サバナクロー
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「……随分、楽しそうだったな」
背後からかけられた声に、ななしは振り返った。
そこにいたレオナは、いつものように気だるそうな顔をしている。
けれど、その声だけは普段より低かった。
「レオナさん」
「何だよ、その顔」
「え?」
「随分仲良く話してたじゃねぇか」
ななしは少しだけ目を瞬かせた。
「少し話をしていただけです」
「へぇ」
「本当ですよ」
「別に疑ってるとは言ってねぇ」
そう言いながら、レオナは視線を逸らした。
いつもなら軽く受け流すはずのレオナが、今日は視線を合わせようとしなかった。
「もしかして……嫉妬してるんですか?」
その言葉にレオナの眉がわずかに動く。
「は?」
「違いました?」
「……お前な」
「違うなら、そう言ってください」
レオナはすぐには答えなかった。
いつものように笑って誤魔化すかと思ったが、視線を落としたまま黙り込む。
「……腹が立ってんだよ」
「何にですか?」
「お前に」
「わたし?」
「ああ」
レオナは壁に背を預けたまま深く息を吐いた。
「他の奴にあんな顔見せてんじゃねぇよ」
「どんな顔ですか」
「楽しそうな顔」
「レオナさん」
「分かってる。くだらねぇって思ってんだろ」
「思ってません」
すぐに返すと、レオナは少しだけ驚いたようにこちらを見る。
しばらく沈黙が流れた。
いつもなら相手をからかうような余裕がある人なのに、今はその余裕が見えなかった。
◇
「レオナさん」
名前を呼ぶとレオナの視線が戻ってくる。
「わたしが誰と話していても、最後に隣にいるのはレオナさんです」
「……」
「それじゃ駄目ですか?」
「そういうところだ」
「え?」
「そうやって俺の逃げ道を塞いでくる」
「何か変なこと言いました?」
「変じゃねぇから困ってんだよ」
レオナが近づく。
一歩、また一歩。
距離が縮まるたびに、いつもの余裕のある雰囲気が崩れていくのが分かった。
「……俺がどれだけ我慢してたと思ってる」
「我慢?」
「お前が他の奴と笑って話してるところを見るたびにな」
「レオナさん」
「名前呼ぶだけか?」
「じゃあ、どうしたらいいんですか」
その問いにレオナは少し黙った。
そして、低い声で言った。
「俺だけ見ろ」
「……」
「今だけでいい」
思わず返事が遅れた。
そんな言葉をレオナの口から聞くとは思わなかった。
「見てますよ」
「……」
「ずっと」
その瞬間、レオナの表情が変わった。
「本当に、敵わねぇな」
小さく呟いた直後、レオナの手がななしの腕を取った。
両腕を掴まれ、逃げ道を塞ぐような距離まで近づかれる。
けれど、その手には迷いがあった。
「嫌なら言え」
「……」
「今なら止められる」
いつもの強引さではなく、確かめるような声だった。
ななしが首を横に振るとレオナは目を細める。
「後悔するぞ」
「しません」
「本当か?」
「はい」
返事を聞いた瞬間、レオナは顔を近づけた。
触れるだけだったはずの口づけは、すぐに深くなる。
いつもの余裕のある彼からは想像できないほど、呼吸が乱れていた。
「……レオナさん」
名前を呼ぶと、一度だけ離れる。
「何だ」
「そんなに不安だったんですか」
「……うるせぇ」
「図星ですね」
「お前な」
呆れたように言うのに手は離れない。
「お前のことになると、全部狂う」
「……」
「他の奴に取られるかもしれねぇって考えたら、余裕なんかなくなる」
その言葉に、胸が締め付けられる。
レオナはいつも強くて、何でも分かっているように見えた。
でも今目の前にいる彼は違う。
隠していた気持ちをそのまま見せている。
「レオナさん」
「何だ」
「ちゃんと隣にいますよ」
しばらく見つめ合う。
やがて、レオナは小さく笑った。
「本当に調子狂うな、お前」
「すみません」
「謝るな」
「じゃあ……」
「ただ」
「はい」
「もう少し俺を安心させろ」
「どうしたらいいですか?」
「分かってるくせに聞くな」
そう言って、今度はさっきより優しく口づける。
焦るようなものではなく、確かめるようなものだった。
◇
「明日になったら、またいつものレオナさんに戻ってるんですか?」
「当たり前だろ」
「本当に?」
「何だ、その疑いの目は」
「今日のレオナさん、珍しかったので」
「忘れろ」
「無理です」
「……」
「だって嬉しかったから」
その言葉にレオナさんは目を逸らす。
「そういうこと平気で言うから困るんだよ」
「困ってますか?」
「困ってる」
「嫌ですか?」
「嫌なら、とっくに離れてる」
「……レオナさん」
「今度は何だ」
「好きです」
「……」
「聞こえました?」
「聞こえてる」
「ならよかったです」
「お前、本当に俺を困らせるのが上手いな」
そう言いながら、レオナは少しだけ表情を緩めた。
「覚えとけ」
「何をですか?」
「俺が嫉妬するくらい、お前が大事だってこと」
「はい」
「返事が軽い」
「だって分かってますから」
「生意気言うようになったな」
「レオナさんのせいです」
「俺のせい?」
「はい」
その答えに、レオナは小さく笑う。
「……まあいい」
「許してくれるんですか?」
「最初から怒ってねぇよ」
「でも嫉妬してた」
「それは否定しねぇ」
「素直ですね」
「今日だけだ」
「じゃあ、覚えておきます」
「忘れろって言っただろ」
そんな会話をしながらも、レオナは繋いだ手を離さなかった。
そしてななしは、もう一度彼の名前を呼ぶ。
「レオナさん」
「何だ」
「大好きです」
「……俺もだ」
その返事は小さかったが、確かに届いた。
背後からかけられた声に、ななしは振り返った。
そこにいたレオナは、いつものように気だるそうな顔をしている。
けれど、その声だけは普段より低かった。
「レオナさん」
「何だよ、その顔」
「え?」
「随分仲良く話してたじゃねぇか」
ななしは少しだけ目を瞬かせた。
「少し話をしていただけです」
「へぇ」
「本当ですよ」
「別に疑ってるとは言ってねぇ」
そう言いながら、レオナは視線を逸らした。
いつもなら軽く受け流すはずのレオナが、今日は視線を合わせようとしなかった。
「もしかして……嫉妬してるんですか?」
その言葉にレオナの眉がわずかに動く。
「は?」
「違いました?」
「……お前な」
「違うなら、そう言ってください」
レオナはすぐには答えなかった。
いつものように笑って誤魔化すかと思ったが、視線を落としたまま黙り込む。
「……腹が立ってんだよ」
「何にですか?」
「お前に」
「わたし?」
「ああ」
レオナは壁に背を預けたまま深く息を吐いた。
「他の奴にあんな顔見せてんじゃねぇよ」
「どんな顔ですか」
「楽しそうな顔」
「レオナさん」
「分かってる。くだらねぇって思ってんだろ」
「思ってません」
すぐに返すと、レオナは少しだけ驚いたようにこちらを見る。
しばらく沈黙が流れた。
いつもなら相手をからかうような余裕がある人なのに、今はその余裕が見えなかった。
◇
「レオナさん」
名前を呼ぶとレオナの視線が戻ってくる。
「わたしが誰と話していても、最後に隣にいるのはレオナさんです」
「……」
「それじゃ駄目ですか?」
「そういうところだ」
「え?」
「そうやって俺の逃げ道を塞いでくる」
「何か変なこと言いました?」
「変じゃねぇから困ってんだよ」
レオナが近づく。
一歩、また一歩。
距離が縮まるたびに、いつもの余裕のある雰囲気が崩れていくのが分かった。
「……俺がどれだけ我慢してたと思ってる」
「我慢?」
「お前が他の奴と笑って話してるところを見るたびにな」
「レオナさん」
「名前呼ぶだけか?」
「じゃあ、どうしたらいいんですか」
その問いにレオナは少し黙った。
そして、低い声で言った。
「俺だけ見ろ」
「……」
「今だけでいい」
思わず返事が遅れた。
そんな言葉をレオナの口から聞くとは思わなかった。
「見てますよ」
「……」
「ずっと」
その瞬間、レオナの表情が変わった。
「本当に、敵わねぇな」
小さく呟いた直後、レオナの手がななしの腕を取った。
両腕を掴まれ、逃げ道を塞ぐような距離まで近づかれる。
けれど、その手には迷いがあった。
「嫌なら言え」
「……」
「今なら止められる」
いつもの強引さではなく、確かめるような声だった。
ななしが首を横に振るとレオナは目を細める。
「後悔するぞ」
「しません」
「本当か?」
「はい」
返事を聞いた瞬間、レオナは顔を近づけた。
触れるだけだったはずの口づけは、すぐに深くなる。
いつもの余裕のある彼からは想像できないほど、呼吸が乱れていた。
「……レオナさん」
名前を呼ぶと、一度だけ離れる。
「何だ」
「そんなに不安だったんですか」
「……うるせぇ」
「図星ですね」
「お前な」
呆れたように言うのに手は離れない。
「お前のことになると、全部狂う」
「……」
「他の奴に取られるかもしれねぇって考えたら、余裕なんかなくなる」
その言葉に、胸が締め付けられる。
レオナはいつも強くて、何でも分かっているように見えた。
でも今目の前にいる彼は違う。
隠していた気持ちをそのまま見せている。
「レオナさん」
「何だ」
「ちゃんと隣にいますよ」
しばらく見つめ合う。
やがて、レオナは小さく笑った。
「本当に調子狂うな、お前」
「すみません」
「謝るな」
「じゃあ……」
「ただ」
「はい」
「もう少し俺を安心させろ」
「どうしたらいいですか?」
「分かってるくせに聞くな」
そう言って、今度はさっきより優しく口づける。
焦るようなものではなく、確かめるようなものだった。
◇
「明日になったら、またいつものレオナさんに戻ってるんですか?」
「当たり前だろ」
「本当に?」
「何だ、その疑いの目は」
「今日のレオナさん、珍しかったので」
「忘れろ」
「無理です」
「……」
「だって嬉しかったから」
その言葉にレオナさんは目を逸らす。
「そういうこと平気で言うから困るんだよ」
「困ってますか?」
「困ってる」
「嫌ですか?」
「嫌なら、とっくに離れてる」
「……レオナさん」
「今度は何だ」
「好きです」
「……」
「聞こえました?」
「聞こえてる」
「ならよかったです」
「お前、本当に俺を困らせるのが上手いな」
そう言いながら、レオナは少しだけ表情を緩めた。
「覚えとけ」
「何をですか?」
「俺が嫉妬するくらい、お前が大事だってこと」
「はい」
「返事が軽い」
「だって分かってますから」
「生意気言うようになったな」
「レオナさんのせいです」
「俺のせい?」
「はい」
その答えに、レオナは小さく笑う。
「……まあいい」
「許してくれるんですか?」
「最初から怒ってねぇよ」
「でも嫉妬してた」
「それは否定しねぇ」
「素直ですね」
「今日だけだ」
「じゃあ、覚えておきます」
「忘れろって言っただろ」
そんな会話をしながらも、レオナは繋いだ手を離さなかった。
そしてななしは、もう一度彼の名前を呼ぶ。
「レオナさん」
「何だ」
「大好きです」
「……俺もだ」
その返事は小さかったが、確かに届いた。
