、ななしはその場に崩れ落ちそうになった。
それを支えたのは、ジェイドの強い腕だった。
ななしの口元は自分のものと相手のものが混ざり合った唾液で濡れ、顎から首元まで筋を作って光っている。
胸元も乱れ、何度も吸われた唇は赤く腫れあがっていた。
「……っ」
荒い呼吸を繰り返すななしの頭を、ジェイドはやさしく抱きかかえる。
先ほどまでの乱暴さが嘘のように、丁寧な手つきで髪を撫で下ろした。
「酷い顔ですね、ななしさん」
そう言うジェイド自身の口元も、濡れた跡がくっきりと残っている。
けれどその表情には、どこか満たされたような狂気を含んだ満足感が漂っていた。
「だれ、の……せいで……っ」
「こうでもしないと貴方は僕だけを見ようとしてくれないでしょう?」
「そんなこと……、わたしは、ジェイド先輩のこと……」
「僕は欲張りですから、言葉だけでは信用できません」
「だからって……」
「貴方の視線も、吐息も、声も、すべて僕のもので満たしたい」
ジェイドの指先が、ななしの濡れた顎をぬぐった。
そしてその指を自分の唇へと運び、小さく舌を覗かせて舐めとる。
その仕草があまりにも妖艶で、ななしはゾクりと背筋を凍らせた。
「……まだ、足りませんね」
「え……っ、あ……」
「もう一度、いいですね?」
拒否の言葉を紡ぐ間もなく再び視界が塞がれた。
重ねられた唇から侵入してくる温度に、もう抗う力は残っていない。
舌が絡み合い、何度も深く吸い上げられるたびに、体が内側から溶けていくような感覚に襲われる。
溢れ出る唾液が二人の隙間からこぼれ落ち、胸元を濡らしていく。
「んっ……ふぁ、ぁ……っ」
「もっと僕にすべてを委ねてください」
囁く声さえ、次第に頭の奥でぼやけていった。
「ジェイド……先輩……っ」
無意識に漏れた呼び名に、ジェイドの動きが一瞬止まった。
直後、今まで以上の力で引き寄せられ、骨が軋むほどの抱擁とともに唇を塞がれる。
「……狡い人だ。そんな声を出されたら、本当に壊したくなってしまう」
途切れ途切れの会話も、次第に水音の中に没していく。
逃げ場のない腕の中で、ななしはただジェイドから与えられる過剰なほどの熱と過激な愛を受け止め続けるしかなかった。
揺れる水底のような部屋の中で、二人の荒い息遣いと湿った水音だけがいつまでも重なり続けていた。
ガラス越しに見える水中の揺らぎが、室内の床にぼんやりとした模様を落としている。
ななしは膝の上に置いた自分の手をきゅっと握りしめた。
目の前には、いつもの穏やかな笑みをたたえたジェイドが立っている。
けれど、その微笑みの奥にある温度はいつもと明らかに違っていた。
「……ジェイド先輩?」
呼びかける声がわずかに震えた。
ジェイドは何も答えず、ただ静かに一歩を踏み出す。
その足取りには迷いがなく、追い詰められたななしの背中はすぐに壁へと突き当たった。
「なぜ逃げようとするのですか、ななしさん」
低く静かな声が耳元に降ってくる。
ジェイドの手が伸ばされ、逃げ道を塞ぐように壁に突かれた。
「逃げるだなんて……ただ、ちょっと」
「僕から距離を置きたくなりましたか?」
「違います! ただ、今日のジェイド先輩……なんだか怖くて」
「怖い、ですか」
ジェイドの唇が薄く弧を描く。
だが目元には一切の笑みがなかった。
長い指先がななしの顎に触れ、少し強めの力で上を向かされる。
逃げ場を失った視線が真っ直ぐにぶつかり合った。
「怖がらせているのなら謝罪します。ですが、僕の問いに答えていただかないことには、離す気にもなれませんね」
「問い……って、さっきの?」
「ええ。昼間、何を話していたのですか」
「クラスメイトに課題のノートを貸してほしいって言われただけで……」
「やましいことは何もないと?」
「本当になんでもないんです」
「そうですか。ただの課題の貸し借り」
「……はい」
ジェイドの指先が顎から頬へと滑り、そのまま耳たぶを強く摘まんだ。
強い刺激にななしが小さく声を上げる。
「ですが、僕以外の誰かにそんな顔を見せる必要はありません」
言葉が終わるか終わらないかのうちに、ジェイドの顔が覆いかぶさってきた。
重なる唇は容赦がなく、ななしの小さな悲鳴ごと口内に押し込まれる。
噛みつくような強さで唇を奪われ、息を吸う隙すら与えられない。
ジェイドの舌がすんなりと割り込み、口腔内をくまなく探り回る。
「んっ…………!」
苦しさに胸を叩こうとしても、両手をまとめて片手で押さえつけられ、頭上の壁に固定された。
腕を固く縛られ、身動きが取れない。
何度も角度を変えながら深く、深く貪るようなキスが続く。
「ん……ッ……」
唇が離れたのは、呼吸が限界に達して膝が砕けそうになった瞬間だった。
銀の糸が二人の間をつなぎ、ぽたりと床に落ちる。
ななしは荒い息を吐き出しながら、肩を激しく上下させた。
「はぁ、ぁ……ッ……」
「……足りませんか? まだまだお返しできていませんよ」
「なに、を……っ」
「僕を不安にさせた分の、お返しです」
ジェイドの目元に暗い情念が宿っていた。
そのまま再び唇が重なり、舌が絡み合うたびに不躾な水音が密室に響く。
溢れた唾液が顎を伝い、首筋へと滴り落ちていくのをジェイドは気に留める素振りも見せない。
むしろそれを楽しむかのように、さらに深く強く吸い上げた。
「んぁ……ッ! ……息が……っ」
「ダメです。まだ許しません」
隙間から漏れ出る言葉すらも、すぐに次のキスで塗り潰される。
唇と唇が擦れる音と、激しい水音だけが支配する空間で、ななしの意識は真っ白に染まっていった。
◇
どれほどの時間が経ったのだろうか。
ようやく腕の拘束が解かれた時、ななしはその場に崩れ落ちそうになった。
それを支えたのは、ジェイドの強い腕だった。
ななしの口元は自分のものと相手のものが混ざり合った唾液で濡れ、顎から首元まで筋を作って光っている。
胸元も乱れ、何度も吸われた唇は赤く腫れあがっていた。
「……っ」
荒い呼吸を繰り返すななしの頭を、ジェイドはやさしく抱きかかえる。
先ほどまでの乱暴さが嘘のように、丁寧な手つきで髪を撫で下ろした。
「酷い顔ですね、ななしさん」
そう言うジェイド自身の口元も、濡れた跡がくっきりと残っている。
けれどその表情には、どこか満たされたような狂気を含んだ満足感が漂っていた。
「だれ、の……せいで……っ」
「こうでもしないと貴方は僕だけを見ようとしてくれないでしょう?」
「そんなこと……、わたしは、ジェイド先輩のこと……」
「僕は欲張りですから、言葉だけでは信用できません」
「だからって……」
「貴方の視線も、吐息も、声も、すべて僕のもので満たしたい」
ジェイドの指先が、ななしの濡れた顎をぬぐった。
そしてその指を自分の唇へと運び、小さく舌を覗かせて舐めとる。
その仕草があまりにも妖艶で、ななしはゾクりと背筋を凍らせた。
「……まだ、足りませんね」
「え……っ、あ……」
「もう一度、いいですね?」
拒否の言葉を紡ぐ間もなく再び視界が塞がれた。
重ねられた唇から侵入してくる温度に、もう抗う力は残っていない。
舌が絡み合い、何度も深く吸い上げられるたびに、体が内側から溶けていくような感覚に襲われる。
溢れ出る唾液が二人の隙間からこぼれ落ち、胸元を濡らしていく。
「んっ……ふぁ、ぁ……っ」
「もっと僕にすべてを委ねてください」
囁く声さえ、次第に頭の奥でぼやけていった。
「ジェイド……先輩……っ」
無意識に漏れた呼び名に、ジェイドの動きが一瞬止まった。
直後、今まで以上の力で引き寄せられ、骨が軋むほどの抱擁とともに唇を塞がれる。
「……狡い人だ。そんな声を出されたら、本当に壊したくなってしまう」
途切れ途切れの会話も、次第に水音の中に没していく。
逃げ場のない腕の中で、ななしはただジェイドから与えられる過剰なほどの熱と過激な愛を受け止め続けるしかなかった。
揺れる水底のような部屋の中で、二人の荒い息遣いと湿った水音だけがいつまでも重なり続けていた。
