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昼休みの終わり際だった。
「ななし!」
遠くから聞こえた声に振り返る。
手を振りながら駆けてくる姿はひとつしかない。
「カリム先輩」
「見つけた! 探したんだぞ」
「探した?」
「ああ。授業がはじまる前に話したかったんだ」
「急ぎの用事ですか?」
「んー……」
カリムは少し考えてから笑った。
「急ぎじゃない!」
「じゃあなんですか?」
「顔見たかった!」
「理由になってませんよ」
「そうか?」
「そうです」
けらけら笑うカリムの姿につられてななしも口元が緩む。
その瞬間だった。
「……またそれだ」
「え?」
「その顔」
「どの顔ですか?」
「今の」
首を傾げる。
カリムはどこか腑に落ちないといった様子で小さく唇を尖らせた。
「最近さ、お前オレ見るとよく笑うよな」
「悪いことですか?」
「悪くない!」
即答だった。
「悪くないけどさ」
「けど?」
「……他のやつにも同じ顔してるだろ?」
「しますけど」
「するのかよ!」
「え?」
「いや、するよな普通!」
自分で言って自分で納得している。
「おかしいなあ」
「何がですか」
「オレだけだと思ってた」
「そんなわけないじゃないですか」
「だよなー!」
大きく笑い、そのあと小さく呟いた。
「でもさ」
「?」
「オレだけだったら嬉しかったかも」
◇
「ななし!」
「またですか」
「まただ!」
「今日は何回目です?」
「三回目!」
「覚えてるんですね……」
放課後。
廊下で待ち伏せしていたカリムは満足そうに頷いた。
「三回しか会ってない」
「十分多いと思いますけど」
「足りないな!」
さらりと言う。
「授業別だったし」
「仕方ないですよ」
「昼飯も別だったし」
「ジャミル先輩と食べてたんじゃ」
「食べてた!」
「じゃあいいじゃないですか」
「よくない」
珍しく即答だった。
「……なんでですか?」
「なんでだろうな?」
カリムは腕を組む。
「前はこんなこと思わなかったんだけどさ」
「はい」
「最近、お前見かけると話したくなる」
「ありがとうございます」
「見かけないと探したくなる」
「それはちょっと申し訳ないです」
「他のやつと話してると割り込みたくなる」
「それはちょっと……」
「だから我慢してる!」
胸を張る。
「偉いだろ!」
「褒めていいんですかね」
「褒めてくれ!」
「えらいです」
「だろ?」
満足そうな顔。
けれど――
「……でも変なんだよな」
「何がです?」
「イライラするんだ」
「イライラ?」
「お前が笑ってると嬉しい」
「はい」
「でも相手がオレじゃないとなんか変な感じする」
「……」
「変だろ?」
「そうですね」
「病気かな」
「違うと思います」
「ジャミルにも聞いたんだ」
「なんて言われたんですか」
「『自分で考えろ』って言われた!」
「それはそうかもしれません」
「ひどいよな!」
全然傷ついていない声だった。
◇
「カリム先輩?」
「ん?」
「さっきから静かですね」
「考え事してる」
「珍しいですね」
「ひどくないか!?」
「冗談です」
「今笑ったな」
「笑いました」
「……まただ」
「?」
「その顔」
カリムが眉を寄せる。
「それ、好きなんだよなあ」
「わたしが笑う顔ですか?」
「ああ」
「ありがとうございます」
「でも困る」
「困る?」
「オレ以外にも見せてるだろ」
「そうですね」
「そっかあ……」
納得していない顔だった。
「オレだけにしてって言ったら困るか?」
「かなり」
「だよな!」
カリムは笑ったあと小さく息を吐いた。
「でも思うんだよ」
「……」
「全部オレのだったらいいのにって」
「カリム先輩」
「ななしの笑顔も楽しそうな声も」
「……」
「オレを見つけた時の顔も」
視線が合う。
いつもは底抜けに明るい瞳が、今はひどく深い色をしているようにみえた。
「他のやつに向けるやつも全部、買い占められたらいいのにな」
冗談みたいな口調。
なのに目だけが真剣だった。
◇
「ジャミル先輩に相談したんです」
「なんて?」
「最近カリム先輩が変なんですって」
「オレの話!?」
「はい」
「なんて言ってた?」
「心当たりないか本人に聞いてみろって」
「ない!」
「即答ですね」
「ないな!」
「本当に?」
「……たぶん」
「たぶんなんですね」
カリムは机に頬を乗せる。
少し尖った唇から、形にならない吐息が漏れた。
「なあ」
「はい」
「好きってなんだと思う?」
「急ですね」
「ジャミルにも聞いた」
「答えてくれました?」
「自分で考えろって」
「二回目ですか」
「二回目だ」
真剣な顔だった。
「友達と食べ物の好きは違うだろ?」
「違いますね」
「オレわかんないんだよ」
天井を見上げる。
「一緒にいると楽しいやつはたくさんいる」
「はい」
「心配になるやつもいる」
「はい」
「でも、お前はなんか違う」
「……」
「会えないと変な感じするし、誰かといると気になるし」
「……」
「楽しそうなら嬉しいのに、相手がオレじゃないと面白くない」
困ったように笑う。
「オレ、嫌なやつかな」
「そんなことないです」
「ほんとか?」
「はい」
「じゃあ何なんだろうな」
「……」
「なあ、ななし」
「はい」
「お前はわかるか?」
少しだけ迷う。
「わかる人もいれば」
「うん」
「気づくまで時間がかかる人もいると思います」
「オレ後者?」
「たぶん」
「そっかあ」
納得した顔をする。
「じゃあ待つか」
「何をです?」
「わかる日を」
◇
数日後。
「ななし!」
「カリム先輩」
「聞いてくれ!」
「どうしました?」
「お前が他のやつと話してるの見た!」
「見たんですか」
「すげえモヤモヤした!」
「報告ありがとうございます」
「それでな、オレ考えたんだ」
「はい」
「たぶん友達にする気持ちじゃない!」
「進展しましたね」
「だろ!?」
「何かわかったんですか?」
「いや全然!」
「全然なんですね」
「でも友達とは違う!」
「なるほど」
「ジャミルに言ったら呆れた顔された」
「想像できます」
「失礼だぞ!」
大笑いする。
そのあと――
「なあ」
「はい」
「お前は誰か好きなやついるのか?」
「どうしてです?」
「気になる」
「秘密です」
「えー!」
「秘密です」
「教えてくれよ!」
「嫌です」
「なんでだ!」
「秘密だからです」
むっとした顔。
「……いたら嫌だな」
「え?」
「好きなやつ」
「どうしてですか」
「そいつばっか見るだろ」
「まあ」
「そいつばっか笑うだろ」
「たぶん」
「嫌だな」
素直すぎる答えだった。
「オレの方見ろよって思う」
「先輩」
「おかしいか?」
「少し」
「だよなあ」
カリムは頭を抱える。
◇
「カリム先輩」
「ん?」
「今日は元気ないですね」
「バレたか」
「わかりますよ」
「……お前さ」
「はい」
「今日三回他のやつに笑った」
「数えてたんですか?」
「数えた」
「怖いです」
「自分でも思うぜ!」
勢いよく頷く。
「一回目は朝」
「はい」
「二回目は昼」
「はい」
「三回目はさっき」
「詳しいですね」
「全部見た」
「暇なんですか?」
「暇じゃない!」
「じゃあなんで」
「目に入るんだよ!」
言い切ったあと。
「あ」
「?」
「これ告白みたいだな」
「……」
「違うか?」
「どうでしょう」
カリムが頭を掻く。
「でもさ、やっぱお前が笑うたび嬉しいんだ」
「……」
「嬉しいのに相手がオレじゃないと少し悔しい」
視線が落ちる。
「変だよな」
「変じゃないかもしれません」
「ほんとか?」
「はい」
「じゃあ」
カリムが顔を上げる。
「答え知ってるのか?」
「たぶん」
「教えてくれ!」
「嫌です」
「なんで!?」
「自分で気づいた方がいいこともあります」
「ジャミルと同じこと言う!」
「気が合いますね」
「よくない!」
◇
「わかった!」
翌日。
勢いよく現れたカリムが宣言した。
「何がです?」
「オレ、お前のこと好きだ!」
あまりにも真っ直ぐだった。
「……」
「あれ? 反応薄くないか?」
「びっくりしてます」
「そっか!」
「どうしてわかったんですか?」
「昨日考えた」
「はい」
「お前が誰かと仲良くしてるの嫌だ」
「はい」
「でもお前が楽しいのは嬉しい」
「はい」
「じゃあオレが一番近くにいればいいんじゃないか?」
「結論がすごいですね」
「名案だろ!」
「どうでしょう」
「それに」
少しだけ声が小さくなる。
「お前が困ってたら助けたい」
「……」
「笑ってたら嬉しいし、会えたら嬉しい」
「……」
「でも会えないと寂しい」
言葉を探すように視線が揺れる。
「たぶんこれ好きだ」
「たぶんなんですね」
「初めてだからな!」
カリムは胸を張る。
「保証はない!」
「堂々と言うことじゃないです」
「でも嘘じゃない」
その言葉に迷いは一切なかった。
まっすぐに向けられる熱に心臓が跳ねる。
「オレさ」
「はい」
「お前の笑顔好きなんだ」
「……」
「だから他のやつに向けるたび惜しくなる」
「惜しい?」
「もったいないって思う」
困ったように笑う。
「全部オレがもらえたらいいのにって」
「欲張りですね」
「ああ」
即答だった。
「オレは欲張りだ」
「否定しないんですね」
「しない」
真っ直ぐにこちらを見る。
「でも無理なのもわかってる」
「……」
「お前はお前だし、オレだけ見てろなんて言えない」
カリムは少しだけ眉を下げる。
「でも、できるなら一番になりたい」
「カリム先輩」
「ん?」
「それは結構立派な告白ですよ」
「ほんとか!?」
「はい」
「そうか!」
カリムが嬉しそうに笑う。
「じゃあ返事待ってていいか?」
「急がないんですか?」
「急ぐ!」
「どっちですか」
「急ぐけど待つ!」
「難しいですね」
「難しいな!」
二人で笑う。
そのあと――
「なあななし」
「はい」
「次、笑う時さ」
「はい」
「できれば少しだけオレにもくれ」
「……」
「独り占めは無理でもいい」
「……」
「少し多めに欲しい」
照れくさそうに笑う。
「オレ、頑張るから」
「何をです?」
「一番近くの席を取る」
「席取りですか」
「大事だぞ」
「そうですね」
「だから、予約していいか?」
返事の代わりに笑う。
その顔を見て、カリムは少し目を見開いたあと呟く。
「……やっぱり好きだな」
誰に聞かせるでもなく呟いた。
今度は迷いのない声だった。
「ななし!」
遠くから聞こえた声に振り返る。
手を振りながら駆けてくる姿はひとつしかない。
「カリム先輩」
「見つけた! 探したんだぞ」
「探した?」
「ああ。授業がはじまる前に話したかったんだ」
「急ぎの用事ですか?」
「んー……」
カリムは少し考えてから笑った。
「急ぎじゃない!」
「じゃあなんですか?」
「顔見たかった!」
「理由になってませんよ」
「そうか?」
「そうです」
けらけら笑うカリムの姿につられてななしも口元が緩む。
その瞬間だった。
「……またそれだ」
「え?」
「その顔」
「どの顔ですか?」
「今の」
首を傾げる。
カリムはどこか腑に落ちないといった様子で小さく唇を尖らせた。
「最近さ、お前オレ見るとよく笑うよな」
「悪いことですか?」
「悪くない!」
即答だった。
「悪くないけどさ」
「けど?」
「……他のやつにも同じ顔してるだろ?」
「しますけど」
「するのかよ!」
「え?」
「いや、するよな普通!」
自分で言って自分で納得している。
「おかしいなあ」
「何がですか」
「オレだけだと思ってた」
「そんなわけないじゃないですか」
「だよなー!」
大きく笑い、そのあと小さく呟いた。
「でもさ」
「?」
「オレだけだったら嬉しかったかも」
◇
「ななし!」
「またですか」
「まただ!」
「今日は何回目です?」
「三回目!」
「覚えてるんですね……」
放課後。
廊下で待ち伏せしていたカリムは満足そうに頷いた。
「三回しか会ってない」
「十分多いと思いますけど」
「足りないな!」
さらりと言う。
「授業別だったし」
「仕方ないですよ」
「昼飯も別だったし」
「ジャミル先輩と食べてたんじゃ」
「食べてた!」
「じゃあいいじゃないですか」
「よくない」
珍しく即答だった。
「……なんでですか?」
「なんでだろうな?」
カリムは腕を組む。
「前はこんなこと思わなかったんだけどさ」
「はい」
「最近、お前見かけると話したくなる」
「ありがとうございます」
「見かけないと探したくなる」
「それはちょっと申し訳ないです」
「他のやつと話してると割り込みたくなる」
「それはちょっと……」
「だから我慢してる!」
胸を張る。
「偉いだろ!」
「褒めていいんですかね」
「褒めてくれ!」
「えらいです」
「だろ?」
満足そうな顔。
けれど――
「……でも変なんだよな」
「何がです?」
「イライラするんだ」
「イライラ?」
「お前が笑ってると嬉しい」
「はい」
「でも相手がオレじゃないとなんか変な感じする」
「……」
「変だろ?」
「そうですね」
「病気かな」
「違うと思います」
「ジャミルにも聞いたんだ」
「なんて言われたんですか」
「『自分で考えろ』って言われた!」
「それはそうかもしれません」
「ひどいよな!」
全然傷ついていない声だった。
◇
「カリム先輩?」
「ん?」
「さっきから静かですね」
「考え事してる」
「珍しいですね」
「ひどくないか!?」
「冗談です」
「今笑ったな」
「笑いました」
「……まただ」
「?」
「その顔」
カリムが眉を寄せる。
「それ、好きなんだよなあ」
「わたしが笑う顔ですか?」
「ああ」
「ありがとうございます」
「でも困る」
「困る?」
「オレ以外にも見せてるだろ」
「そうですね」
「そっかあ……」
納得していない顔だった。
「オレだけにしてって言ったら困るか?」
「かなり」
「だよな!」
カリムは笑ったあと小さく息を吐いた。
「でも思うんだよ」
「……」
「全部オレのだったらいいのにって」
「カリム先輩」
「ななしの笑顔も楽しそうな声も」
「……」
「オレを見つけた時の顔も」
視線が合う。
いつもは底抜けに明るい瞳が、今はひどく深い色をしているようにみえた。
「他のやつに向けるやつも全部、買い占められたらいいのにな」
冗談みたいな口調。
なのに目だけが真剣だった。
◇
「ジャミル先輩に相談したんです」
「なんて?」
「最近カリム先輩が変なんですって」
「オレの話!?」
「はい」
「なんて言ってた?」
「心当たりないか本人に聞いてみろって」
「ない!」
「即答ですね」
「ないな!」
「本当に?」
「……たぶん」
「たぶんなんですね」
カリムは机に頬を乗せる。
少し尖った唇から、形にならない吐息が漏れた。
「なあ」
「はい」
「好きってなんだと思う?」
「急ですね」
「ジャミルにも聞いた」
「答えてくれました?」
「自分で考えろって」
「二回目ですか」
「二回目だ」
真剣な顔だった。
「友達と食べ物の好きは違うだろ?」
「違いますね」
「オレわかんないんだよ」
天井を見上げる。
「一緒にいると楽しいやつはたくさんいる」
「はい」
「心配になるやつもいる」
「はい」
「でも、お前はなんか違う」
「……」
「会えないと変な感じするし、誰かといると気になるし」
「……」
「楽しそうなら嬉しいのに、相手がオレじゃないと面白くない」
困ったように笑う。
「オレ、嫌なやつかな」
「そんなことないです」
「ほんとか?」
「はい」
「じゃあ何なんだろうな」
「……」
「なあ、ななし」
「はい」
「お前はわかるか?」
少しだけ迷う。
「わかる人もいれば」
「うん」
「気づくまで時間がかかる人もいると思います」
「オレ後者?」
「たぶん」
「そっかあ」
納得した顔をする。
「じゃあ待つか」
「何をです?」
「わかる日を」
◇
数日後。
「ななし!」
「カリム先輩」
「聞いてくれ!」
「どうしました?」
「お前が他のやつと話してるの見た!」
「見たんですか」
「すげえモヤモヤした!」
「報告ありがとうございます」
「それでな、オレ考えたんだ」
「はい」
「たぶん友達にする気持ちじゃない!」
「進展しましたね」
「だろ!?」
「何かわかったんですか?」
「いや全然!」
「全然なんですね」
「でも友達とは違う!」
「なるほど」
「ジャミルに言ったら呆れた顔された」
「想像できます」
「失礼だぞ!」
大笑いする。
そのあと――
「なあ」
「はい」
「お前は誰か好きなやついるのか?」
「どうしてです?」
「気になる」
「秘密です」
「えー!」
「秘密です」
「教えてくれよ!」
「嫌です」
「なんでだ!」
「秘密だからです」
むっとした顔。
「……いたら嫌だな」
「え?」
「好きなやつ」
「どうしてですか」
「そいつばっか見るだろ」
「まあ」
「そいつばっか笑うだろ」
「たぶん」
「嫌だな」
素直すぎる答えだった。
「オレの方見ろよって思う」
「先輩」
「おかしいか?」
「少し」
「だよなあ」
カリムは頭を抱える。
◇
「カリム先輩」
「ん?」
「今日は元気ないですね」
「バレたか」
「わかりますよ」
「……お前さ」
「はい」
「今日三回他のやつに笑った」
「数えてたんですか?」
「数えた」
「怖いです」
「自分でも思うぜ!」
勢いよく頷く。
「一回目は朝」
「はい」
「二回目は昼」
「はい」
「三回目はさっき」
「詳しいですね」
「全部見た」
「暇なんですか?」
「暇じゃない!」
「じゃあなんで」
「目に入るんだよ!」
言い切ったあと。
「あ」
「?」
「これ告白みたいだな」
「……」
「違うか?」
「どうでしょう」
カリムが頭を掻く。
「でもさ、やっぱお前が笑うたび嬉しいんだ」
「……」
「嬉しいのに相手がオレじゃないと少し悔しい」
視線が落ちる。
「変だよな」
「変じゃないかもしれません」
「ほんとか?」
「はい」
「じゃあ」
カリムが顔を上げる。
「答え知ってるのか?」
「たぶん」
「教えてくれ!」
「嫌です」
「なんで!?」
「自分で気づいた方がいいこともあります」
「ジャミルと同じこと言う!」
「気が合いますね」
「よくない!」
◇
「わかった!」
翌日。
勢いよく現れたカリムが宣言した。
「何がです?」
「オレ、お前のこと好きだ!」
あまりにも真っ直ぐだった。
「……」
「あれ? 反応薄くないか?」
「びっくりしてます」
「そっか!」
「どうしてわかったんですか?」
「昨日考えた」
「はい」
「お前が誰かと仲良くしてるの嫌だ」
「はい」
「でもお前が楽しいのは嬉しい」
「はい」
「じゃあオレが一番近くにいればいいんじゃないか?」
「結論がすごいですね」
「名案だろ!」
「どうでしょう」
「それに」
少しだけ声が小さくなる。
「お前が困ってたら助けたい」
「……」
「笑ってたら嬉しいし、会えたら嬉しい」
「……」
「でも会えないと寂しい」
言葉を探すように視線が揺れる。
「たぶんこれ好きだ」
「たぶんなんですね」
「初めてだからな!」
カリムは胸を張る。
「保証はない!」
「堂々と言うことじゃないです」
「でも嘘じゃない」
その言葉に迷いは一切なかった。
まっすぐに向けられる熱に心臓が跳ねる。
「オレさ」
「はい」
「お前の笑顔好きなんだ」
「……」
「だから他のやつに向けるたび惜しくなる」
「惜しい?」
「もったいないって思う」
困ったように笑う。
「全部オレがもらえたらいいのにって」
「欲張りですね」
「ああ」
即答だった。
「オレは欲張りだ」
「否定しないんですね」
「しない」
真っ直ぐにこちらを見る。
「でも無理なのもわかってる」
「……」
「お前はお前だし、オレだけ見てろなんて言えない」
カリムは少しだけ眉を下げる。
「でも、できるなら一番になりたい」
「カリム先輩」
「ん?」
「それは結構立派な告白ですよ」
「ほんとか!?」
「はい」
「そうか!」
カリムが嬉しそうに笑う。
「じゃあ返事待ってていいか?」
「急がないんですか?」
「急ぐ!」
「どっちですか」
「急ぐけど待つ!」
「難しいですね」
「難しいな!」
二人で笑う。
そのあと――
「なあななし」
「はい」
「次、笑う時さ」
「はい」
「できれば少しだけオレにもくれ」
「……」
「独り占めは無理でもいい」
「……」
「少し多めに欲しい」
照れくさそうに笑う。
「オレ、頑張るから」
「何をです?」
「一番近くの席を取る」
「席取りですか」
「大事だぞ」
「そうですね」
「だから、予約していいか?」
返事の代わりに笑う。
その顔を見て、カリムは少し目を見開いたあと呟く。
「……やっぱり好きだな」
誰に聞かせるでもなく呟いた。
今度は迷いのない声だった。
